第1話 ほか弁で決める大きな決断

中学1年の頃の俺は、深いことなんてひとつも考えてなかった。

 部活動希望調査でみんなが「うーん…」とか言いながら悩んでる横で、

「まぁ卓球なら楽そうだし」

って、カップラーメン選ぶくらいの軽さで○つけた。


 これが、あとになって人生の伏線みたいになるんだけど、

その頃の俺は未来のことより、目の前で友達が言うしょうもない話のほうが大事だった。


 最初は友達もいたし、それなりに楽しかった。

 でも思春期の友情なんて、海に漂ってる木の板みたいなもんで、

ちょっと波が来たら簡単に流されていく。


 俺と友達の関係もそれはもう見事に流されていって、

気づけば俺は卓球部を辞めていた。


 深い理由はない。

 強いて言えば、

「なんか、気づいたら辞めてた」

っていう、今考えるとかなり適当な理由だった。


 さて、次どうしよう。

 吹奏楽とか美術部でも入るかぁ…とぼんやり思ってた。

 どっちも文化系で、静かで、運動嫌いの俺にちょうどよさそうだったし。


 そんなとき、クラスの男子が言った。


「バレー部だったら試合の時ほか弁食べれるよ」


 この一言で、俺の中で何かがパーーーーッと光った。

 当時の俺は今よりかなり丸かったから、

“ほか弁”って単語への反応速度は多分、校内トップクラスだったと思う。


「は? ほか弁? 食えるん? 試合で?」


 気づいたら俺はそいつの机の前までズイッと詰め寄ってた。

 今思えば、完全に狩人の動きだった。


 そして放課後。

 俺はなぜか体育館に向かっていた。


 ほか弁の力、マジで恐ろしい。


 体育館の扉を開けた瞬間、

 バンッ!と床を叩く音、

 どこからか聞こえる先輩たちの怒鳴り声、

 汗と熱気の匂いが体にぶつかってきた。


「いや、これ絶対きついやん…」


 って思ったけど、そのきつさの中に、

なんかよく分からんけどワクワクみたいなのが混ざってた。


 その正体は、その時の俺には全然わからなかった。

 でも、足は勝手にバレー部の見学の列に並んでいた。


 その日の帰り道、友達に言った。


「ほか弁あるなら、バレー部でもええかもな」


 もちろん、今はそれだけが理由じゃなかったと思ってる。

 でもあのときの俺は知らなかった。


 “ほか弁”がきっかけで、俺の人生がちょっとずつ動き始めるなんて。

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