短編【魔女】

@kirin_Manga

第1話

「俺、悪いところがあれば直すよ。不満があるなら言ってよ。」

俺は必死だった。彼女を引き止めなくてはならない。彼女は今や俺の一部なのだから。

「私にもわからないです・・・」

彼女も泣きそうだ。彼女自身、心のコントロールがつかなくなっているのだろう。恋愛とはそういうものだ。


アヤカは文芸サークルの後輩だった。小柄で可愛らしいアヤカはみんなから愛されて、何人かの男から告白もされていた。ただ俺はそんなに興味がなかった。同じ学部の先輩のことが好きだったのだ。片思いだ。何回か課題を手伝って欲しいとかナントカ言って食事はしたが、デートらしいものはあしらわれてしまっている。その感じがたまらないのだ。

アヤカの俺への好意には気づいていたが、好みのタイプってわけでもなかったし、サークル内で恋愛するのも面倒で嫌だった。しかし先輩ら就活で忙しくなり学校にも来なくなった。寂しいところに彼女からの誘いが来た。遊びのつもりで美術館に付き合った。


ヤッてしまった。

振り向かない俺に彼女は最終手段をとったのだ。明らかに美術館に行く格好じゃなかった。短いスカート、派手なメイク、ボディータッチも多くて、酒も飲まされた。20時には先輩のことなど頭からすっぽりぬけて、俺はアヤカを抱いた。もう後戻りできなくなってしまった。

「好きです」とか「付き合おう」とかそういう明確な言葉はなかったが、その後もずるずるとデートを重ねた。


そして1ヶ月がたった。

先輩にはもう半年前から彼氏がいたことがわかった。それを知った時、俺はもうアヤカにしがみつくしかなかった。アヤカは多少強引だが趣味も合うしヤらせてくれるし文句なかった。覚悟を決めて、アヤカを本気で好きになろうと、きたる彼女の誕生日に全力を出した。しかしプレゼントのネックレスを渡すと、彼女は無表情になった。

「気に入らなかった?」

「いいえっ、嬉しいです。ありがとうございます。」

「そう?かけてみてよ」

「はい。わあい、綺麗・・・」

「・・・アハハ、もっと喜んでよ」

「喜んでますよっ、でもなんか、びっくりしちゃって、先輩って私のこと好きじゃないと思っていたから」

図星だ。でも今日からは違うのだ。

「そんなことないよ!大好きだよアヤカ」

俺は彼女のために生きるのだ。

「大好きです、先輩!」

彼女はようやく笑った。


俺の方からデートに誘った。彼女を喜ばせるセックスをした。彼女の教室まで遊びに行ってイチャイチャを見せつけてやった。いつしか俺は本気で彼女のことが好きになっていた。小柄な身体が可愛らしい。人懐っこい笑顔が素敵だ。情熱的な行動力は尊敬できるし、趣味も合うし身体の相性だって・・・


「別れたいです。」

ある日突然、公園のベンチで彼女が切り出した。

衝撃だった。考えてもいなかった。なんで?彼女からアプローチしてきたのに。こんなに愛したのに。何か悩んでいるに違いない。何か気の迷いに違いない。

「先輩のこと嫌いになったとかじゃないんです!でも、なんか違うなって・・・ずっと違和感があって気持ちが重いんです。先輩の気持ちに私は答えられない。何が原因なのかわならないけど、昔みたいに楽しくない。」

俺にはどうすることもできなかった。泣いている彼女の肩を撫でる。泣きたいのはこっちだ!!


酒を飲んだ。浴びるように飲んだ。課題の締め切りがあったが関係なかった。風呂にも入らず眠った。


翌朝、頭が割れるように痛い。腕に力が入らない。視界が黄色い。最悪だ。死んでしまいたい。というか、このまま死んでしまいそうだ。風呂に入っていないせいか、身体がぬるぬるして気持ち悪い。腹が減って仕方がないから壁を這っていた蜘蛛を捕まえて食べた。喉も乾いた。身体が内側も外側もカラカラだ。シャワーまで這いずり、倒れたまま水を浴びると、射精のような爽快感だった。しかし立ち上がれない。壁に指を貼り付けて、なんとか状態を起こす。ようやく鏡に自分が映った。


な、なんだこれ___________!


ピンポーン。

インターホンのベルが鳴る。インターホンには男が映っていた。『おーい大丈夫か?どうしたんだよ2週間も連絡しないで。死んだか?』

友人だ。

俺はインターホン越しに声を捻り出す。

「生きてるケロ。でも熱がひどいケロ。」

『大丈夫か?なんか買ってくるか?』

「平気ケロ。多分、コロナだから近寄らないほうがいいケロ。」

『ああそうか。アヤカちゃん、心配してたぜ。なんかあったら連絡してくれよ。」

「ありがとうゲロゲロ〜〜」


蛙化現状の原因は現代の科学では解き明かされていない・・・


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