第7話 体育館の片隅で「女子と仲良くなりたい」と叫ぶ湊、絡んできた男性教師にざまぁする件


 湊の表情に、3人の美少女は怪訝そうにした。航平だけが気付かず、機嫌良く話し続ける。


「それにしても暦深、いきなり天宮を公爵呼びはないんじゃないか?」

「どして? いーじゃない、本人がそう呼んでって言ってるんだしさ」

「クラスの反応見ただろ。お前まで変な目で見られるぞ、暦深」

「もう、わかったよ。ごめんね天宮くん。あたしはあの挨拶、良かったと思うよ。ガッツあるって感じ!」

「はいはい。また暦深のいつものお人好しが始まったな。俺がいなきゃ、いつどこで騙されるかわかったもんじゃない。……さてと、そろそろ行こうぜ。暦深、鋭理、福音」


 航平が幼馴染みたちを促し、踵を返す。

 すると、暦深が口を開いた。


「ねえ天宮くん。あたしたちこれから部活説明会に行くんだけどさ。一緒にどう?」

「おい、暦深。マジで誘うのかよ」


 航平が振り返って、少しだけ不満げな顔をする。だがすぐに表情を改め、「まあいいや。一緒に行こうぜ」と湊を誘った。湊は頷いた。


 これは好機だと思う一方、湊はかすかなひっかかりも覚えていた。


(2回目の高校デビュー。だが、タイムリープ前に彼らのようなキラキラした集団がいただろうか?)


 思い出せない。

 ただ、あの頃の湊は心身共に追い詰められていた。暦深たちや航平のことを覚えていないのは、自分の殻に閉じこもっていたかもしれないと思うようにした。


「おい、何してんだ天宮」

「ああ。今行く」


 とりあえず、初期ミッションはそこそこ良い結果で達成できそうだと湊は思った。


 ――部活合同説明会は、体育館で行われた。


『趣味人からその道のプロまで』と担任が言ったとおり、壇上に上がった各部活はどれも個性的で、何より熱意があった。

 設備の整った新しい学校ならではの熱さと勢いだ。


 湊は熱心にメモを取っていた。


「ねえ、どこにするか決めた?」


 興味津々といった様子でメモを覗き込みながら、暦深が尋ねてきた。

 パタンとメモを閉じ、湊は眉間に力を入れた。まるで、絶対に取りたいクレーンゲームの景品を前にしたような真剣さだ。


「いや。けどだいたいの方針は決めた」

「どんな?」

「できるだけ女子の多い部活」

「え?」

「それだけお近づきになるチャンスが多いから」


 大真面目に答えた湊に、暦深はぽかんとする。

 彼女の隣にいた航平がドン引きする。


「女目当てかよ、天宮。お前どうしようもないな」

「百も承知。それでも俺は女子と近づきたい。女子がいる環境じゃなけりゃ、そもそも知り合いにすらなれないんだ」


 蔑みの目を向けてくる航平に対して、湊は頭を下げた。


「相沢、こんな美人と、しかも3人も親しいお前に頼みたい。俺に何かアドバイスをくれないか?」

「アドバイスって……まあ、そうだな。敢えて言えば、がっつかないことかな。自然体が一番だよ。あるがままにってやつ」

「なるほど、自然体か。勉強になる」


 すかさずメモを走らせる湊。頼られたのが嬉しかったらしく、さっきまで軽蔑の態度だった航平が、一転してあれこれと指図し始める。湊はそのひとつひとつに、馬鹿正直に頷いていた。


「あの、天宮君。どうして、そんなに真剣なんですか?」


 4人の一番端っこに立っていた福音が、おずおずと声をかけてきた。


「何だかすごく、焦っているように見えたので……あ! 勘違いだったらごめんなさい」

「いや、千代田は鋭いよ。確かに俺は焦ってる」


 舞台上で続く部活紹介を遠い目で見つめる。


「俺には妹がいるんだ。あいつにはずっと心配と迷惑をかけてきた。だからその分、親友を作って早く安心させてやりたいんだ」

「んー? わっかんねえな。どうして妹さんを安心させるのに親友が必要なんだよ」

「話せば長くなるが……俺はずっと、人付き合いを拒んできたんだ。妹はそんな俺に幻滅したんだと思う。だから親友を作って、『俺にも信頼できる人間ができた』と伝えたいんだ」

「だったら別に女子じゃなくてもいいじゃないか」

「女子の方が妹も接しやすいだろう?」

「お前なあ……」

「あ、天宮君が人付き合いを拒む……? とてもそんな風には見えません」

「そんなことないぞ。現に、この半年間はあてもなく放浪していた。師匠と一緒に山を登ったり」

「ほう。山。いいな、山」


 それまでずっと黙っていた鋭理が急に食いついてきた。「こいつ山登りが趣味なんだよ」と呆れたように航平が言い、「趣味じゃない。生き方だ」と鋭理が不満そうに答えていた。


 湊はその場に土下座した。


「頼む、相沢、久路刻、冴島、千代田! 俺に女の子と仲良くなる方法を教えてくれ!」

「こら、そこ。何をしている」


 近くの壁際に立っていた男性教師が注意してきた。自由な校風の瑞穂学園において、彼は規律重視のスタンスを貫く教師だった。


 周りにいた生徒たちがクスクスと笑う。誰かが湊を指して「あの人、プロを追い出されたんだって」と囁いた。


 教師が湊に近づいてくる。


「お前のことは知っているぞ。1-Aの天宮湊だな。まったく。元プロゲーマーだか何だか知らないが、常識というやつを学ばないから今の体たらくなんじゃないのか?」

「すみません。ですが、俺は真剣です」

「これは先が思いやられるな。家庭環境によほど問題があったと見える」

「……先生。御言葉ですが、家族を悪く言うのはやめていただきたい」

「ふん。いっぱしの大人おとな気取りか。なまじ大人社会で中途半端に揉まれたせいだな」


 ため息をついた教師は、体育館の外を指差した。


「まだ合同説明会の途中だ。邪魔をするなら外に出ろ」

「……」

「なんだ。聞こえなかったか?」

「おい、天宮。なに意地張ってるんだよ」


 辺りを見渡しながら、気まずそうに航平が小声で呼びかける。教師と周囲の生徒たちの視線が自分たちに集中していることに居心地の悪さを感じているようだった。


 3人の少女たちは、じっと湊を見つめている。


 湊はしばらく教師を正面から見返していたが、やがて「失礼しました」と頭を下げた。そして、「わかればいい」と頷いた男性教師を、気合い一発で持ち上げた。

 一瞬、何が起きたのかわからなかった教師は、慌てて叫んだ。


「お、おい! 何をする!?」

「僕も先生も、合同説明会にはお邪魔のようですので、一緒に外で頭を冷やそうと思いまして。お連れしますよ。ふんっ」

「ええい、離せ、離せ!」


 湊が解放すると、男性教師はネクタイを整える仕草をしながら立ち去っていった。


 それを見届けて体育館の外に出ようとしたとき、背中をぽんと叩かれた。暦深だった。


「やるじゃん、天宮くん!」


 

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