第1話 キャベツ畑の赤ちゃん

――エルダランディア西方。


まだ春の陽気が残る田舎道を、五人の旅人が歩いていた。

先頭を歩くのは金髪の青年――勇者アレン。背中に大剣を背負い、しかし歩き疲れた顔をしている。

その隣には、白い修道服をまとった少女――僧侶セレナ。手には杖を持ち、ため息をひとつ。


後ろからは、大きな剣を肩に担いだ筋骨隆々の男――剣士ブリッツが鼻歌を歌い、

紫色のローブを着た青年――魔法使いジークが本を読みながら歩き、

最後尾では小柄な少女――盗賊ミラが、いつのまにかどこかで拾ったリンゴをかじっていた。


「なあ、アレン。次の町まであとどれくらいだ?」

ブリッツが背中を掻きながら尋ねる。


「地図では今日中には着くはずだが……」

アレンは額の汗をぬぐいながら答えた。


セレナがふと、風に混じって届いた音に耳をすませる。

「……いま、聞こえなかった?」


「何が?」

ジークが顔を上げる。


「赤ちゃんの……泣き声みたいな」


五人は顔を見合わせ、足を止めた。


「泣き声?こんな辺境の道に赤ちゃんなんて――」

ミラが首をかしげる。


しかし確かに、かすかな泣き声が近くの畑のほうから聞こえてくる。


アレンが剣を構え、慎重に歩を進める。

五人は音のするほうへ足を向けた。



畑の奥に広がるキャベツ畑。

緑の葉の間で、何かがもぞもぞと動いている。


セレナが先に駆け寄り、キャベツの葉をかき分けた。

そこには――


「……赤ちゃん!?」


キャベツの葉っぱを毛布代わりに、ひとりぽつんと赤子が泣いていた。


「なぜこんなところに……」

アレンが目を丸くする。


ミラが赤子の頬をつつきながらにやりと笑う。

「へえ、キャベツから赤ちゃんが生えてるみたいね」


「ミラ、からかわないの!」

セレナがたしなめながらそっと赤子を抱き上げる。


小さな手がセレナの指をぎゅっと握り、泣き声が少しだけおさまった。


「かわいいじゃねえか」

ブリッツが腕を組んで笑う。


「親らしき者は見当たらないな……」

ジークが畑を見渡して首を振る。


アレンはしばらく黙って赤子を見つめ、それからきっぱりと言った。

「見捨てるわけにはいかない。俺たちで連れていこう」


セレナが驚いたようにアレンを見たが、すぐに微笑んだ。

「……そうね。放っておけないもの」


こうして勇者一行は、赤ちゃんを連れて旅を続けることになった。



その夜、村の宿屋に泊まった一行。

赤ちゃんを抱いたセレナと、その隣で世話を焼くアレンを見て、宿屋の女将が微笑んで言った。


「まあまあ、お二人のお子様ですか?」


「ち、違うわ!!」

アレンとセレナが同時に叫んだ。


ブリッツは吹き出し、ミラはにやにや、ジークは鼻を押さえて笑いをこらえていた。


セレナは赤ちゃんをあやしながらため息をつく。

「これから先、大変な旅になりそうね……」


だが、その赤ちゃんこそがこの先の運命を大きく変える存在だとは、まだ誰も知らなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る