第四十四話 未来を揺らす者
「……うん。
もっと揺らしてあげるから――覚悟してね。」
囁くような紗雪の声が終わった瞬間、
訓練室の空気が緊張で弾けた。
アーリアが反射的に構えを取る。
「紗雪……まさか本当にやる気?」
「やるよ。
遥斗の未来視を“本物”にするには、
私が――“揺らす側”に回るのがいちばんだから。」
紗雪の瞳が淡く煌めき、
観測者の深層思考が起動する。
遥斗の短未来視が一斉に“乱れた”。
「っ……!!
紗雪、お前……やりすぎだ……!」
「大丈夫。あなたなら耐えられる。」
紗雪は一歩踏み込んだ。
その一歩だけで、
未来視の視界が四つに割れて崩れ落ちる。
アーリアが息を呑む。
「紗雪……あなた、未来干渉の出力を完全に開放してる……!!」
「そうしないと、“揺らない”から。」
紗雪の声は柔らかい。
しかし、行っていることは完全に異常だった。
■未来視の崩壊領域
遙斗の脳内に流れ込む未来予測が、
まるでノイズのように荒れ狂う。
――三秒後、紗雪が踏み込む
――三秒後、紗雪が立ち止まる
――三秒後、紗雪が消える
――三秒後、紗雪が笑う
(ちが……全部違う……!
未来が……同じ秒に四つ……いや五つ……!?)
紗雪は未来の“分岐点”を意図的に増やしていた。
アーリアですら理解が追いつかない。
「あなた……こんな干渉を使えば、脳が――!」
「遥斗なら大丈夫って言ってるでしょ?」
紗雪の淡い笑みとともに――
遙斗の視界が完全に白黒反転した。
■二人の訓練が“深層域レベル”へ到達する
アーリアもすぐに追いつく。
「……嵐が来るわね。
なら私も……白銀の演算を最大まで上げる!」
白銀魔力が炸裂し、
紗雪の干渉領域に対抗するように広がる。
遙斗は二つの視界の“渦中”に押し込まれた。
未来視を破壊する紗雪。
未来視を安定化させるアーリア。
二つの力が拮抗し、
訓練室そのものが悲鳴を上げる。
「未来視の……強制再構築……?」
遙斗は無意識に
《瞬間未来演算》を発動していた。
(紗雪の干渉で揺らされた未来を、
アーリアの白銀で補正して……
その“差分”を使えば――)
未来が“武器になる”。
「……っ! いける……!!
未来視が……“形”になっていく……!!」
紗雪が一瞬だけ驚いた瞳を向ける。
「――本当に、できちゃうんだ。」
アーリアは息を呑む。
「遥斗、それは……危険よ!
まだ制御が――!」
だが遙斗は手を振り抜く。
《瞬間未来演算》
白銀 × 干渉 の複合未来式が発動した。
訓練室の床が縦に裂け、
光の断層が走る。
紗雪が笑う。
「ほらね。
あなたは揺らした方が強くなる。」
アーリアが震えた声で呟く。
「紗雪の干渉を利用して、
未来演算を“倍速で進化”させるなんて……
こんな芸当……遥斗にしかできない……!」
そしてその瞬間だった。
■深層域の“悪意”が割り込む
空気が凍った。
光の断層が黒く染まり、
訓練室の中心がゆっくりと“沈む”。
アーリアが血相を変える。
「――来たっ!!
二人の干渉が深層域の“地脈”と繋がった!!」
紗雪も即座に表情を変える。
「……まずい。
私とアーリアの干渉が強すぎて、
“あいつ”が気づいた……!」
遙斗は肌が粟立つのを感じた。
黒い裂け目の中から――
――おお……“器”がまた成長したな……
低く響く声。
あまりにも馴染み深い悪意。
第三の操作者。
「こんな……
本当に現実世界に割り込んでくるなんて……!」
アーリアが震え、
紗雪が臨戦態勢に入る。
そして黒い裂け目の奥から、
ゆっくりと“腕”が出てくる。
黒煙のように揺らめく腕。
人間とは程遠いシルエット。
――訓練に混ざってやろう。
未来を揺らす訓練なら……
私以上の適任はいまい。
遙斗が思わず身構える。
(……くる!!)
次の瞬間――
訓練は、“戦闘”に変わった。
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