第2話
慶也と琥珀は幼稚園からの幼馴染だ。家が近所でよく一緒に遊んでいて、今でも互いの家に行き来するような仲。
琥珀は物心ついたときから一途に慶也を思い続けて、好意を行動と態度で伝え続けるもそれに答えてもらったことはない。
その間にも慶也は順調に成長していき、184センチの身長に漆黒の髪、整えられた眉、くっきりとした二重の切れ長な目、透き通った鼻筋、形のいい唇。見事と言っていいほどの端正な顔立ちになった。
中学生の頃から強豪校のバスケ部に現在もバスケをつづけているため体が自然鍛えられていき、細マッチョという感じに仕上がっている。
こうなるとモテないわけがない。
中学生の頃は女子の3分の1は慶也のことが好きだったのではないかと噂され、高校生になってからも日々告白をされている。
慶也を一途に思い続ける琥珀はそんな現場を目の前で見るといても立ってもいられず、いつしか邪魔をするようになり、慶也に注意をされるもそれを止めることができない。
琥珀が机に両腕を置いてその上に顔を伏せて項垂れていると、細い腕が琥珀の首元に巻き付く。
「こーはちゃん、告白どうだった?」
「知らね…返事聞く前に慶也に追い出された…」
「だろうね~
だから私たちが毎回忠告してあげてるのにこはちゃん全然きかないんだもん
だって慶也くんはどうせ無理じゃん」
「うるせえ…」
琥珀の周りにはいつの間にかクラスの数人の女子たちが集まって琥珀の頭を撫でたりして落ち込む琥珀を慰める。
琥珀は自分の容姿の影響からか昔から女友達が多い。
ふわふわとした蜂蜜色の髪、薄茶色の瞳、少し吊り上がった大きな目、その目を囲むふさふさの長いまつ毛、小さい鼻に薄い唇。色白で思春期であるのにニキビやシミは一切ないきめ細かい肌。
何度お人形さんのようだと言われたか数えきれず、誰もが美少女といいたくなるような容姿。
人生の中で数回、女と間違われて男に告白をされたことがあるが、俺は男だ!このハゲ!!と言ってビンタまでかましたことがある。美しい見た目と反して性格は獰猛で荒々しい。
そんな経験により、男とつるむよりも女とつるむ方が気が楽とまで考え始めるようなっていた。
女子たちもまるで女友達のように気軽な距離感で琥珀に接するし、慶也への恋心も知っているため時々恋愛相談にまでのっている。
「あ、慶也君戻ってきたよ」
女友達がそういうため、琥珀は机からパッと顔を上げる。
「慶也~~!!」
琥珀は席から勢いよく立ち上がり、人目も憚らず慶也に正面から抱きつく。
「告白ちゃんと断った?」
琥珀が抱きつきながら慶也を見上げ首を傾げると、慶也は琥珀の頰を親指の甲で撫でた後、琥珀の耳元に唇を近づけて囁く。
「琥珀、断る断らない以前にそもそも俺には"可愛い彼女"がいるから」
慶也には同じ学年に
美沙は学年でトップレベルの美少女だ。
芸能界にいてもおかしくないほどの美貌だということで、男子から日々憧れの視線を抱かれている。
半年ほど前、美沙から慶也に告白をして2人は晴れて付き合うことになった。
慶也は琥珀を除いて、告白を断らないが、長くは続かない。
いつもどおり数ヶ月で別れると思っていた琥珀の思惑とは裏腹に2人は半年以上付き合い続けている学校内でも有名カップルだ。
琥珀のように彼女がいてもほんのわずかな可能性を信じて、あるいは玉砕覚悟で慶也に告白する女は後を経たない。
「…っんなのわかってるよ!」
「琥珀、ひとつ言っておくけど女の子に向かってブスはないだろ。あとで謝ってこい」
「……嫌だ
誰があんなブスに謝るか」
琥珀はショックで瞳を涙で潤ませながら自分の席に今にも倒れそうになりながら戻っていく。
「あーあ、こはちゃん
"また"振られちゃったね」
女子たちが再び机に項垂れる琥珀の頭をポンポンと撫でる。
美沙と付き合う前も琥珀が何度も告白しているが振られるのも数えきれないほどだ。
「ちょっと琥珀と話していい??」
慶也が話しかけると、女子たちはサッと道を開けて場所を差し出す。
慶也は琥珀の前の椅子の背もたれの方に足を開いて座る。
「琥珀、もしかして泣いてんの??」
「泣いてねえよ、バーカ」
「そう?なら良かった
今日から俺、美沙と帰るから琥珀は1人で帰れるな?」
先ほどまで女子たちが撫でていた頭を慶也が上書きするように撫でる。
「子供扱いすんな、馬鹿…
大体、あんな女選ぶとか趣味悪っ!!あいつ性格悪いからなっ!俺に対してはひどい扱いしてくるんだ…!猫被りやがって」
慶也が頭を撫でる手を琥珀は跳ね除ける。
「俺は可愛いと思うけど」
「可愛ければ性格はどうだっていいのかよ…」
「どうだって良くないよ
性格の相性も大事」
「だったら俺ともっ……!!」
琥珀は続きを言いかけて止めた。
どうせ無駄なことだと最近は分かりかけている。
だからといって諦めたくないという気持ちが日々揺れ動いているのだ。
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