第7話

 ユミに手渡されたのは北千住商店街・お食事券二千円分。これだけあればデザートやらドリンクをつけてもお釣りがくる。一人暮らしともなれば、まかないや、こういった飯に関わることは死活問題であり、嫌でも飛びついてしまう。ジョニーは買い出しを済ませ、休憩も兼ねて駅前の定食屋に立ち寄ることにした。駅前のマルイで買い物を終え、傘を片手にエスカレーターに乗った。むき出しになったエスカレーターがなぜ壊れないのか、という疑問は一旦頭の端に追いやった。危うい乗り物を降りたのち、ジョニーは目のまえにある定食屋へ足を踏みだした、その時だ。見覚えのある男性が少し離れたところにいた。先ほどユミが言っていた〈魔女の占い〉にやってきた東出さんだ、と思う。東出もジョニーの存在に気がついて、互いに会釈をする。定食屋に入ろうとした寸前、再び二回目の会釈をされた。どういう意図かわからず、もう一度頭を垂れる。するとすぐに東出は頭を再び二回下げ、なぜだかわからないがジョニーに近づいてきた。

「人を大切にするとはどういうことか! 己に向き合い続けろ!」

 ジョージはエスカレーターを降りても、スクワットを続けている。ジョニーはなんだかわからなかった。だから口を閉ざしていると、東出が目線を泳がせたのち、とうとうジョニーに助けを求めるように見つめて言った。

「あの、突然すみません。喫茶店の店員さん、でしたよね」

「今も、です」

 え、と東出が困惑していた。だからジョニーは「今も働いてます」と伝えたのだが、そこでようやく意味を汲み取ってくれたようで、東出はあたふたとし始めた。なんだかジョニーは自分の性格の悪さを思い知らされているような気がしたのだが、ひとまず相手の用事に耳を傾けることにした。それで、どういう、とジョニーが聞くと、東出は眼鏡の奥の小さな目を再びジョニーに向ける。彼は、ああ、いや、と切り出した。

「なんと言いますか、今日も雨ですね」

「はい、そうですけど。梅雨だから仕方ないですよね」

「梅雨時期はジメジメしてて、なんだか外も歩きにくくて、難しいですよね」

 東出の言葉はなんだかふわふわとしていて、掴みどころがなかった。ジョニーとは違った意味で対人関係に問題があるのではないか、と思い始める。昼休憩中なんですけど、という発言を寸でのところで腹に戻し、ジョニーは東出の靴を見つめた。水をはじいた革靴は、しっかりと防水対策をしてあるのだろう。どこのブランドかはわからないが、大体は想像がついた。古着やらストリートファッションが好きなジョニーには縁がないように思えて、遠ざけたかった。ジャケットやコートから見えるチェック柄なんかも、たぶん、十数万はするもので。ジョニーが観察していると、東出は言い出しにくそうにしていた口をようやく動かし始めた。

「僕もこの定食屋でご飯を食べようと思ってまして。なんというか、よかったら、〈占い〉の延長で、相席はいかがですか」

 思わぬ提案があって、言い終わるときにはジョニーの答えなんかは決まっていた。俺、別のところで食べようと思ったので。そう返そうとした寸前のことだ。

「もちろん、お昼ごはんはご馳走しますから!」

 東出の言葉に、ジョニーにとって食費は死活問題なので断る理由がなくなった。

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