第16話 『陽を喰らう災い』②
『ワールドクエスト「陽を喰らう災い」を開始しますか?』
ワールドクエスト。
アンクエが発売されてから十年間、誰も発見どころか取っ掛かりすら見つけられなかった幻のクエストが。
全プレイヤーが追い求め、諦めてきた伝説のクエストが!
今、俺の目の前に現れた。
「うそん」
頭が真っ白になる。サツキさんから嫌というほど聞かされてはいたが、まさか本当に俺が見つけられるなんて夢にも思っていなかった。
え? これ本当に? ドッキリとかじゃなくて?
そんな可能性も考えたが、そもそもアンクエにドッキリを仕掛けるようなプレイヤーなど残っていないと首を振る。
始めた当初は「見つけられないと思うけど、見つけられたら嬉しいな」くらいに思ってたワールドクエストも、実際に前にすると驚きが勝ってしまう。
マジかぁ……。見つけちゃったなぁ……。そんな感想しか出てこない。
しかし俺とは違い、嘘偽りなくリリース当初から、それこそハッキングを仕掛けるまでワールドクエストを追い求めていた彼女は。
「やっっったああああああああ! ワールド! ワールド! ワールドクエストよ! ぷふっ……、あは! あはははははは! あははははは! キターーーー! カオル君カオル君、カオル君! ワールドクエストが来たわよーーーーーー!!」
踊り狂っていた。
声だけじゃ我慢できないようで、虹色の羽であっちへ飛びこっちへ飛び。俺の頭に乗ったかと思うとバシバシと叩かれる。
「お、おちちついてて下さいサツキしゃん」
「カオル君の方が落ち着きなさいよ」
あぁ指が震える。
目の前に広がる選択肢に『YES』と『NO』があるが、ここで『NO』を選択する人なんているのだろうか。
俺はもちろん『YES』を押──
「間違えちゃダメよカオル君! 左、左よ! 押し間違えないでね!」
「わかってますよ! そんは念押しされると逆に間違えそうになりますって!」
俺は緊張しながらも震える指で『YSE』を──近い。サツキさん近いですって!
そんな彼女を押し除けながら『YSE』を押した。
「それで、バロルオーグって……」
「はい。およそ五百年前、我らカルラの民に呪いをかけた魔物です」
「呪いをかけた……いや待って? 五百年前?」
俺の問いかけに、長老はゆっくりと頷いた。
「先に申し上げますと、我らは五百年の時を生きています。いや、五百年の時を生きさせられている。と言った方が正しいのかもしれません」
「ふむふむ」
意外にもと言ったら失礼かもしれないが、サツキさんには珍しく静かに話を聞いていた。でも確かに、良くも悪くもゲーム愛が強いサツキさんだ。こういうストーリーをしっかり追うのは彼女らしいのかもしれない。
俺も黙って話の続きを書く事にする。
「五百年前、この森に現れたバロルオーグは我らに二つの呪いをかけました。一つが『抑制の呪い』。受けた者の成長が止まるという呪いです」
「成長が止まる?」
「はい。子供は子供のまま、老人は老人のまま、老いる事も死ぬ事も……子孫を残す事すら出来なくなってしまいました」
なんか暗い話になってきたな……。
「なんでバロルオーグ? って魔物はそんな事を……?」
「奴は千年戦争の生き残りです。朽ちた身体を再生させる為に、我らから生命力を吸い取り続けているのです」
なるほど、だから永遠に生きられるよう呪いをかけたのか。それは……それは、許されていいものじゃない。
「生命力を取られる時も、私などの若い民なら貧血のような症状で終わるのだがな。老人などは……酷い苦しみを味わうことになるんだ」
「死なない活き餌ってわけね」
悲しそうに話すフロルに、さすがのサツキさんも暗い表情であった。
そりゃそうだ。長老たちは五百年の間、終わらない苦痛を耐え続けたんだ。そんな話を聞かされて笑えるはずがない。
俺が言葉を失っていると、そこへ追撃をされたように長老の言葉が刺さった。
「そして二つ目の呪い。『新月の呪い』です」
そうだった。呪いは二つあったのだ。
「それは、どういう……?」
「これは……光を奪う呪いです。かけられた者は光を失い、目が見えなくなるのです」
言いながら、あれだけ外すことの無かった仮面を外した長老。
その目はピッタリとくっつくように閉じられていた。
「いやそんな……でも、普通に生活してしてましたよね? フロルも剛腕熊と戦えてたし……」
当たり前だが、カルラの里にはフロルや長老以外にも住人がいる。その人達も仮面を付けているが、目が見えないと感じる動きは無かったように思う。
「カルラの民は魂を見る。形ある物には皆、魂があります。その輝きを見ることで周囲の状況を把握しているんです」
「もちろん初めは難しかったがな。五百年もやっていればある程度は出来るようになったよ。それこそ、剛腕熊と戦えるくらいにはな」
軽快に言うフロル。しかしそこにどんな苦労と屈辱があったかなんて、俺には想像も出来ない。
「……バロルオーグ。そいつを倒せば、皆んなの呪いは解けるんだよね?」
「おそらくは、としか言えません。何せバロルオーグを倒した者はおりませんので」
仮面を装着し直した長老は、顎に手を添えながら指摘する。
「大丈夫よカオル君! こーゆうのは倒せば解決って相場が決まってるの。ちゃちゃっと倒してハッピーエンドよ! ワールドストーリーを進行させるために!」
「いや俺はストーリーのためというか、フロル達のために……」
「同じことよ! そいつを倒せば皆んなハッピーなんだから!」
同じかどうかは落ちておくとして、サツキさんの言う通りなのは確かだった。
「五百年……五百年だ」
「フロル……?」
彼女は徐に呟いた。そこ声には怒りや悲しみ……言葉にできない感情を孕んでいるようで。
「五百年の間、奴を忘れた日なんて一度もない。私達から全てを奪った怪物を──バロルオーグを倒すことだけを考えていたんだ」
仮面で素顔が見えないからこそ、彼女の思いが痛いほど伝わった。
……あぁそうか。剛腕熊を倒したいと、強くなりたいと言い続けてた理由はこれか。
フロルが本当に倒したいのは──バロルオーグだったんだ。
正義感が強く、真面目で高潔。
短い期間だが、それが俺の知ったフロルの人間性だ。
どれほど辛かったのだろうか。
長老を、里の人達を、自分自身を。苦しみ続けていた存在を恨む事しかできなかったのは。
俺の拳は自然と握られていた。
「カオル殿……どうか──」
「わかってるよ、フロル」
もう腹は決めてある。
プレイヤー達が十年もかけて探し続けたワールドクエスト。そのボスが弱いなんて事はないだろう。
剛腕熊なんか比べ物にならず、大した準備も整って無い中で挑むなんて無謀なのかもしれない。
それでも俺はフロルを見る。
俺に前を向かせてくれた彼女に対して出来る事なんて、これくらいしかないだろう。
だから今度は、俺の番だ。
「俺が──バロルオーグを倒すよ」
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