第2話

その日に限って、電車が「点検のため」という理由で遅れていた。


寒いホームで足止めされる中、約束の時間に遅れることを連絡したくてスマホを手にとった。

周りを見渡すと、わたしと同じようにこれから誰かと会う約束のある人たちが、あちらこちらで電話をかけたり、スマホの画面に向けて指を動かしている。



今日は特別な日だから。



12月24日は、『マライア・キャリー「恋人たちのクリスマス」の日』と認定されたことを、誰かが言っていた。


それを聞いた時、興味が湧いて、初めてその歌を聴いた。

タイトルから、恋人同士の歌だと思っていたけれど、どうしてだかわたしにはそれが片想いの歌のように聴こえた。


その時と現在いまは違う。

わたしには恋人がいて、これから同じ時間を過ごす約束がある。

もう一度あの歌を聴いたなら、きっと今度は幸せにあふれている歌に聴こえるはず。


そんなことを考えながら、もう一度スマホを手にした。


メッセージを送ってから随分経つのに、まだ既読がつかない。


それで電話をかけてみたけれど、電源が入っていないか、電波の届かない所にあるという、無機質な女性のメッセージが流れるだけだった。


電話をかけた相手がいる場所は電波が届かないところじゃない。だから電源が入っていないに違いない。

時間になってもわたしが現れなければ、さすがに自分のスマホに電源が入ってないことに気がついて、慌てて電話をかけてくるかもしれない。




付き合い始めて3ヶ月の彼、康介と初めて迎えるクリスマス。


わたしがこれまで会ったひとの中で、一番誠実なひと。


だから今日、妹のことを言おうと決めている。

別に隠してきたわけではないけれど、驚かせてしまうことがわかっているから。



用意したプレゼントの袋を見ると、自然と顔がほころぶ。


喜んでくれるだろうか?


きっと彼なら、何をあげても喜んでくれる。

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