第6話

 目を覚ました紗月の視界に、見覚えのない天井が映った。ここは、どこだろう。自分たちの部屋じゃない。

 紗月たちの部屋の天井は網目模様だったのに対し、今見えている天井はうねる木目調の天井だった。


「お母さん!」


 飛び起きた紗月が目にしたのは、まずは柵のような扉だった。よく見るとそこは十畳ほどの広さで、壁際には押し入れらしき二枚扉があり、高い位置に小さな窓があるだけの部屋だった。


「え?」


 柵の向こうにいる男に、紗月は見覚えがあった。清原の人だから、ここが清原の屋敷なのには間違いない。自分は閉じ込められている? どうして。それよりも母だった。

 紗月は布団から起き上がり、柵に近づく。


「あ、の」


 口から喉にかけて干からびたみたいに、奥が引っ付いて声が出ない。


「ゴホッ」

「水が置いてある」


 顎で紗月の後ろを指すと、立ち上がりどこかに行ってしまった。

 部屋の奥に置かれていた水を喉に流し込んでいくと、カラカラだった土がふやけて柔らかくなるように、喉の奥まで潤っていく。


「お母さんはどうなったの」


 支えていた母の重みが増して、それから目の前が真っ白に染まったところまでは覚えている。

 あの時、隊員が上級の妖が出たって言っていた。もしかして攻撃をされたのかもしれない。


 それよりもお母さんに会いたい。亡骸でもいいから早く会いたい。紗月は手を力強く組み体を丸くし、嗚咽をしながら涙を流した。

 他の隊員たちは母を見殺しにした。あの人たちはずっと母と仕事をしていたし、何度か下級の妖からも助けてもらっていた。それに下級でも中級に近い妖を退治した時には、その手柄を平気で横取りをしていい思いをしてきた。

 散々、母をいいように使ってきたくせに! ギリっと奥歯がなる。床に付けている額が痛かった。


「おい。目が覚めたか」


 顔を上げて振り返ると、当主が険しい顔をして立っている。紗月は飛び起きるように柵を掴む。


「お母さんに、お母さんに会わせてください!」

「何を言っている。母親は、お前が殺したじゃないか」

「え?」


 言っている意味が分からない。自分が母を殺す訳がない。紗月は当主の言った言葉の意味が上手く飲み込めない。


「お前が自分の母親と他の隊員を殺した、と言っている。覚えていないのか」


 淡々とした声に、あの時のことを思い出そうとしても思い出せない。ただ母の呼吸が弱っていき、体の体温が低くなっていく感覚だけは、紗月の皮膚に刻まれたように生々しく残っている。


「わた、し、は」

「お前は力を暴走させ、母親ごと消し去った。だから遺体などないわ」

「え?」

「お前は大した能力もないくせに、力の暴走によって一緒にいた清原の人間を殺した。自分の母親の遺体でさえ消し去った。よって永久に力を封印し、ここに閉じ込めることが決まった」

「お母さんは死んだ……私の力で」


 あの時まだ母は生きていた。最後の止めを刺したのは自分自身ということ? 紗月は頭を抱え「うそだ」と繰り返す。


「人殺し」


 氷の先のように刺す声が聞こえてくる。当主はすでにおらず、若草色の着物を着た三〇代くらいの女性が、目を吊り上げ歯をむき出して「この人殺し!」と紗月に向けて叫ぶ。


「わた、しは」

「お前が私の夫を殺した! 私だけじゃない! 早苗お婆さんの息子も、由紀さんのとこの旦那さんも。あの日の隊員全員をお前が殺したんだ! この人殺し! お前が死ねばよかったんだ! 遺体も全部消し去りやがって! この鬼! お前は鬼だ!」


 投げつけられた物が額に当たり、床に落ちる。投げられたのは石だった。床に落ちた石の上にぽたりと赤い丸い染みが広がり、続いて畳にも同じ染みが落ちはじめた

 お母さんだけじゃなくて、一緒にいた隊員たちも自分が殺したんだ……お母さんと、お母さんと約束をしたのに。人を恨まない、傷つけないって――それなのに殺してしまった。自分が、殺した。


 紗月は大好きだった母との約束も守れず、母の遺体さえも自分が消してしまった事実が、現実が、一気に襲ってくる。


「あぁ……あ、ああぁぁぁっ!」


 紗月は狂ったよう叫びをあげると、そのまま意識を失った。

 それ以降、紗月は清原家で目立つことを避け、息を殺すように日々を過ごした。何をされても抵抗はせず受け入れ、声を上げることも顔を上げることもせずに――


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

あとがき

どうも作者の秋乃ねこです。

いつも読んでいただきありがとうございます。

こちらの作品はカクヨムコンテスト11参加中です。

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