第四十五話 《瞬間未来演算》――反撃の白銀
紗雪の圧倒的“危険役”による揺さぶりの中、
訓練場の空気は完全に戦場だった。
だが――
遥斗はもう、押されるだけの存在ではなかった。
短時間未来視が脳へ流れ込み、
多重に重なった未来像が収束していく。
(……来る。五秒後、紗雪が右へフェイント。
七秒後にアーリアの白銀撃が落ちる。
十秒後、紗雪が背後へ瞬間移動して――
そこから二手に未来が分岐……!)
紗雪の声が響く。
「遥斗、“未来を読む”だけじゃ足りないよ。
あなたが今やってるのは――
“過去のあなたと同じ”なんだから。」
挑発。
心を削る声。
だが遥斗は、その声を“材料”として飲み込む。
「……なら――
“未来を使う俺”を見せてやるよ。」
アーリアが息を呑んだ瞬間――
遥斗の視界が白銀に染まった。
《瞬間未来演算》起動。
脳内で、複数の“未来の俺”が動く。
――一分後の俺A:正面から突撃し、紗雪に読まれて失敗
――俺B:アーリアの白銀に合わせて回避するが、詰めきれない
――俺C:二人の攻撃ルートを利用し、死角へ滑り込む
(……これだ。)
“未来Cの俺”が選択される。
アーリアの白銀撃が降り、
紗雪がフリックのように動いた瞬間――
遥斗は未来Cの“動き”をそのまま現実へ持ってきた。
「っ――速……!」
紗雪の驚愕が遅れて聞こえる。
遥斗は床を滑り、
アーリアの白銀撃の軌道ギリギリをすり抜け、
二人の“攻撃の死角”へ潜り込んだ。
紗雪が咄嗟に振り向く。
「避けた……! 今のは反応じゃない……
“未来から動きを持ってきた”……!?」
アーリアの目が大きく見開かれる。
「成功したのね……!
《瞬間未来演算》――
戦闘応用の第一段階!!」
遥斗は深く息を吸い込む。
「紗雪……さっき言ったよな。
もっと揺らしてやるって。」
紗雪が無表情のまま、わずかに唇を引き結ぶ。
「……言ったよ。
私の仕事は“あなたを揺らすこと”。
危険役なんだから。」
「なら――
俺は、“揺らされて終わる”奴じゃない。」
未来の“最適解”が現実の四肢に宿る。
遥斗が一歩踏み込んだ瞬間――
訓練室全体が震えた。
紗雪とアーリアが同時に叫ぶ。
「遥斗、止まって――!」
「後ろ!!」
――遅い。
遙斗はもう未来を見ていた。
十秒未来。
訓練場の時空が裂け、黒い影が侵入する未来。
裂け目が走る。
闇の腕が伸びる。
第三の操作者の声が響いた。
――やはり、おまえは“器”だ。
その未来を、もっと寄越せ。
遥斗は振り返り、
白銀の輝きを拳に集中させた。
「……あいにく。
“勝手に人の未来を奪う奴”は――
未来視の敵だ。」
未来で見た軌道をトレースし、
白銀の拳を闇へ叩き込む――。
訓練場に衝撃波が走った。
闇が一瞬だけ退き、
第三の操作者の輪郭が露わになる。
アーリアが震える声で言った。
「遥斗……
あれはもう、“干渉”じゃない。
完全に……この世界へ侵入してきてる……!」
紗雪は遥斗の肩に手を置き、
静かに、しかし確かな声で言った。
「遥斗。
これが……“現実世界の戦争”の始まりだよ。」
遥斗は未来を見据えたまま――
白銀の拳を構えた。
「なら、迎え撃つだけだ。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます