第4話 剣姫の教習
「さ、さて! それでは管理局では実際にどういう役割を担っているのかを説明しますね」
柚乃がパンと手を叩いて口を開く。
たちまち俺に向けられていた関心など消え失せ、全員が柚乃の方へ意識を向けたのが分かった。
まるで道端のたんぽぽの気分だ。
「皆さんも今日申請したと思いますが、管理局では探索者になる事が出来ます。探索者である事の証明――つまりダンジョンカードを発行出来るんですね。これはいわば日本国内におけるダンジョン探索が可能になるライセンスです。身分証という意味では試験など無いので運転免許証より取得は簡単ですよ」
そう、ダンジョンカードは申請さえすれば満十六歳以上であれば誰でも発行できる。
これは、正直個人的に問題だと思っていた。運転免許証は学科と実技の試験があるが、ダンジョン探索者にはそれがない。故に、ダンジョン内での死亡事故が後を絶たないのだ。
だからこそこういった教習や、戦闘訓練なども行っているそうだが……前職で遭難者の救出などを行っていた身からすれば、もう少し探索者になる敷居を高くした方が良いと考えずにはいられない。
「このダンジョンカードがあれば、ダンジョンで獲得した素材などの査定や売却、ギルドの設立にメンバー募集やクエストの受発注なども行えます! ここ渋谷管理局であれば、食堂の割引機能なんかもありますね」
そう告げた柚乃は、にっこりと笑みを浮かべて「因みに結構おいしいですよ?」と締めくくる。先ほどまでネガティブな事を考えていたハズなのに、絆されてしまった。
これが現役女子高生配信者の笑顔の破壊力か……。
「因みに、各探索者には等級が存在します。これはダンジョンカードに記録されている、『いつ』『どこの』ダンジョンに『何回』『何層まで』探索したかという情報を元にダンジョン庁から付与されるものです」
「立花さんのランクはどの位なんですか?」
今度は先ほどの青年とは別の、黒髪ロングで大人しそうな女子が手を挙げて質問を飛ばした。
因みに俺自身にも等級は存在するはずだが、知らない。
先程染谷さんから、業務用のダンジョンカードと個人用のダンジョンカードはほとんど別物ということを聞いたので、そこら辺が関係しているのだろう。
そんな事を考えていれば、柚乃が少し照れくさそうに黒髪ちゃんの質問に答えた。
「今私は国内等級で上等、国際ランクではB-になります」
「えっと、国内と国外で等級が異なるんですか?」
「えぇ、国内等級とは日本国内でのみ使用されている探索者の実力区分です。上から特等、上等、一等、二等と続き、一番下が三等級。つまり登録したばかりの皆さんはココです。国際ランクとは、国際ダンジョン管理機構――通称IDSOが定めた国際基準のランクのことです」
International Dungeon Security Organization、通称IDSOはダンジョン発生国が中心となって加盟する国際機関だ。
主に、世界中のダンジョンの監視、危険度評価や国際的な共同作戦の調整、ダンジョンに関する研究などを行っている。
ここ日本にはIDSOの東アジア支部があり、俺も何度か顔を出したことがあった。
「国際ランクは上からS、A、B、C、Dの五種に加えそれぞれのランクの中でもプラスとマイナスが存在するので、実質十種類存在します。私がそうであるように、国内等級の上等が国際基準におけるBランク相当に該当します。人によってはAもありえますけどね」
日本は最初期からダンジョンが発生した国ではあるものの、今ではダンジョン後進国と言わざるを得ない。これは民間へのダンジョン開放が他国に比べて遅れたせいだ。
例えばダンジョン先進国であるアメリカは国際ランクA以上が数百人いるのに対し、日本では数十人いるかどうかといった程度だろう。
「さて次は……」
そうして淡々と教習は続いていくが、俺にとっては殆どが知っている内容ばかりであり、昨日楽しみすぎてあまり寝付けなかったせいもあってか、いつの間にか夢の世界へと誘われていった。
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