第17話『陽を喰らう災い』③
「おはようカオル君。準備は万全ね?」
「はい! って言っても用意するものなんて無いんですけどね」
「心意気の準備に決まってるじゃない! ワールドクエストのボスなのよ? 必要なのは道具じゃなくて気持ちよ、気持ち!」
「それなら……これでもかってくらいあります!」
「よろしい! 勝つわよー!!」
日付は変わって日曜日。
昨日の話し合いが終わった後、そのままバロルオーグへ挑戦するかと思いきや、待ったをかけたのはサツキさんだった。
『もう結構な時間やってるでしょ? 剛腕熊戦の疲れもあるだろうし、今日はぐっすり寝ましょう。それで明日、万全な状態で挑むわよ!』
普段は大雑把なくせに、こういう時はしっかりしてるんだよなぁこの人。
「あっ! そういえばステータス上げれるの忘れてた」
剛腕熊を倒した事で経験値が貯まったらしく、ステータス画面を開いた事で思い出した。
それに対してサツキさんはわざとらしく息を吐く。
「はぁ〜、全くもう。全然準備できてないじゃない。本当にカオル君はカオル君なんだから!」
「俺の名前を悪口みたいに言うよやめて下さい!」
とはいえ忘れていたのは事実なのでおとなしくステータス割り振り画面へ移行する。
「カオル君? もちろん約束は覚えてるわよね? 忘れてないわよね? ね?」
「そ、そんな念押ししなくても覚えてますって……」
俺が技量を上げようとする様を、これでもかと言うほどにジッと見つめられる。おいそんなに信用ないのかよ……。いやまぁ俺も嘘付いて体力上げちゃおうかなとか思ったりはしたけども。
しかし約束は約束だ。
俺はサツキさんに見られながら──もとい監視されながら技量を上げた。
────
PN:カオル
職業:斥候
所持金:250エル
HP(体力):25
MP(魔力):10
STM (スタミナ):10
STR(筋力):5
DEX(器用):20(5)
AGI(敏捷):15
TEC(技量):15→20
VIT(耐久力):5
技能<2/3>
・短剣術 Lv1
・草むしり Lv1
装備
右手:
左手:なし
頭:盗賊の帽子
胴:盗賊の服
足:盗賊のズボン
アクセサリー:なし
セット効果
・盗賊装備:DEX+5
────
今の俺にできる現状最強ステータスが完成したわけだが、それを見てふと思った。
俺、弱くね?
ステータスも低いが二回上がっているからまだ良い方で、問題は技能だ。
短剣術は置いておくにしても、草むしりは何でまだレベルアップしてないの?
俺、君のレベルを上げるためにプレイ時間の半分以上を捧げてるんだよ?
「あのサツキさん……。このステータスでワールドクエストのボスとなんて戦えるんですかね……?」
「何度も言ってるけど、アンクエのステータスは高ければ有利なだけで必勝じゃないの。大事なのはPSよ。そしてそれに関して言えば、カオル君は大丈夫! 私が認めるわ!」
「サツキさん……!」
根拠も何もない彼女の言葉は、それでも俺を熱くさせる。
そうだ。俺はもう逃げないと決めたんだ。
あの時の後悔は消える事ないが、同じ思いを繰り返さない為にも。
「サツキさん。俺、やります」
「ええ。十年停滞していたストーリー、進めてやりましょう!」
俺たちは頷き合うと、里の前で待っていたフロルと合流したのだった。
***
「ここだ。この先にバロルオーグがいる」
フロルに案内されながら獣道を進み、辿り着いた場所は小さな洞穴だった。
少し身を屈めれば倒れるくらいの洞穴で、辺りには苔や蔦が生え渡っている。
地面に膝を付きながら奥を覗いてみると。
「うわ! なんかぐちゃぐちゃしてますよ」
「ポリゴンが歪んでるというか、解像度が低いというか……。多分、クエストを受けた人にはそう見える感じのやつね」
「受けてない人はどう見えるんですかね?」
「普通に行き止まりに見えるんじゃないかしら」
洞窟の奥にあったのは白い霧のような物体が作り出した壁であった。おそらくあれは出口――ではなく入口なのだろう。
はぇー、よく出来てるなぁ。とか思うのは配慮に欠けるのだろうか。
そんな事を考えながらまじまじと覗いているとフロルに名を呼ばれた。
「これを受け取ってくれ」
俺は差し出された物を反射的に受け取ると、それを見る。
「これは……お守り?」
「あぁ。先祖代々引き継がれてきた『祝福の守り』という物だ」
「な、なんですって!?」
「へっ!? どうしましたサツキさん!」
俺の耳元で突然声を荒げる彼女。
こんなに驚くって事は、もしかして貴重なアイテムって事か……?
俺は期待を込めて。
「サツキさん。このアイテムって……!?」
「えぇカオル君。これは……私も知らないわ!」
「…………え? 知らないんですか?」
「知らないわね」
「じゃあなんで意味ありげに驚いてたんですか!?」
「はぁ? 何言ってるのカオル君?」
思いっきり不満そうな顔された。いやこっちのセリフですよ!
そんな顔から一転、サツキさんは何故か恍惚とした表情になると。
「未だ発見されていないアイテム。つまり未発見アイテムなのよ!? そりゃあテンション爆上がりするでしょ! さすがワールドクエスト! 興奮するわね、カオル君!」
「いや俺にはよくわからないです……」
なんか追及するのはヤバそうなのでほっとこう。
俺は握られたお守りをもう一度見る。
見た目はよく神社やお寺で見られるお守りだ。中には紙か何かが入っているのか、軽く握るとクシャと音が鳴る。
「先祖代々って、そんな貴重な物を貰ってもいいの?」
「勿論だ。それは死を肩代わりしてくれると言われている代物でな。一度しか使えないらしいが、無いよりはいいだろう。カオル殿の為に使ってくれ」
「フロル……! ありがとう!」
「はーんなるほど。使い捨てのザオラルってことね」
「使い捨てとか言うのやめて下さいね」
善意で貰った家宝になんてことを言うんだこの人は。
「カオル殿。改めて礼を言う。我らカルラの民の為、命を懸けてもらってありがとう」
「気にしないでいいよ。それよりさ、倒した後のこと考えようよ。フロルは自由になったら何かしたいことってあるの?」
「したいこと、か。……私はこの森から出たことがないんだ。だから森の外を見てみたいかな」
俺はその言葉に心が躍った。決戦前で気持ちが昂っていたのかもしれない。
「じゃあさ! バロルオーグを倒したらいろんな所に行ってみようよ。俺も近くの街とこの森しか知らないから、一緒にさ!」
きっとバロルオーグを倒したら呪いも解けるはずだ。そうしたら『新月の呪い』もなくなり、世界をその目で見ることができる。
俺の提案に、仮面で表情は見えないが明るい声でフロルは答えてくれた。
「カオル殿と世界を回るか。うん、それは凄く楽しそうだ。ぜひ私も行きたいよ」
その言葉に俺は俄然やる気が出た。
「カオル君……」
「何ですかサツキさん?」
「……ううん、何でもないわ。頑張りましょうね」
「? はい」
言葉を濁したサツキさんを不思議に思いながらも、俺はサツキさん、フロルと順番に目配せをし、最後にボスへと続く入口を見た。
「カオル殿。準備はいいな?」
「うん。絶対勝とう!」
「行くわよーー!! 打倒バロルオーグ!」
そして俺たちは入口へと侵入した。
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