2-10:「化け物」



 星は最初、救世のことをちょっと怖いと思っていた─。

ブリーフィングルームに入った時には既に彼、と安齋は居て、救世は安齋の肩に手を置いて、親しげに話していたのだ。

だからきっと彼も、安齋と同じような"怖い人"だと思い込んでいた。


けれど、実際に隣を歩きながら話してみると──そんな印象はあっさりと崩れた。

確かに少し派手な外見で、背も高く、初対面なら圧を感じるかもしれない。

だが、彼は驚くほど明るくて、話しやすくて、

何より、優しい。

何処かの誰かさんとは違って。


色を抜いた薄いグレーの髪が斜陽の光を含んで、仄かに橙が透けている。

襟足之長めのヘアスタイルは、毛先にかけて黒く、グラデーションになっていてきっとお洒落なのだろう。

バンダナで前髪を上げているから、コロコロ変わる表情もよく見える。

片目の眼帯の下については、怖さもあり聞けなかったが、初対面の相手にそこまで踏み込んでも失礼だ。星は努めて自然にふるまった。


ずっとこのまま、穏やかに楽しい時間であればいいのに。

何ごとも起こらず、今日が終わればいいのに。

そう思っていた矢先、ふと現れる路地裏を、

横目で何気なく見た。

夕陽で全体がオレンジに反射した街の、

所々に現れる暗い場所。

ただ、そこに目を向けたというだけ──。


「…。」

視界の端に何かを捉えたような気がしたのだが。

「ん?どうかした?」

半歩先を歩いていたらチアキが戻ってくる。

「いや、あの、あそこ…」

星が瞳を向ける先、複数人の人影が見えた。

20歳前後の青年達が、学生を囲っているように見えた。

学生服に見覚えがある。


やはり、見間違いではなかった。

「あっ、で、でもナンパ…とか、かも…」

そんな対した事件なはずがない、とヘラッと笑って違いますよね、とチアキの方を伺い見る。


チアキは星を見るなり、

ふっと軽い笑みを作った。

その笑みを見て、やっぱり違ったんだ、と思い、安心しかけた時、チアキの愛想の良い垂れ目がわずかに細まり、

声の質が変わる。


「──白河さん、ここじゃ立ち止まらないで。歩きながら話すよ。」


陽気な話し声より一段低い、落ち着いた声。

その一言で、状況が“ただのナンパではない”ことは、素人の星にもわかった。


「え、…え…?」

「たぶん、だけど。アレは“普通じゃない”よ。

…茜家さん聞こえる?救世、白河、該当疑いを発見。

位置は今送りましたー。様子見つつ、話聞いてみますね。」

襟元の通信機器に向かってチアキが話すと、耳につけたイヤーモニターから『了解しました。くれぐれも慎重にお願いします。わたくしたちも向かいます。』とモモコの声が聞こえた。



チアキは星と並び、視線を合わせずに、

淡々と状況を口にしていく。


「囲まれてる子の立ち姿が不自然。腕を組んで、体が外側を向いてる。逃げたいんだ、でも男達が居て逃げられないし、足がすくんでる。男の方はナンパっぽく振る舞ってるけど、興奮状態を隠しきれていない。あと、瞳の色──見えた?」


星の心臓が跳ねる。

やはり“見えた”のは幻ではなかったのだ。

「あ、あの、わ、わたし、あの、えっと…でも」


「うん、けど、まだ決めつけは早いよね。

だから様子を見ながら、近づくよ。」


そう言うチアキの横顔は、いつもの饒舌で軽い、"軟派"な青年ではなかった。

特別警備官──救世チアキ、その人の貌だった。



──────────────────────────

 「こんにちは〜、あ、こんばんはか。お兄さん達、ちょっといいですか??維局の者なんですけど〜」

チアキがニコリ、とわざとらしい笑みを貼り付けて、

陽気な様子で声をかける。


「は?」「ああ?」「何?」と女子学生を囲んでいた男達が顔を上げる。

「いやいや、何何?オレら今取り込み中。」

「楽しくおしゃべりしてるだけだからさ、邪魔しないでよ。」

男たちは最初こそチアキの明るい声に合わせ、軽く返してきたが、路地裏の暗がりの下、暗紅色の瞳がぬらり、と怪しい興奮を帯びているがわかる。


「うんうん、おしゃべりしてるだけなのね。

ちなみに、カノジョ達もそういう認識?」

男達の影から覗くように、けれども距離をとってチアキは問う。

あくまで笑顔は保ったまま、腰のベルトに装備した警棒に指先を触れさせる。

少女達は怯えているのか、答えない。

顔を俯かせ、濃い影に囚われているかのようだ。


「だぁから!何もしねぇよ。ただ話してるだけだって言ってんだろ。」

「邪魔すんなや、ボケ!」

男達は苛立ちを隠そうともしなくなり、

現場の温度が上がっていくのを感じる。

男の一人が少女の腕を無理やり引き寄せるのを見て、

星の喉がきゅっと詰まった。


「まあまあ、最近通報も来てるし、ちょっと状況確認させてほしいだけ。“ただ話してる”だけなら、手を離してあげようよ。痛がってるよ。」

ね、とチアキが視線を投げた少女は、凍りついたような表情で、こちらをみた。

眉根を僅かに寄せ、男の機嫌を見ているが、

その肩は小さく震えていた。



「痛くねぇよなあ!?」

男が、そう言って、掴んだ腕に力を込める。

掴まれた手の袖にぎゅ、っと皺が寄る。

「ッ、ひ……!」

少女の顔色は白くなり、明らかな恐怖で歪んだ。

チアキの表情から笑顔が消え、静かな視線が男達を捉える。


「顔こわ笑」

「おいおい、怖がらせてんのそっちなんじゃねぇの〜?」

にやにやと笑う男達に、空気が重く、淀んでいくのを感じる。


「もう一度言うよ、手を離して、女の子達から離れて。」


苛立つ男たちの雰囲気が変わっていく。

目が、充血して、吊り上がる。

唇の隙間から見える犬歯は伸びきっている──。

どろり、と濁った沼の底に溜まっていた怒気が、破裂しそうになっているのを感じた。


「白河さん、保護を最優先に。

あとは退路を断つから準備をしておいて。」

男達から目を離さず、端的に指示を出すチアキに、

星は無言で頷きで返す。腰の辺り、警棒の柄を握る。

ジリジリと肌を焼くような時間が何秒か、何分か続く。

もう直ぐ沈もうとしている夕日が、路地のコンクリートを

真っ赤に染め上げる。

少女の唇からはあ、と浅い呼吸が漏れた。


「あー……もう無理、お兄さん達。だるすぎ。」

ため息のような呟きと共に、3人の男達の影が伸び、

消える。


何処に──、と確認する前にチアキに背中を押し出される。

ガキンッッ、と金属質な音が路地裏にこだまする。

キンッ、キンッ、と何度も受けては弾く音だ。


押し出された先、女子学生達を背に庇いながら、

3人のうちの1人と対峙する。

チアキが2人を引き受けてくれている。



◎戦闘シーン


弾き飛ばされた警棒を見て、

完全に頭も身体も固まってしまった。

あの夜のことが鮮明に思い出される。

「あ……ぁ…」


◎戦闘シーン


牙が刺さったのはヴェノムの首筋──、ではなかった。

歯の先が当たったのは、硬い光沢のある布地、そして清潔感のあるシャツ、その下のインナーとさらにその奥の“人間の体温”、の感触。



「……、白河さん、その"牙"はまだ仕舞っておこうね。」



「ッッ………!!」

その声を理解をした瞬間、ぞわりと、背中から首の後ろにかけて、皮膚が粟立つ。

反射的に口を離し、後ろへ弾かれたように飛び退いた。


はっ、はあ、はあ──

ドッ、ドッ、ドッ、ドッ。


自分の息遣いと心臓の音だけが、体内でやけに大きく響く。

厭な汗がじわりと湧いて、なのに身体の芯が冷たい。

感じる温度がちぐはぐで、どちらが本当の自分の感覚なのか分からなくなる。


「あっ、ああ!!ちがっ、ごっ、ごめんなさい!!ごめんなさい、すみません!!だ、あ、っ、だい、っ、大丈夫、あのッ、わた、わたし、わざとじゃなくて、違う、違くて!」

焦って舌が回らない。

頭の中が謝罪と弁明を求めて高速回転する。

混乱と恐怖が尾を引き、目の前がぐるぐると回る。

違う、違うの、こうなるはずではなかった、と言いたいのに

喉からでるのはかひゅう、かひゅう、と空吹くような喘音と、

意味を成さない音達だけだった。


「うん」


「わ、わたし、どうにかしなきゃって、おも、思って」


「うん」



「警棒、警棒を飛ばされて……ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい……」

最後の方の謝罪は、涙に潰されて上手く聞こえなかったかもしれない。

ボロボロと涙が出てきて、止まらなくて、自分でも止めかたがわからなくて。

泣きじゃくるしか出来なくて。

息が詰まって、ひっ、ひっ、と呼吸が変に引き攣る。

涙を止めようと抑えた目頭から、溢れては指の間を伝っていく。


「うん、大丈夫。大丈夫だよ。分かってる。

白河さんが助けたくてしたってことは、分かってるよ。」

チアキが転がった警棒を拾いにしゃがみ、ついた砂埃を払う。

星の手のひらを開き、握らせる。

手の上からしっかりと、優しく、確かに、手を包んで。



『チアキさん、状況は。』

ひっく、とひゃくりあげる幼なげな肩に触れようと、迷っていると、インカムからモモコの声がして、手を止める。


「あ〜〜ごめんなさい。逃しちゃった。

対象は3名、え〜っと、左折しました。すみません、刃渡さん、お願いします。」

インカム越しにチアキが謝る。

星は自分のミスのせいなのに、と、はっと顔を上げる。

襟元に口を寄せて報告するチアキと目が合う。

チアキは、星が顔を上げたことにほっとしたのか、目元も穏やかにさげて、気にしないで、とウインクをした。

報告から間を置かず、『了解』と帰ってきたモモコとは違う声は冷たく、淡々としていた。



──────────────────────────


  「……あの、…すみません、でした。」

涙で引き攣った声はカラカラに枯れていて、情けない。

ああ、さっきまでは順調だったのに……、と後悔と罪悪感が押し寄せて、全部が厭になる。

きっとチアキは許してくれてると言っても、

また笑顔で話すのは難しいかもしれない。


「いいって、いいって、大丈夫、怪我もしてないしさ〜

オレ、丈夫なのよ?それに動きはとってもよかったし、

発見できたのも白河さんのおかげだし、花丸だよ」

チアキの笑顔は、路地裏に入る前と変わらず、

柔らかくて、明るくて、軽やかで、それを見ていると

鼻の奥がツン、と痛くなった。

目の前がまた滲んできて、涙の膜が張って、重力に逆らえなさそうだ。


「あ、あれ?泣かないで〜、大丈夫だから、ね。ほら、怖かった?そうだよね〜、あ、茜家さん呼ぶ?多分その辺までは来てると思うけど…」

ええと、と少し困った様子のチアキに、ふるふると、首を振る。

上着の袖で、雑に瞼を擦る。

少し痛い。

泣いて浅くなった呼吸で、震える唇から言葉を紡ぐ。


「違うんです、あの、平気です。なんか、安心して…大丈夫、です。へへ」

そう言って、チアキの顔を見て、口角を上げる。

きっと不恰好な笑顔だったかもしれないけれど、

チアキの前でこれ以上、涙は見せたくなかった。

睫毛に付いた水滴が、路地の隙間から射す陽の光を反射して、キラキラと輝いていた。


星の不器用な笑顔を見て、チアキは一瞬迷った。

大丈夫には見えないし、現に目の前で泣きじゃくっていて、

今も指先や膝が震えているから。

でも、貼り付けた笑みではないとわかったから、「う〜ん…、そう、そうかあ。じゃあ大丈夫だね。」と柔らかく微笑みを返す。

はい、と言い切ったのを聞いて、「じゃあ、この子達を陽の当たる場所までお連れしましょうか。」と、被害者になりかけた女子学生達に向き直した。


きっと彼女達も星同様に、怖い思いをしたに違いない。

維局員でもなんでもない、ただの学生だ。

見ず知らずの男に囲まれて、ナンパだけでも怖かったろうに、

戦闘を間近で、いやその中心に巻き込まれ、目撃したのだ。

一般人を巻き込む形となったのは、オレの落ち度だなー、と

内心で反省する。女子学生達に送りますからと声をかけ、陽の下、路地裏の向こう、オレンジ色の大通りへと誘導しようとする。けれど、足がすくんでしまったのか中々歩き出そうとしない。これはメンタルケアも必要だろうか、専門機関に繋ぐ案内も準備しておこう、そう思っていた。


──────────────────────────


 「白河星?」

女子学生のうちの1人、左側に立っていた少女がやっと口に出した言葉は感謝や、混乱ではなかった。

彼女は、いや、彼女達は星を見ていた。


「?、知り合い?」

「……あ、…えと…」

女子学生に名前を呼ばれた星は

驚いたような表情を浮かべた後、目を逸らす。

見覚えがあるようだ。

生徒2人のワイシャツの上に付けたサックスブルーのリボンの端に蔦の模様が入っている。

この辺りにある私立の中学校の制服だったか。


「ま、前の学校の同級生、…です。」

俯いた星の表情はよく見えない。

何か訳ありのような、ただならない雰囲気を感じ取って、

チアキはそうなんだ、と軽く流そうとした。

薄氷の上を歩くように、慎重に、言葉の温度感や振る舞いを選ぶ。

しかし、此方の考えを彼女達が知るはずもなく、

でもさ〜と口を開く。

バキバキと氷が踏み割らされていくのを、チアキは感じた。


「白河さん、急に学校辞めたから、死んじゃったのかと思った。」

左側の少女が肩をすくめる。

肩あたりで揃えたブラウンの髪型揺れる。

先程までの恐怖に冷え切った表情はもうそこには無く、

嘲りや人を挑発するような、意地の悪い笑みが唇の端から滲んでいた。


「いなくなるんだもん。こっちが焦ったって。

あーでも、よかった。ウチらのせいじゃなかったんだね。笑ね、皆にも伝えといてあげる“男と遊んでたから辞めたんだって〜”って!」

右側の黒髪を2つのお団子に結んだ少女があはは、と笑い声を立てて、向けたスマートフォンからはシャッター音がした。

写真は不味い。


「あの、写真は」

「消して。それ。」

チアキが言い終わる前に、俯いていた星が顔を上げたかと思うと女子学生の腕を掴む。


「は…?」

「写真を消して。わたし、遊んでるんじゃなくて、仕事をしてるの。迷惑だから、先輩にも迷惑がかかるから、消して。」

女子学生は手を振り解こうとするが、出来ないらしい。

意地の悪い笑みは一変する。

焦りと、屈辱、そして僅かに恐怖が混ざった表情(カオ)が

星の鮮やかな紫色の瞳に映る。


「ッッ触んじゃねぇよ!!化け物!!!」

勢い良く弾かれた手、恐怖と怒りに満ちた眼差し、驚き僅かに見開かれた視線が交差する


「なん、何なんだよ!偉そうに!!キメェんだよ!!」

「写真を消して」

「ブスのくせに!!調子のんな、尻軽!」


捨て台詞のように、言葉を吐いて少女達は路地裏から走り去る。

チアキの静止も無視だ。

一刻も早く異常な場所から抜け出したかった。

プレッシャーに耐えられなかった。

怒りに身を任せて、2人の少女は走る。

喫茶店の横を曲がり、大通りの人の流れを逆走する。

街ゆくいくらかの人が寄越した視線すら、多感で過敏な神経を逆撫でする。

青年とかつての同級生が追ってこないとわかると、何ブロックか先で止まった。

走るのには向かないローファーの底は硬くて、足の裏が痛い。

はあ、はあ、と息を吐いて、走って汗ばんだマフラーを外す。

空がすっかりネイビーブルーに染まって、白い月がぼんやりと滲んでいた。

吐いた吐息は白い。



「何あいつ何あいつ何あいつ!超ムカつく、絶対許さねえ!」

「生意気なんだよ、晒してやる!」

黒髪の少女がスマートフォンに齧り付き、もう1人も一緒に画面を除き込む。

素早くSNSのアイコンをタップすると、

アプリケーションが立ち上がった。

長い爪が画面を滑り、カツカツカツ、と音がする。

驚くべき速さで文が打ち込まれ、ハッシュタグが大量につけられる。

『デート❕❔なんか仕事とかいってたけど、何の仕事なんだろう❔』、ハートや心配、ホテルの絵文字を添えて。

尾鰭背鰭がついて、人が邪推をしやすくなるように。

そして先程撮った写真を添付すれば、頼んでもないのに制服姿やロゴから、勤め先を割り出す輩も出てくるだろう。

生意気で目障りな、元同級生の所在がクラスに、学校に、社会に、世界に、晒され、拡散され、きっと炎上する。

職場にも火の粉が飛んで、きっとクビになる!仕事だか何だか知らないが、地味子のくせに上から偉そうに指図した罰だ。

明日にはもうきっとこの街を歩けなくなる──!

ざまぁみろ!と少女達はほくそ笑んだ。


液晶画面に照らされて、青白く反射する指先が、ポストボタン触れる──、ことはなかった。

スマートフォンが手の内からなくなった。

落としたのか?と思ったが違う。奪われたのだ。

上から。

そのまま目線を上にあげる。

目の前には、星や青年と同じ、

白い制服が立ちはだかっていた。


「情報統制してるから炎上しねーよ、残念だけど。

しかも公務執行妨害だから、お前らの方がピーンチ笑」

黒髪の青年が、少女から取り上げたスマートフォンを軽快に操作する。

ポストを消し、画像を完全に消去し、他にデータがないかを冷めた目で確認していた。


青年の肩越しに、画面を見ていた少年──稲妻のそりこみがある──が「ええ?何でデート?なんだ?」と怪訝そうな表情を浮かべた。

「うるさ、ガキは黙ってろよ」「え、安齋はわかんの?」と2人の会話を、少女達はぽかん、と見ている。


「は?な、誰、っ返せよ!!」

「ふざけんな、窃盗じゃん!!」

ハッとしたように茶色い髪の少女がスマートフォンを構える。

だかそれも、横から取り上げられ、不発に終わる。


「勿論お返ししますわ。

あなた方の携帯に何もないのが確認できれば。」

同じく白い制服に身を包んだ真面目そうな少女が、スマートフォンの画面を確認して、画像を撮られていないことを目視した。

それを「お願いします。」と、いつのまにか路肩に停まっていた白いワゴン車の中へと渡す。

派手なフラミンゴピンクの髪の青年が「了解」と受け取り、何だかコードのようなものに繋げ始める。


ざわ、ざわ、と人の声がざわめき始め、

女学生達は、自分からが似たような白いワゴン車に囲まれているのに、気づいた。

只事ではない雰囲気に、街の人々の視線が集まる。

中にはカメラを構える者たちもいた。

「な、っ、見てんじゃねえ!撮んなよ!」

「やめろ!おい!聞いてんのかよ!!」

騒ぎ立てる少女達に、大衆は余計に注目をしていく。


「そりゃこっちの台詞だっつーの。」

「学校の方には今回の件、嗚呼、過去も含めて、ですか。

正式にお話させていただきますので悪しからず。」 


大通りをのビル群や街頭の灯りが、

少女達の喧騒をスポットライトのように照らす。

青年の失笑と、淡々とした少女の言葉に、2人の女子学生達は

大きく表情(カオ)を歪ませるのだった。

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