第1話 キャベツ畑の赤ちゃん
――エルダランディア西方。
まだ春の陽気が残る田舎道を、五人の旅人が歩いていた。
先頭を歩くのは金髪の青年――勇者アレン。背中に大剣を背負い、しかし歩き疲れた顔をしている。
その隣には、白い修道服をまとった少女――僧侶セレナ。手には杖を持ち、ため息をひとつ。
後ろからは、大きな剣を肩に担いだ筋骨隆々の男――剣士ブリッツが鼻歌を歌い、
紫色のローブを着た青年――魔法使いジークが本を読みながら歩き、
最後尾では小柄な少女――盗賊ミラが、いつのまにかどこかで拾ったリンゴをかじっていた。
「なあ、アレン。次の町まであとどれくらいだ?」
ブリッツが背中を掻きながら尋ねる。
「地図では今日中には着くはずだが……」
アレンは額の汗をぬぐいながら答えた。
セレナがふと、風に混じって届いた音に耳をすませる。
「……いま、聞こえなかった?」
「何が?」
ジークが顔を上げる。
「赤ちゃんの……泣き声みたいな」
五人は顔を見合わせ、足を止めた。
「泣き声?こんな辺境の道に赤ちゃんなんて――」
ミラが首をかしげる。
しかし確かに、かすかな泣き声が近くの畑のほうから聞こえてくる。
アレンが剣を構え、慎重に歩を進める。
五人は音のするほうへ足を向けた。
◆
畑の奥に広がるキャベツ畑。
緑の葉の間で、何かがもぞもぞと動いている。
セレナが先に駆け寄り、キャベツの葉をかき分けた。
そこには――
「……赤ちゃん!?」
キャベツの葉っぱを毛布代わりに、ひとりぽつんと赤子が泣いていた。
「なぜこんなところに……」
アレンが目を丸くする。
ミラが赤子の頬をつつきながらにやりと笑う。
「へえ、キャベツから赤ちゃんが生えてるみたいね」
「ミラ、からかわないの!」
セレナがたしなめながらそっと赤子を抱き上げる。
小さな手がセレナの指をぎゅっと握り、泣き声が少しだけおさまった。
「かわいいじゃねえか」
ブリッツが腕を組んで笑う。
「親らしき者は見当たらないな……」
ジークが畑を見渡して首を振る。
アレンはしばらく黙って赤子を見つめ、それからきっぱりと言った。
「見捨てるわけにはいかない。俺たちで連れていこう」
セレナが驚いたようにアレンを見たが、すぐに微笑んだ。
「……そうね。放っておけないもの」
こうして勇者一行は、赤ちゃんを連れて旅を続けることになった。
◆
その夜、村の宿屋に泊まった一行。
赤ちゃんを抱いたセレナと、その隣で世話を焼くアレンを見て、宿屋の女将が微笑んで言った。
「まあまあ、お二人のお子様ですか?」
「ち、違うわ!!」
アレンとセレナが同時に叫んだ。
ブリッツは吹き出し、ミラはにやにや、ジークは鼻を押さえて笑いをこらえていた。
セレナは赤ちゃんをあやしながらため息をつく。
「これから先、大変な旅になりそうね……」
だが、その赤ちゃんこそがこの先の運命を大きく変える存在だとは、まだ誰も知らなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます