Lv.999の赤ちゃん

猫師匠

プロローグ

――エルダランディア。

剣と魔法が支配するこの世界は、今や魔王バロガルドの闇に覆われつつあった。


そんな折、王都から旅立ったひと組の勇者一行がいた。

勇者アレン、僧侶セレナ、剣士ブリッツ、魔法使いジーク、盗賊ミラ。

世界を救うべく、魔王討伐の旅を続けていた。


ある日、一行は西方の辺境の村に立ち寄る。

村の外れに広がるキャベツ畑を通りかかったそのとき――


「……今、泣き声がしなかったか?」

アレンが足を止める。


畑の奥から、か細い泣き声が風に乗って届いてきた。

セレナが駆け寄り、そっと葉をかき分けると――


「赤ちゃん……! こんな所でひとりで……!」

そこにはキャベツの葉っぱにくるまれた小さな赤子が、泣きながら手足をばたつかせていた。


村人たちに聞いても、この赤子の親については誰も知らない。

捨てられたのか、奇跡的に生き延びたのか……。


アレンは決意を込めて言った。

「勇者として、見捨てるわけにはいかない。俺たちで育てよう」


かくして勇者一行は、赤ちゃんを抱えて旅を続けることになった。



道中、赤ちゃんを抱いたセレナとアレンを見た村人や宿屋の主人は、決まって同じことを口にする。

「まあまあ、お二人のお子様ですか?」

「ち、違うわ!!」

二人は息ぴったりに全力で否定した。


そんなある日、森の中で魔王軍の獣人兵に囲まれた勇者一行は、窮地に立たされる。

剣も魔法も尽き、絶体絶命……その時。


「危ないっ!」

セレナが叫んだ。


ハイハイで前に出ていく赤ちゃん。

そしておっとりと“ばぶー”と声を上げた――次の瞬間。


天空が裂け、まばゆい光の槍が無数に降り注ぎ、獣人兵たちを一瞬で灰に変えた。


勇者一行は呆然と立ち尽くす。

「……い、いまの、赤ちゃんが?」


その時、森の奥から魔王軍の斥候たちがその光景を目撃し、震え上がりながら村へ逃げ帰った。

「勇者たちは無敵だ! 赤ん坊すら魔法を操るらしいぞ!」



だが、勇者たちはまだ知らない。

その赤ちゃん――やがて“カナタ”と名付けられる子――こそ、

かつてこの世界を救い、災厄の竜バハルゲートを討った伝説の“英雄王”セリウス・グランディアの転生体であり、

レベル999の力を秘めた最強の存在だったことを。


これは、勇者一行と一人の赤ちゃんが織りなす、

ギャグ満載の大冒険譚の始まりである。

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