第6話 廃人による第一回ビルド講座
二人で手を広げたら壁にぶつかるくらいの、狭い狭い宿の一室。明かりは机に置かれたランタンだけで、窓の外は、どんよりと霧に満たされている。
人口百人程度の漁村にだって宿はある。
随分長いこと客が来てないのか、天井にはクモの巣が張っているし、一つしか無いベッドも埃っぽいが、ここは宿屋なのだ。
「それじゃあ俺、軽く出掛けてくるよ。今日は調査というより……個人的な用事だな。一緒に来る? 目的地、教会だけど」
「……辞めておくわ。魔族が教会へ立ち入るのは良くないでしょ。もし正体が露見した時に困るだろうから。私じゃなく、ここの人間が」
「優しいね。優しすぎる。そんなんだから……ああ、これは言わない方が良い話だ。忘れてくれ。夜までには戻るよ、ラト師匠」
そんなんだから闇落ちするんだよ、最初っから適度に人間を憎んでたら、弟子一人死んだくらいで世界まで滅ぼさなくて済むのに。なーんて、本人に言ったら駄目に決まってる。こういう事をふと漏らすから、俺は前世から友達が居ないんだ。
◇
「ようこそ、旅の御方。お祈りですか?」
「そんな所です。新しい土地に来たら教会で祈る、ってのが習慣なもので」
「……信心深い方だ。この村ではもう、私以外祈っていませんから」
簡素で暗い教会にて、老神父はゆっくりと語る。
中央に祭壇、奥に女神シナスタジアの神像。左右に置かれたベンチは二人掛けが二列だけと、この上なく狭苦しい。
ま、少ない分にはいいさ。
ベンチに座り、手で軽く五角形を切る。シナスタジア教のシンボルは五芒星じゃなく五角形だ、間違えると信者に殴られるから気をつけよう。これは前世の話だ。
目を閉じる。頭の中の声に耳を傾ける。
『実績【立派なシナスタジア信徒】を達成しました』
『複数のメインクラスを獲得しました』
さあ。始めよう、MMOで一番楽しい瞬間を。
未来へ思いを馳せ、最強のビルドを考える時間だ。
未来という夢物語は、ゲームならば絶対のものとして語ることが許される。
近接か、魔法か、それとも未来にて解禁される銃を目的とするか。
神の名の下に正義を成すか、悪魔に首輪を付け敵を屠るか。
剣、槍、斧、三節棍、チェーンソー、弩からレーザーガトリング。
『シナスタジア・オンライン』では全てが一級品だ。一部、なんかやけに弱い武器種がありはしたが、それはそれとしてほぼ全てが一線級だ。アイラブ自由!
サブクラスの解禁はレベル100から。手っ取り早い経験値稼ぎの手段は現状使えそうにないし、当分はメインクラス一本で食っていくことになる。
甘く見ても数年。少なくとも、魔神エイルとラトの弟子が死んだ何かはメインクラスだけで対処する必要がある。
前者は兎も角、後者についてはラト師匠にどれだけ頼れるか未知数だし、最悪の場合ラト師匠と戦って殺さなきゃならないから、支援系のビルドは無し。
同様の理由で弱体化特化も無しだ。
頭数を増やせる召喚系は一見悪くないけれど、召喚したヤツにプレイヤースキルで関与できない以上、安定性は少し落ちる。一旦保留で。
弓や銃特化のビルドに関しては……矢の値段がなあ。良い矢を沢山買い込まないと、火力と継戦能力を両立できない。金策に手を出す暇があるかどうか不明瞭だし、これまた保留。投げナイフ系も同様の理由で保留。
よって、まず最初の議題は魔法か物理か。
魔法と物理のハイブリッドという択もあるので、実質これは三択だ。
魔法のメリットは単純、手札の多さ。
範囲攻撃に単体攻撃、本職未満だけど強化と弱体まで使える。射程が長いのもメリットだ。問題は燃費の悪さ、弓ほどじゃないけど金が嵩む。
物理のメリットも単純、火力の高さ。
継続火力に瞬間火力、欲しいものは何でもある。デメリットは言うまでもなく射程。飛ぶ斬撃みたいなのも無くはないけど、手に入るまで時間がかかる。
ハイブリッド型……魔法剣士のメリットは、魔法型以上の手数の多さだ。
武器が使えて魔法も使える、高火力の魔法で一掃して残った敵を武器で倒す、もしくは、魔法で自己強化して武器で各個撃破。どちらも強い。
問題は、中途半端になりやすい点。
防具とアクセサリを魔法か武器のどちらかに寄せ辛く、結果として魔法も武器も火力が出ないし燃費も悪い、なんて事になりかねない。
思考。思考を回す。
今の時代でも設定的に獲得可能だろう強武器、今でも勝てて有用そうなボスドロップのアクセサリ、目ぼしいスキルの獲得ルート。
うん。たった一つだけ、悩みがあるな。
こういう時はプロに聞いてしまおう。
「神父さん。これはちょっとした人生相談なんですけど……大きい事を成す為に、まず確実に出来るだろう方法を取るか、それともかけがえのない奇跡に賭けるか。……人生に、どれだけ遊びを入れていいんだろうか、と」
「成る程、成る程。多くの場合、人に悩みを語る時は、既に自らの中で答えが出ている時です。貴方は既に分かっている。堅実な方法を取るべきだと分かっている」
「……ですよね」
「ですが」
神父は祭壇から動かず、優しい、けれどハッキリと耳に届く声で答える。
「貴方はきっと、遊びたい筈だ。それを人生の価値だと信じているから」
ああ、そうだ。何故だか人は大人になるにつれ、遊びを否定したがるが。
正しく大人になれなかった俺は、異世界へ来てもまた四年間引き籠もっていた俺は、今でもやはり遊びが好きだ。
では、面白い奇跡を信じよう。
この世界には、俺の知らないスキルがあるんじゃないか?
前世に悔いがあるとすれば、それは『シナスタジア・オンライン』の終わりに立ち会えなかったことに他ならない。まだまだあった筈の新要素へ触れられなかったことに他ならない!
目下、一番欲しいのは混沌の魔王ラトのスキルだ。
『シナスタジア・オンライン』では、一部のNPCからスキルを伝授して貰う事が出来たが……なあ、あるんじゃないか、ラトのスキルもこの世界なら。
ラト師匠のビルドは自己強化型の魔法剣士。
ならば俺もそれに倣い、その上で将来的には別の道を行こうじゃないか。
「感謝します、神父。……後で、この村についても聞かせてください」
俺が選ぶメインクラスは、魔法剣士系統の下級職。
盗賊だ。
何故か魔法剣士の最初が盗賊なんだよなあ、このゲーム! なんでだろうね!
『実績【盗賊見習い、始めました】を達成しました』
『スキル【強奪】を獲得しました』
『スキル【エンチャント:ファイア】を獲得しました』
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