第2話 求愛騎士(プロポーズナイト)
決闘の鐘が鳴った瞬間――
大広間の空気がビリッと震えた。
「じゃ、ゆしゃ様……いくどぉ?」
グステイルが鎧をきらめかせ、一歩踏み出すたびに床がめりッと沈む。
なるほど、王国最強の“求愛騎士(プロポーズナイト)”は伊達じゃない。
威圧感が物理で来る。
「(無理だって!僕タオルだよ!?
向こうフルプレートだよ!?
戦力差というより布面積の差がヤバいよ!?)」
蓮はタオルケットを押さえながら、必死に後ずさる。
老魔術師が慌てて叫んだ。
「勇者殿!羞恥心を高めるのです!
そうすれば脱衣強化の力が――」
「羞恥心ならもうMAXなんですけど!!」
タオルは風が吹くだけで落ちそう。
敵は“求愛”の視線を向けてくる変態騎士。
周りの視線が痛い。
羞恥心ゲージは既に天井突破。
なのに――
「なんか……なんか全然強くなってる気がしないんだけど!!?」
老魔術師は胸に手を当てて、深く頷く。
「勇者殿、羞恥に慣れ始めると効果は薄れます」
「こんなスピードで羞恥に慣れる訳あるか!!?」
そのとき、グステイルが満面の笑みを浮かべて飛び込んできた。
「ゆしゃ様ぁッ!!いくべぇッ!!」
ズドォン!!
グステイルが踏み込んだ衝撃で、大広間の床石が割れる。
蓮は慌ててタオルを押さえ――
「うわっ!? こ、こっち来ないで!!」
避けた瞬間、風圧でタオルがふわっと浮く。
「ひっ……!!」
ぎりぎりで掴み直す蓮。
だが――その“ぎりぎり”がトリガーだった。
全身にビリッと電流のような感覚が走る。
<羞恥心が閾値を超えました>
<《変態の加護》が発動します>
「え?ちょ、ちょっと待って……なにこれ、急に視界がクリアに……?」
身体の奥から、熱く、奇妙な力が湧き上がってくる。
老魔術師が震える声で叫ぶ。
「き、来るぞ……ッ!
伝説の勇者だけが扱えると言われる……!」
「え、まさか――」
大広間の空気がざわりと揺れた。
タオルの下から、金色の光が……!
騎士たちが息を呑み、王女が真っ赤な顔で祈るように目を閉じる。
「で、出ます!?」
「ついに……珍矛が……!?」「伝説の……!!」
蓮「落ち着け全員!!出るって言い方やめろ!!」
しかし光はどんどん強まり、蓮の周囲に風が巻き起こる。
羞恥と恐怖とよくわからない力が渦巻く中、蓮は叫んだ。
「やめろおおおおおお!!タオルだけは死守させてくれえええ!!」
その瞬間。
タオルが――ひゅるりと、ほんの少しだけズレた。
そして。
空間に、なにか“長い影”がふっと浮かび……
老魔術師が絶叫した。
「出たぁぁあああ!!伝説の
蓮「出てない!!今のは影!!光!!気のせい!!」
グステイルは感動の涙を流しながら両手を広げる。
「ゆしゃ様ぁ……すげぇ……
おれ、こんなに胸が高鳴る決闘は初めてだぁ……!」
「だから言い方ァァァ!!」
蓮は必死にタオルを押さえつつ、決死の覚悟で叫んだ。
「もういい!!来るなら来い!!
僕のタオルは、僕が守る!!」
「いや、守るのはそこじゃなくて世界なんだが……」
と老魔術師が小声で突っ込むが、誰も聞いていない。
グステイルが嬉しそうに剣を構える。
「じゃあいくどぉ、ゆしゃ様……!!
全力の“プロポーズ”、受け止めてくれぇ!!」
「決闘だよね!?プロポーズじゃないよね!?
これ言葉の解釈間違ってたら一生立ち直れないからね!!?」
二人の距離が、一気にゼロになる。
爆音と共に――
“タオル一枚の勇者”VS“求愛騎士”の戦いが幕を開けた。
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