珍矛の勇者と七つの禁玉

微風 豪志

第1話 異世界転生

眩い光が大広間を満たし、そこから現れた一人の少年を見て――

その場にいた全員が息を呑んだ。


「あなたが……勇者様?」

震える声で王女が問いかける。


天城蓮は、床に尻もちをついたまま呆然としていた。

視界が揺れ、思考が追いつかない。


そのとき、脳内に奇妙な声が響く。


──スキル《変態の加護》を付与しました。


「…………は?」


数秒前まで、彼は風呂場でシャワーを浴びていた。

次の瞬間、訳のわからない場所にタオルケット一枚で召喚されていたのだ。


「一体どうなってるんだよ……これ、もしかして異世界転生とか?」


王女が顔を青くして叫ぶ。


「ゆ、勇者様!?どうしてゴブリンのようなお召し物を!?」


「違う違う違う!これはシャワー中に拉致られただけで!

 僕はゴブリンじゃない!!」


必死に否定する蓮。しかし、王女の背後から現れた老魔術師が、深刻な顔で頷いた。


「なるほど……召喚直前に衣服を失うとは……」


老人は震える指で蓮を指し示す。


「――まさか、本物の《脱衣強化系》の勇者……!」


「そんなジャンル聞いたことないんですけど!?

 ていうか脱衣強化って何!?」


兵士たちの視線が一斉に集まり、なぜか尊敬の色が浮かぶ。


「(やばい、タオル一枚なのに英雄扱いされてる……!?)」


老魔術師が咳払いし、語り始めた。


「脱衣強化系。それは伝説の槍“珍矛”を扱える職。

 羞恥心を高めれば高めるほど強くなる――そう言われています。

 しかし……」


老魔術師は眉を跳ね上げ、目を見開いた。


「魔王城に近づくほど、羞恥心は薄れ、力は弱まるのです」


「なんで!?魔王城ってそんなにメンタルに良いの!?精神安定施設なの!?」


王女が涙目で手を伸ばす。


「勇者様……どうか、その……羞恥を、世界のために!」


「お願いの仕方がやばい!!」


蓮は赤面しながら問い返す。


「で、その“珍矛”ってどこに?」


老魔術師は深刻そのものの顔で答えた。


「勇者殿の衣服が“もう一枚”失われたとき、どこからともなく出現します」


「や、やめろおおおお!!」


そこへ、絢爛豪華な鎧を纏った大柄の男が前に出てきた。


「おいジジイ、盲目になっちょるんじゃねぇか?」


なまりの強いその男が、蓮を見てニヤリと笑う。


「まだ子供で、しかも変態……将来有望だなぁ?

 なぁ勇者様、おれとけっこんしませんかぁ?」


蓮「け、結婚!?!?」


老魔術師「勇者様、“結婚”とは“決闘”を意味する古語でして……」


「じゃあなんであいつ頬赤いんですか!?行動が完全にプロポーズなんだけど!!」


鎧の大男――グステイルは、眩しく鎧を光らせながら優雅に一歩前へ。


「ゆしゃ様……おれ、おまんと戦いてぇ。

 おめぇの強さを、この胸で感じてぇんだ……」


「言い回し!!誤解を誘う言い回しやめて!!」


騎士が小声で説明する。


「彼は王国最強の“求愛騎士(プロポーズナイト)”グステイル。

 強者に惚れ込み、戦いの中で相性を確かめる……そんな少し変わった騎士です」


「“少し”の範囲超えてる!!」


老魔術師がため息をつく。


「勇者殿、決闘の申し込みを断れば国への不敬となり、死罪ですぞ」


蓮の顔が青ざめる。


「タオル一枚で戦えって!?むしろ一番危ない状況なんだけど!!」


その瞬間、グステイルが甘い声で囁いた。


「安心しなぁ勇者様……

 もし戦いの途中でソレが落ちても、おれが全部受け止めてやるから……」


「受け止めなくていい!!」


――そして、決闘開始の鐘が鳴り響いた。

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