第31話 せめてギャップ萌え
リビングに戻ると、そこに安蘭樹さんの姿はなかった。
部屋も見てみたが、そこにもいなかった。
どこに行ったのか、呼び出そうとスマホを見ると、近くのコンビニまで下着を買いに行ったようだ。
つまり、それまではお風呂に入れないということだ。
「姉ちゃんは?」
「コンビニだって」
「まじかよ。こんな雨の中?」
歯磨き以外特にすることがない。そんな歯磨きも、安蘭樹さんが戻ってくるまでに終わってしまった。
この家に残されたのは、もうすでに眠ってしまった妹ちゃんと私の言葉に一々噛み付く面倒なクソガキ。
「姉ちゃんまだかよ。腹減った」
特に何もすることもないから、なんとなしにカレーとハンバーグを温め直し、皿によそってテーブルに置く。
「なんだこれ」
「食べるも捨てるも好きにすればいい」
普段こういう暇な時間は月餅が側にいるから、何もないとなると少々落ち着かない。
別に私は勉強が好きなわけではないから、こういう機会に勉強したいとも思わない。
ゲームはさっきやる事を終わらせた。
今は特に見たい物もない。
何をしようかとぼーっとして、目についた洗濯物にいつの間にか手を伸ばしていた。
出かける前に安蘭樹さんが乱雑に取り込んだ洗濯物。
ずっとそのままにしていたから皺もついている。
アイロンはすぐに見つかったから、皺を伸ばしてから畳んでいく。
「それ自分で洗っといてよ。お弁当とか水筒もあるなら自分で洗っといて。私達はもう終わった。洗い終わったらシンクの水気ちゃんと拭き取るんだよ」
私は洗濯物を片付けながら、返事なんて期待せず、一方的な連絡として伝えた。
「お前、キャラ崩壊しすぎじゃね?」
「は? 何、喧嘩?」
「なんでお前みたいな人を見下して、自分の為に人を働かしていそうな奴がご飯もうめーし家事もできるんだよ⁉︎」
「なんだ、そんなこと。一人で過ごすってなったらそれくらいできなきゃダメでしょ。人に頼むとか情けないこと、この私が許すはずない」
そのあとは特に会話もなく、一人黙々と他人の洗濯物を畳む。安蘭樹さんのあの小柄な体に似合わぬビッグサイズのブラを見つけ、広げて眺めていると、スプーンの置かれた音の後、手が二本伸びてきた。
「何? 邪魔?」
「違うわ! 俺達の洗濯物だ、他人にばかり任せられるか!」
「なに当然のことを誇らしげに。感謝の一つも出てこないのか」
「……ありがとう」
一拍置いて、私は手を下げた。
「何?」
「ありがとう! あと、さっきは嫌なこと言って悪かったな。あと姉ちゃんのそんな風に広げるなよ変態!」
「可愛げないな。あと私は変態じゃない」
「なんだと⁉︎」
「でも、謝れただけいいんじゃない。意地張るだけ無駄だし」
「……その、ブスって言ったのは特に悪かった。怪我とかコンプレックスとか、全然配慮できてなかった」
「いや、私そこ一番気にしてないから」
「そうなのか?」
「あんた自分より小さい人からチビって言われたらどう思う?」
「ありえなさすぎて何とも思わねー。相手にすらしねー」
「それと同じだよ。私がブスだなんて万が一にもありえないからどうでもいい」
洗濯物も畳み終わり、またソファーに戻ろうと立ち上がると手首を掴まれた。
セクハラか?
「そこまで自信あんのに何で顔隠してるんだ?」
「人付き合いが面倒だから」
「そこまで言われると気になんな。俺にだけ見せてよ」
「絶対嫌だ」
なんでさっきまで悪態つけていた奴にだけ見せるんだよ。ありえないでしょうが。
「いいだろ、くうさん俺の全裸見たんだからお互い様だろ」
「だから見てないし見たくもない気持ち悪い」
「気持ち悪いはないだろ⁉︎ 俺結構いい体してるって部員からのお墨付きだぞ!」
「心底どうでもいい」
「そこまで言われると逆に悲しい! ほら見ろ、ちゃんと腹筋割れてるだろ⁉︎ サングラス越しでもちゃんと見えるだろ!」
何がそこまで彼をムキにさせたのか、散々私に変態と言っていたくせに、彼自身が変態へと陥っている。
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