第七話 “ただし”の意味を探す者
背後の轟音が風に呑まれ、ロータリーはまた静寂に包まれた。
まるで何事もなかったかのように、夕暮れは灰色へと沈んでいく。
俺は立ち上がれず、コンクリートの冷たさを指先で感じながら息を整えた。
(……生きている)
事実が重い。
未来予知のおかげで助かったのは間違いない。
ただし――あの途切れた未来の続きを、俺はまだ知らない。
ポケットから転げ落ちた百円玉が、地面で鈍い音を立てて止まっている。
拾い上げると、やけに重く感じた。
「……まさか、これを使えってか」
未来予知の“ただし”。
それを確かめるためには、結局また百円を支払うしかない。
だが、今度は直感が警鐘を鳴らしていた。
ここで使えば、何かを失う。
そんな気がしてならない。
(いや……俺の勘なんて信用できないか)
今日だけで二度命拾いした男が、感覚で判断する資格なんてない。
だから思考する。
慎重に。
(未来が見えるのは“必要な情報だけ”。でも、途切れた未来は……何を隠してる?)
未来の中断は、初めての現象だった。
能力の限界か、あるいは意図的な情報制限か。
未来予知は万能ではない。
だが、俺を助ける方向に働くことだけは確かだ。
(だったら……使うしかない)
腹を括り、百円玉を指先で弾くようにして落とす。
カチリ。
耳元で、心臓よりも近い場所で、未来が開く音がした。
『“ただし”――君は、この一件の“真相”に気づく。
それは君の人生の方向を決定づける。
逃げなければ、未来は変わる。ただし――』
またしても映像が途切れた。
「逃げなければ……?」
どういう意味だ。
逃げるとは?
何から?
ロータリーには俺しかいない。
事件の原因も、余波も、残骸すら目に入らない。
まるで世界が“綺麗に片付けられて”しまったような静けさ。
(……嘘だろ)
恐ろしくなるほどの違和感。
さっきの轟音の大きさからすれば、人が騒ぎ出してもおかしくないはずなのに。
周囲は、ただ静かだ。
まるで、
未来が“整えられた”かのように。
胸の奥がざわついた。
未来予知は俺を助ける。
でも同時に――俺の見ている世界を“選んで”いるのではないか?
そんな妄想じみた考えまで浮かぶ。
(……真相? 何の?)
問いを重ねる。
答えは、次の百円にあるのかもしれない。
だが、今投じても無駄だという直感があった。
未来は“逃げなければ変わる”と言った。
なら――
「……逃げないで、帰る」
一度、その場を離れる。
真相が何であれ、追いかけないと見えない類のものなのだろう。
夜風が冷たくなってきた。
俺はロータリーを背に歩き出す。
背後が気になって振り返りそうになるが――
振り返ったら、いけない気がした。
そう思わせる“何か”が、確かにあった。
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