アオハル代理戦争
我惑りろん
第1話
明智夕陽(あけちゆうひ)が殺された。
私のクラスの、カーストトップ。マドンナ的存在だった。とは言えうちは女子校なので、求心力があるという意味の『マドンナ』という訳だが。
ともかく、彼女が死んだ。
部活動後の下校時間を過ぎても帰宅しない、と両親から警察に捜索願が出された。幸い彼女のスマホの電源が入っており、家族のスマホで「スマホを探す」を使用した末、発見に至ったらしい。遺体が発見されたのは深夜23時。それも学校の屋上で。出血なし、薬物の痕跡なし、怪我なし、直前まで思い詰めた様子も、体調不良もなし。原因不明で経緯も不明な彼女の死は、普段親しくしていた仲良しグループの面々を初め、学校全体を驚かせた。
事件から1ヶ月後。明智夕海の席は今も空いたままだった。
「ツヅリ。今日の1限移動教室だって」
8:12、私、田代綴理(たしろつづり)に声がかかる。相手は級友の古城未咲(こじょうみさき)だ。
「あ、そうなんだ。おっけ」
「……ツヅリ、また明智さんの席見てたね」「別に、たまたまそっち向いてただけ」
嘘である。故意だ。そう、明智さんの事件の真相が気になって思いふけっていたのだ。別に推理好きでも頭が切れるわけでもないが、気になってしょうがない。もちろん私も人の子なので知った当初はショッキングだったし、心底お悔やみ申し上げたが。だって、なんで、私みたいな日陰者じゃなくて、よりにもよって最も青春(アオハル)を謳歌してそうな彼女が?
そういった疑問が、ひと月経った今でも頭から離れないのだ。
「今日で埋まっちゃうね、明智さんの席」「……そだね」
私が明智さんの席を眺めていたもう一つの理由がこれだ。今日、うちのクラスに転校生が来る。事前に担任から聞かされていて、今日がその日だ。決して、人数の埋め合わせなどではない。学校側、そして“明智夕陽の親族”側の意向による転入だそうだ。
数分後、クラスメイトが席に揃った頃に予鈴が鳴った。担任が教室に入る。「みんなおはよう。知ってると思うけど、転校生の紹介よ」
担任の後ろに転校生が続く。彼女の姿は、どこをとっても死んだ明智夕陽に瓜二つだった。「……じゃあ、自己紹介をお願いね」ひとつ違うことがあるとすれば“下の名前”だけだ。
「皆さん初めまして。市内の新平(にいひら)女子高から来ました。明智夕海(ゆうみ)です。……えっと、“姉が大変お世話になっておりました”」
親族と、その双子の妹“夕海”たっての希望。「亡き姉の青春を引き継ぎたい」。それに学校が応えたそうだ。
「席は、お姉さんのところで」
「……はい」
私は、田代綴理は、ますますその席から目が離せなくなってしまった。
死んだ姉の鏡写しのような妹が、席に座り、かつてのクラスの光景だけが蘇る。
それによって、『明智夕陽の死』だけが、非日常として際立ってしまった。
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