第3話

先週、康介とご飯を食べに行った帰り、いつものように駅まで送ってもらった。

路線が違う康介とは、いつも改札の前で「バイバイ」を言ってお別れなのに、その日、彼はなかなか立ち去ろうとしなかった。



「どうかしたの?」



聞いても返事は返ってこなくて、そのまま康介が口を開くのを待った。


やがて、「ふぅっ」と息を吐いてから、康介は言った。



「クリスマスイブだけどさ……うちに来ない? えっと……友達にケーキ買わされたんだ。バイト先のノルマって。それがホールで、さすがに一人じゃ食べきれないし……ふたりきりでゆっくり過ごすのも悪くないかな、って」



会ってからずっと何か言いたそうにしていたのは、もしかしてこのことだった?





康介は、わたしがバイトするカフェのお客さんだった。



「前に、会ったことあるよね?」



そんなありふれた言葉で話しかけられ、それから時々話をするようになった。

毎日のように来ては、同じ席に座って、同じものを飲んでいた。「よく来るなぁ」って思ってたら、半月くらいして初めて誘われた。



「バイト終わったら、どこかで会えない?」



ゆっくり、ゆっくり、時間をかけて仲良くなって、付き合うようになってからも手を繋ぐまでに1ヶ月。初めてキスするまでそれから1ヶ月――





わたしが黙っていたからか、康介は一度俯いてから、もう一度わたしの顔を見て言った。



「クリスマスの朝を……一緒に迎えたい」



すっごく恥ずかしそうに言われて、それでこっちも恥ずかしくなって、俯いて「うん」としか言えなかった。

それの意味することがわかったから。

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