タイムリープした元プロゲーマーの俺、人生やり直しでヒロインと親友になろうとした結果、幼馴染みモブ男からヒロインの心を奪ってしまった件~公爵君のラブコメ~
第34話 親友への侮辱は許さない。無神経なモブ男へ絶縁状を叩き付ける件
第34話 親友への侮辱は許さない。無神経なモブ男へ絶縁状を叩き付ける件
鋭理は、胸の中を冷たい風が吹き抜けていくように感じた。
目の前の青年がどうでもよくなってくる。
しかし、親友への侮辱を放っておくわけにはいかなかった。航平が本心から言っているのか、確かめなければならない。
「コウヘイ。手を出せ」
「な、何だよ急に」
「わからないか? 私は言葉より肉体の方を信じる。お前の言葉が本心か、確かめさせろ」
「そんなことしてるから、鋭理は騙されるんだよ」
航平は口を尖らせ、手を触らせなかった。相変わらず一方的に自分の希望をまくし立てる。
「とにかく、詩織さんを天宮から守ってくれ。あいつは暦深や福音をあっという間にたらし込んでる。放っておいたら詩織さんにも手を出すに決まってる。天宮は本当に危険なんだよ」
「ミナトが、危険?」
「鋭理、いつも言ってるじゃないか。家族が大事だって。だったら、天宮から遠ざけるべきだ。だいたい、高校入ったばっかでひとり暮らしなんて、絶対ワケありだろ。どうせマンションに夜な夜な女を連れ込んでるんだぜ。バレやしないからな。そのうち、お前だって連れ込まれるぞ。そうなっても――」
バンッ、と鋭理はコンクリートの壁を叩く。
航平への苛立ちは、完全に怒りへと変わっていた。
「ミナトはそんな男じゃない。彼は私の親友だ。侮辱するのはお前でも許さないぞ、コウヘイ!」
「な、何だよ。何でだよ。俺、何も間違ったこと言ってないだろ? ……ない、よな?」
「度し難いぞ。まだ言うか」
薄暗闇の中でもはっきりとわかる、怒りによる紅潮だった。その迫力に気圧されて、航平は尻餅をついた。
鋭理は指を突きつけた。
「この際、はっきり言っておく。私にとって、お前こそが危険だ、コウヘイ! 親友を侮辱し、私が大切にしている家族を侮辱した。お前こそ、姉さんに近づかせるわけにはいかない」
「はぁ!? 待ってくれよ、何でそうなるんだ!? 俺、詩織さんには何も悪いことしてないじゃないか!」
「私の肉体感覚が、お前を拒絶しろと言ってる」
「お、落ち着け。落ち着けって鋭理。お前がそんなこと言い出したら、俺、詩織さんに気持ちよく会いにいけなくなるじゃないか。どういう口実でお前んちに行けば――」
「だったら、もう来るな」
「鋭理! 冗談は止してくれって。な?」
鋭理は唇を噛みしめた。
これほど強く感情を露わにしているのに、航平には伝わっていない。彼はただ狼狽えているだけで、反省している様子がまったくなかったのだ。
(歯がゆい。襟首をつかみ上げてやりたいくらいだ)
拳をぎゅっと握りしめる。
鋭理の全身に力が込められるのを見て、ようやく航平は「ヤバい」と思ったようだ。立ち上がって後ずさる。
「とにかく、頼んだからな! お前ならわかってくれると信じてるぞ! じゃあな!」
一方的にそう告げ、航平は踵を返し、走り去っていった。まさに逃走である。
「何が『お前ならわかってくれると信じてる』だ。私たちを一番信じていないのはコウヘイ、お前だろう」
憤然と呟いた鋭理は、兄の智哉が戻ってきたことにも気付かず、仁王立ちしていた。
肩を怒らせる妹を見て、智哉は深く詮索しなかった。代わりに、落ち着かせるように背中を何度か軽く叩いた。言葉よりも身体で伝える鋭理の流儀に合わせたのだ。
その後、鋭理は智哉とともに自宅へと戻った。
出迎えた詩織は、鋭理を見るなり、朗らかな笑顔を一変させた。
「何があったの、鋭理。あなたがそんな顔をするなんて」
「何でもない。もう落ち着いた」
「嘘。鏡を見てご覧なさい」
言われて、玄関の壁面に掛けられた鏡を見る。そこには、これまで見たことがないほど険しい表情が映っていて、他ならぬ鋭理自身が驚いた。
智哉が詩織に事情説明している間、鋭理は自室へと戻った。
ひとつ息を吐き、姿見の前に立つ。まだ眉間に深い皺が刻まれた顔を撫でる。
航平の言葉が脳裏に蘇った。
『天宮は本当に危険なんだよ』
『どうせマンションに夜な夜な女を連れ込んでるんだぜ。バレやしないからな』
「やはり、もっと強い態度で臨むべきだった。あのような暴言を許すなんて……すまん、ミナト」
ひとりで呟く。
ここまで強い怒りを誰かに抱いたのは初めてだった。
全身に
もし航平の暴言を湊が聞いていたら、彼は怒っただろう。ならば鋭理は、湊の怒りを共有できたと言っていい。
肉体感覚を至上のものと考える鋭理にとって、それはとても大切な『繋がり』であった。
「私とミナトは特別な繋がりがあるんだ。これほど強く肉体感覚を共有できる相手は、他にいない」
そう呟いたとき、鋭理の怒りは嘘のように収まった。眉間の皺は消え去り、代わりに穏やかな笑みが浮かんだ。
「これからは、ミナトのために私の身体とエネルギーを使おう。コウヘイのことは……もう考えないでいい」
姿見に映る自分に向かって、鋭理は何度も頷いた。
――この日以降、鋭理の航平に対する態度は明らかに変わった。
声をかける機会が減り、一緒に行動することも避けるようになったのだ。
航平の顔をじっと見ることも、肉体接触で航平の内心を察することもやめた。
「な、なあ鋭理。この前のこと、詩織さんには……」
「お前には関係ないだろう。私の大事な家族に関わらないでくれ。不愉快だ」
「ちょ。鋭理、待ってくれよ!」
鋭理――というよりはむしろ、詩織とのつながりを守ろうとして、航平は執拗に迫ってきた。
だが、鋭理は塩対応を貫いた。
それは、航平が『幼稚園以来の幼馴染』から『ただのクラスメイトで他人』になった証であった。
その一方で。
(何だろうな、この感覚は。……焦り? 私が?)
湊との関係を特別だと意識した途端、鋭理は彼の周囲にいる人間を気にするようになった。
特に、暦深や福音が一緒にいるときは、つい湊との距離感を観察してしまう。
(福音とも親友になったと聞いた。おそらく、暦深とも普通の友人関係じゃない。湊も望んだことだ。問題ない。……問題ないはずなのに)
心がざわめく。
落ち着かない。
自分の身体が、思うように動いてくれない気がする。
肉体至上主義の鋭理にとって、それは大きなストレスとなった。
――そして。
心と身体が噛み合わないこの状況が、ひとつの事件を引き起こす。
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