入会

「さあ、盛り上がってきたで~!」


「ちょ、ちょっと待ってください」


「なんやねんな……」


「えっと……色々分からないことがあるんですが……」


「人生、先が分からない方が面白いで! さあ、というわけで……」


「だ、だから! ちょっと待ってくださいって!」


 俺は声を上げる。


「いきなりそないに声上げなくてもええやん! びっくりするわ!」


 阿部野橋先輩が耳を軽く抑えながら声を上げる。


「ええっ!? せ、先輩も声上げているじゃないですか!?」


「ウチはええねん……」


「そんな勝手な……!」


「というわけで……」


 阿部野橋先輩がまたも話を進めようとするので止める。


「あ、あの、説明をして欲しいです!」


「説明?」


「ええ」


「なんの?」


「なんのって……諸々のです」


「まあ、その辺は追々に……」


「追々に?」


「そう、徐々に……」


「いや、最初である程度説明してください」


「……こういうのは考えたりするよりも肌で感じるもんやねんけどな~」


 阿部野橋先輩が頭を搔く。三つ編みが小さく揺れる。


「そう言われても困りますよ……」


「まあええわ、どこから聞きたい?」


「モノノケーワングランプリとは?」


「モノノケを憑依させて競う大会や」


「憑依させるとは?」


「憑りつかせること」


「モノノケとは?」


「妖怪や霊のこと」


「……」


 阿部野橋先輩がポンと両手を叩く。


「さあ、さっそく入会してもろて……」


「ちょ、ちょっと待ってくださいって!」


「なんやねん、疑問点には答えたつもりやで?」


「あっさりとし過ぎなんですよ!」


「そない言うても詳細に説明しても分からんやん」


「いや、詳細分かるんですか?」


「いいや、分からへんよ」


 阿部野橋先輩が首を左右に振る。


「ええっ!?」


「その辺はこう……ノリと勢いでやっとる」


「ノリと勢いで妖怪や霊を憑りつかせているんですか!?」


「せやで!」


 阿部野橋先輩が満面の笑みを浮かべながら右手の親指をグイっとサムズアップする。若さって恐ろしい。


「と、とんでもないな……もっとこう……体質的な問題で”視える”人とか、先祖代々霊と関わりのある方が参加するもんじゃないんですか?」


「あ~そういうガチ勢もおるにはおるみたいやね……」


「ええ?」


「ウチらはどっちかっていうとエンジョイ勢やから」


「エ、エンジョイ勢!?」


「そうや」


「よく分かっていないものをどうしてエンジョイ出来るんですか!?」


「あ~なんでやろうね~まあ、その辺はそれこそ肌感覚やな」


「肌感覚?」


「うん、これは大丈夫なもんやと認識するっちゅうか……」


 阿部野橋先輩が半袖の右腕をスリスリとさする。


「ア、アバウト過ぎません!?」


「あんまり難しく考えんでもええやん」


「い、いや、結構大事なことだと思いますけど!?」


「堅苦しく考えんと、柔軟な思考で行こうや、まだ若いんやから」


「柔軟過ぎるのもどうかと……」


「それじゃあ入会してくれるね?」


「い、いや、ちょっと待って……」


「何回待つねん」


「パイセン~苦戦してるみたいね~」


 そこに栗毛の長い髪の毛にゆるふわなウェーブをかけた女子とショートボブの髪の毛に青いメッシュを所々に入れた二人の女子が入ってきた。


「む……」


「パイセンの大雑把さではそれも止むを得ないこと……」


「確かにな~アタシらが入ったのも奇跡みたいなもんやからな~」


 ショートボブの言葉にゆるふわウェーブが笑みを浮かべる。ショートボブは長身で細身、クールな雰囲気を漂わせ、ゆるふわウェーブは抜群のスタイルで、優しそうな顔立ちと声色をしており、強い包容力を感じさせる。


「……パイセンやなくてキャプテンや言うとるやろ……ってか、どこをほっつき歩いとったんや?」


 三つ編み眼鏡がムッとしながら二人に問う。


「サボっていたわけじゃありません~」


「しっかりと確保してきた……」


「なに?」


「どうぞ~」


「失礼します……」


「!」


 ゆるふわウェーブに促され、綺麗な黒髪ロングヘアの美人が部室に入ってきた。 俺は驚いた。入学式で見かけて気になっていた子だ。っていうか同じクラスの子だ――この学院は珍しいことに入学式前にクラスごとのホームルームがあった。普通は逆だと思うのだが――名前は確か……。


枚方寧々ひらかたねねです。よろしくお願いします……」


 寧々と名乗った子は丁寧に頭を下げる。黒髪が優雅に揺れる。


「こちら寧々ちゃん、中学で良いとこまでいったらしいの~」


「頼もしい経験者だ……」


 ゆるふわウェーブとショートボブの言葉を聞き、俺は首を傾げる。中学で良いとこまで?経験者?いや、それはともかくとしてだ……。


「おおっ! いやいや、それはホンマに頼もしいな~」


「阿部野橋先輩……」


「うん?」


 阿部野橋先輩が俺に視線を向ける。


「難波翔人、入会します……!」


 美人のクラスメイトと同じサークル……これほどお近づきになりやすいシチュエーションが他にあるだろうか?いいや、ない!


「わ、分かりやすいやっちゃな~まあ、ええけどな……よっしゃ、新入会員二人ゲットや!」


 阿部野橋先輩が嬉しそうに頷く。

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