TSしたオレが百合に堕ちるまで――そんなに掛からなかった⁉

アサガキタ

第1話 プロローグ。妹はつらいよ。



 私の名前は南畝のうねんすい


 美少女というわけじゃないけど、美少女の聖地と呼ばれる相和そうわ国際学園に入学が決まり、入学式を待つ普通の女子。


 私には、ほんのちょい残念な兄がいる。ひとつ年上の兄も相和国際に通っていて、一足早い始業式を迎えた朝、まだ起きて来ない。お母さんに頼まれ渋々兄つばさを起こしに部屋に入った。


 確かに、ほんのちょい残念な兄という私の評価。でも、同じように兄を持つ娘たちの評価に比べたら、全然マシな評価だったはず。


 その朝までは――

 私も悪い。ノックもせずにいきなりドアを開けたんだから。温厚な兄とはいえお年頃。朝、しててもおかしくなかった。

 いや、してたわけじゃない。正確には。ティシュを3枚丁寧に落ちたたみ、準備をしていたトコ。

 普段はそんなこと言わない、実際他のお兄ちゃん方より、無害だし、偉そうに言われたこともない。たまにコンビニでプリンとか買ってくれる、いい兄の方だと思う。

 でもさすがに仕方ない。出会い頭だもの……


「キモ……」って。ドアを閉めた。そっと……


 階段を駆け降りた私にお母さんが言った。


すいもう起きてるの?」


 お姉ちゃん? 

 お母さん。翼は兄で朝から……ごそごそしてましたが。

 んん? おかしい、なんか気もしてきたぞ!

 まだ頭寝てるのか、私? 確かめるためには……戻るのか? 兄がごそごそしていたあの空間に? 魔境じゃない? さすがに温厚なお兄ちゃん……お姉ちゃん? でも、キレない? だってしてた現場に戻んだよ? でも、そろそろ起きないと……


 しょうがなく、私は兄……姉? なんでこんな基本情報で私悩んでるんだ? 春だからか? 新生活も前に頭だけ浮かれてるんだろうか……

 覚悟を決めて、再びドアを開けた。再びノックもしないで――


「す、すい~~‼」

 半泣きでベットの上でぺたんと座り込むセミロングの青髪。

 セミロング⁉ しかも……なんかこじんまりしてる……お兄ちゃん、ずば抜けて高くはないけど身長はそこそこあったし、肩幅も広い方だったのに……なで肩になってる。

 ちっちゃい……私と変わんない……

 私は思わず叫んだ。


「お兄ちゃん、⁉」


 どんな質問だ。しかし兄なのか姉なのかわからない、我が家の『つばさ』は――あれ、名前漢字じゃなかったか? その我が家の『つばさ』が半泣きで訴える。

「朝起きたら、こんなのが……」

 こんなの……そういってたわわな胸を持ち上げる。パジャマの胸元には立派な谷間が……

「なんかのバチなの⁉」

 どうしよ、口調がお姉ちゃんっぽい! 冷静になれ、翠! お兄ちゃん……お姉ちゃん? うぅ……今はお姉ちゃんで!

 お姉ちゃんが『バチ』と言うからには何らかの『呪い』の可能性がある! 呪いが解けたらいつもの、ほんのちょい残念な兄に戻るかも。それには原因を聞きださないと。


「お姉ちゃん、そのバチがあたるようなことしたの? 例えばなんかの呪いとか」

「呪い……告白して100連敗したとか?」

 100連敗は多いだろ……逆にそこまでなる前に相談して。モテそうな髪型とか、服装とか女子目線でアドバイス出来るし。でも、失恋で呪いはなさそう……じゃあ、他になにかあるかも……


「お姉ちゃん、他に何かない? バチが当たりそうなことしなかった?」

「さっき……」

「さっき?」

「翠に『キモ……』って言われて」

 言った……マズかった? 傷ついた? いや、そういう事するのは情報として知ってたけど、人畜無害っぽいお兄ちゃんだから、つい……ん? でも、バチが当たりそうか? そう既にそれ、バチじゃなくバツでしょ? 妹に目撃されたんだし……


「えっと?」

 何が言いたいかちょい、わからない。先を聞くしかないみたい。

「腹いせに……」

「腹いせ? 私に? さっきは、ほらびっくりして、つい……ごめん」

「いいよ、腹いせでお前をオカズにしようとしたから……」

 はっ⁉ オカズ⁉ オカズって――まさか、まさか、まさか⁉ 私で⁉ 実の妹、実妹で~~っ⁉ 血の繋がらない兄妹じゃないよ、ウチは‼


 血圧が上がる。グングン上がる。この上なく上がる。怒りで。ぶっ飛ばしたい!

 でも待とうか、翠。現実を見よう、こんな胸たわわな兄がこの世界にはいない。でも、うん。収まりがつかない。今後の付き合いに関わる重大な違反行為。


「お兄ちゃん、謝って」


 我が家の『つばさ』も男の子だ。さっきの『キモ……』も言い過ぎた。だから、実妹をオカズにしたこと、素直に謝ったら許す。


「でも……」

「でもじゃありません‼」

 この期に及んで言い訳なんて! 男らしくない! いや、明らかに見た目女子だけど! ぺたんと座る姿がなんかかわいくさえ思えるけど!


「でもでもでも~っ‼」

 座ったままポンポン跳ねてまるで地団駄だなぁ。なに、この兄……姉⁉ かわいい……い、一応……言い訳くらい聞いたげようか、うん。兄妹か姉妹だし。


「お姉ちゃん、しようとしたの! でね、パンツに手を入れたらなかったんの……」

 生々しいの来たなぁ……あと、もう姉としての自覚芽生えてない? 口調も完全に女子だし……未遂なら……仕方ないなぁ……


 こうして兄の翼がめでたくTS性転換して女子のつばさに。兄妹……姉妹? のハートフルな学園生活が始まるのだけど、それはまだ先の話です。




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