《餓鬼》

 桃葉が手にぶら下げていたのは近所で有名な和菓子の数々であった。イチゴ大福や塩豆大福にどら焼きなどを購入していたらしい。それらを鬼治丸は大変喜んで頬張っていた。

 特にイチゴ大福には食べた途端に「うま~いっっ!」などと元気そうな声を上げている。本当にこの少年が兄のせいで生気を奪われて亡くなってしまった可哀そうな子供だと誰が思うだろうか。


「この赤いのうまいっ! イチゴって言うんだっけ。こんなの初めてだ!」

「あははっ。そうでございましょう。だって鬼治丸様が生まれた頃はイチゴ大福なんてハイカラなものはありませんでしたからね」


 そう言って桃葉は塩豆大福を頬張って茶を啜っていた。しかし桃葉とは打って変わり、どら焼きを一口食べた葉治は桃葉へ問いかけた。「どうしてじいちゃん、この子を鬼治丸だってわかったんだよ。幼くして亡くなったんだろう?」


「あぁ……、それはな。――巻物だ」

「巻物?」

「……ちょっとまっとれ」


 すると桃葉は塩豆大福を一旦食べ終えて茶を飲んでからそそくさと居室へ行ってしまう。そんな桃葉に神社の境内で二人は和菓子を食べていた。


 細くて小さな下駄を履いた足をぶらつかせながらほつれた黒に白の菊の模様をした浴衣のようなものを着ている鬼治丸はイチゴ大福をもう一つ食べる。


 ほつれた布地を合わせて繕った浴衣を着ている鬼治丸の姿にきれいだがラフな服装をしている葉治はふと尋ねた。「なぁ、鬼治丸。どうしてお前の兄さんが鬼と化しているんだ?」


 白兎の弥生は短刀の姿から今は、動物の姿となってどら焼きをもさもさと食べていた。いや、そこはにんじんだろうなどと思いつつ、葉治は鬼治丸へ尋ねると少年はふと悲しげな表情を見せた。


「それはおらの封印が解けたからさ。おらと兄者は死別した者ではあるけれど、二つで一つの御霊みたまなんだ。姿かたちは違っていても、鬼を治めるおらと鬼を穿つ兄者の心は二つに一つ」

「……それはお前らが双子の兄弟だから、か?」

「あぁ。そうだ。なぁ兄ちゃん、どうして俺たちには生まれた頃の名前がなかったと思う?」


 鬼治丸の言葉に葉治は首を捻る。それから茶を啜ってから「さぁ、それはわからない」呆気ないほどに降参のポーズをした。すると小さな少年は黒地の布をぎゅっと握り締めたのだ。「町では双子の魂があると、その子供は呪われると言われているんだ」それから悔しげな顔をして繕った布を握り締める。


「双子の魂は忌み子として扱われる。だからおらたちの両親は殺されたし、おらや兄者は奴隷同然で扱われていたんだ。でも、兄者はおらと違って強かった。それは若くして武将にもなれるほどだった。……だからおらは兄者のおかげで命を賭すまで服も、食べものも、おらの治療も、必死の思いでしてくれたんだ」


 悔しげだがどこか自分の兄を尊敬している様子の弟である鬼治丸の姿が葉治は身に沁みた。これがいわゆる本当の兄弟という奴か、などと思った。


「お前の兄さん、弟思いだな。尊敬するよ」


 素直な葉治の言葉に鬼治丸はどこか唖然としていた。でもそれから嬉しそうな顔を見せる。


「あ、……ありがとう、兄ちゃん。どうしようもない人生ではあったけれど、兄者のおかげでおらは生きられたんだ」


 自信ありげな様子で言い放つ鬼治丸の真紅の瞳は人生に悔いのないように思えた。しかし、ここから話題が変わる。


「……でも、おらが亡くなってから兄者は変わってしまった」


 少し声質のトーンを下げて鬼治丸が話そうとした。するとそこへ桃葉が巻物を持ってやってきたのだ。「葉治っ! お前もじいちゃんに任せるんじゃなくて、少しは働かんかっ!」桃葉はそう言って葉治に叩く。

「いってぇっ。じいちゃんっ、鬼治丸の話が途中だよっ。本当に間が悪いんだからなぁ~」

「なんだどぉ~!? 見ろっ。この巻物をっ。この装いに赤き瞳は鬼治丸様にそっくりだ。これを見れば葉治、お前はわしを敬うだろうなぁ」


 巻物を手に取って見やるとそこには今、イチゴ大福を食べ終えて茶を啜っている少年にそっくりであった。――忌み子、”餓鬼”と記されて。

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