第拾玖話『仮面と死と革命のロジック』─Vは私で、私はゼロであ、
A「その仮面は、最初から誰かのものだったわけじゃない。ガイ・フォークスは失敗した。国王を爆殺できなかった。でも──その失敗した革命の象徴が、ある日を境に皆のものに。」anonymous。仮面の下に名はない。仮面だけが、世界中を歩いている。無責任と共有責任の
両義性あるよね。誰でもないってことは、誰でもなれるってことでもある。」
B「逆に言えば、名前を持たないからこそ、正義の幻想に依存するしかなくなる。
仮面があればそれでいい──そんな革命、私は信じない。そしてそれは基本的にバットマンをはじめ、ミニッツメンを歴史にもつ、アメコミにおける一種のテーマでもあり限界でもある。」「でもその仮面、誰かのものだった時よりも、自由だよ?」
B「My turn.ハハ、みんなのものって便利な言葉よね。誰の責任でもないと同義なら──
それはただの逃げよ。いい加減、蜘蛛男映画で毎回聞かされる台詞はそれなりに意味があるよ。」
A「であもれだ。anonymousの仮面って、もう誰のものでもないっていうか、アイコンになっちゃっているよね。正直、顔がない自由って、どこか危うい気もする──」
B「それ、アラン・ムーアも言っていたわよ。象徴は単独では存在しない。
それを信じる人々がいて、初めて象徴になるって。」
A「出た、ムーア信者。」
B「信者じゃなくて、論理的帰依。『V for Vendetta』って、政治的寓話として完成されているだけではなく。誰かになることと誰でもないことを、同時に引き受ける仮面の物語なの。」
A「つまり……Bにとって仮面って、匿名じゃなくて、複数性なのか。」
B「そう。私じゃなくて私たち。そしてあなたもまたVでありうる。それがアラン・ムーアの書いた革命の構造よ。
──ねぇ、そう考えると、オープンソースって似てない?」
A「え、どういうこと?」
B「作者がいるようでいないのよ。匿名のコード、匿名のコミット、でも全体が回っていく。
個を超えて、仮面として動く構造。それって言い換えるのであれば
《We are V.》──《We are Anonymous.》って、そういうことでしょ?
付け加えると、アラン・ムーアって、物語で革命を起こそうとした最後の魔術師よ。
しかもそれをコミックというアメリカという映画においても、ヘイズコードを持つ国に最も
ナメられていたメディアでやった。つまり、ナメられてるものほど世界を変えるって、本気で
思っていたってこと。
『プロメテア』『Killing Joke』『リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン』
『ミラクルマン』、そしてなによりも『ウォッチメン』。あと絶対翻訳されないだろうけれど、
『Lost Girls』なんかは違い意味で「革命」的よ笑。話が逸れたわね。でも、それくらい物語
革命を起こした偉大な人物なの。」
A「Vは見たことあるけれど、あれ、最終的に死ぬことで象徴になるって流れ、『コードギアス』
じゃない?もちろん後発なのは理解しているが。構造的な意味で。」
B「ええ、ゼロ・レクイエムのことよね。ルルーシュが世界を恨ませて、死ぬことで平和の象徴になるって構造は同じだわ。なんなら百万人のゼロもその路線。」
A「じゃあさ、Vとゼロ。仮面の使い方はどっちが上手かったと思う?」
B「それは圧倒的にルルーシュ。なぜなら、Vは人間そのものを捨てきれなかった。
あくまでも啓蒙の範疇。でもルルーシュは人間として死んだ。そこが仮面の極限なのよ。
「私は誰でもない。でも、あなたもまた私だ。」Vはこれを言ったけど、私の輪郭はまだ
残っていた。でもギアスは違う。誰でもないものとして殺されることで、誰でもあるものに
なる──つまり、絶対的匿名。それってもう物語としての象徴死じゃない。」
A「ということは、仮面って最後には自我を捨てないと成立しないってこと?」「ええそうよ。
だから自我を主張する仮面って、逆説的に偽物なのよ。ルルーシュはそれに気づいていた。
人間を捨てた本物の仮面──それがゼロ。──って、いろいろ言ったけどね、ぶっちゃけ言えば、結局私、理屈抜きにジェレミアに感動して、ゼロ・レクイエムに泣いたから。
「あんだけ構造とか象徴とか言っていたのに?」
「そうよ。だから言えるの。理屈が追いつくくらいに感動したの。
感情が先に全てを突破していたからこそ。そんな体験なかなかない。」A「まぁ一回戻そうか。
じゃあ、その仮面自体、大元はなんなの?その仮面って、もともと『V for Vendetta』由来
でしょ? ガイ・フォークス自体は実在の人物だけど、現代でみんなが思い浮かべているのは
アラン・ムーアのVってキャラだよな。」B「そう。だからこそ、仮面なの。あれは思想の人格化──誰でもVになれるし、誰もVにはなれない。」A「でも、じゃあVって誰だ?」
B「エドモン・ダンテスよ。」─始まる予感する。A「というと?」
B「『巌窟王』──アレクサンドル・デュマの『モンテ・クリスト伯』。
Vは完全にその系譜にいる。復讐者であり、劇場の支配者であり、仮面を被った計画そのもの。
でもね、もっと重要なのは、その個が、名前じゃなく物語として生きるってことよ。」
A「それってつまり……」
B「名前なき個人が理念として世界を変えるって構図。そしてそれは、アルフレッド・ベスターの『虎よ、虎よ!』において、ガリー・バーネルがジョウントで時間と空間を超え、名もなき激情で銀河を揺らすのと同じ。」A「また飛んだな」B「飛んでない。全部繋がっている。
『巌窟王』→『Vフォー・ヴェンデッタ』→『虎よ、虎よ!』→Anonymousというラインは
抹消された名前が仮面を得て概念になるプロセスなの。つまり、「個」は「無名」になることで、「世界」そのものに作用できるのよ。「ベスター タイポグラフィでしらべてみなさい」
A「なんだ、これ。」
B「あら、ご存知ない?ベスターはこういった文字の傾き・配置・反復・断片化・タイポグラフィの速度感を駆使して文体そのものを空間化しているの。
『ゴーレム100』なんかはもっと過激よ。そうね、エルンストの『百頭女』のスイススタイル版を過激派とでもいいましょうか」
A「文末に記号を入れるのではダメなの?♦︎」
B「それじゃ♪ヒソカよ♣︎」
A「ふふ、うんうん……ボクも、そう思うヨ?」
B「まぁ視覚操作という意味でいえば、違う点なの点は、ベスターは読者の脳内で爆発を起こすために視覚的構成を選んだの。一方、ヒソカは読者の認知の中に残像を刻むために記号をまとう。」
A「つまり、視覚はどちらも戦っているけど、戦場が違うのか。」B「そう。ページを壊すか、印象を焼き付けるか。あなたなら、どっちを選ぶ?」
A「ここはあえて、第三の道─つまりは「リポグラム」文字を使わないことで、逆に言葉を見せる。」
B「あら、上級者ぶってきたじゃない。ないことがあることを際立たせる─そういう否定空間としての言語設計、実は文学でも戦略よね。」
A「たとえばジョルジュ・ペレックの『消失』──Eの一切を排した四〇〇ページ超の小説。Eがないと知った瞬間に、読者はEを探してしまう。なんせ英語圏では最も頻出度がある英語彙だし。つまり、言語の不在が、思考の誘導になる。」
B「『黄金虫』での付け焼き刃かしら?そう。しかも、リポグラムって言語の自己検閲にも似ている。本来書けるはずのことを、敢えて書かないことで、逆に文体が強化される。ベスターは過剰でページを破壊した。ヒソカは記号で印象を埋めた。ペレックは欠落で読者の脳を逆撫でした。」
A「つまり──言語の操作は、常に読者の身体を操作する。過剰でも、記号でも、欠落でも、それは読ませるためじゃない。感じさせるためだ。」
B「ようやく、いいところまで来たじゃない。次は読むことを捨てた物語について話す?」
A「……その前に、やっぱり一度だけ、区切りとして聞きたい。結局、Vとは誰だったのか?」
B「答えはシンプルよ。誰でもない──そして、誰でもありうる。Vは個人として始まり、象徴として終わる。その変化こそが、あの物語の中で最大の革命なの。」
A「でも、象徴って、つまり消費されるってことでもあるよね?アイコン化されて、匿名化されて、ただのイメージになっていく。」
B「だからこそ、最後に死が必要だったのよ。
身体の消滅によって、思想は仮面に移る。
記憶でも、記号でもない、行動としての顔──それがV。」
A「……やっぱり、誰かのままじゃ、世界は変わらないな。」
B「ううん、誰かが誰でもないになる過程こそが、世界を変えるのよ。
Vは名前を捨て、顔を捨て、孤独すらも置いていった。その空白に、未来が流れ込む。」
A「私はVだ──って言ったら、みんな自分もVだって答えるだろうな。
それはきっと、ゼロと同じ構造。」
B「そう。だから私たちは、名を持たずに世界を変えることができる。」
A「つまり……仮面は、自由のための穴といえるのだ。」
B「うまいこと言うじゃない。じゃあ、そろそろ閉じようか。最後に、あの言葉で。」
「Beneath this mask there is more than flesh.
There is an idea, Mr. Creedy. And ideas are bulletproof.」
A「わかっている。仮面の下には、思考がある。そしてその思考は、誰にも撃ち抜けない。」
B「それでいいの。Vは、あなたの中にいる。」
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