第6話 疑惑の土曜日

夫婦デート大作戦が失敗した翌週。

社内のカフェテリアで、ひよりと元部下の佐久間(25)が、“恋人距離”で楽しそうに話しているのを見てしまった。


佐久間は背が高く、顔が小さく、韓国アイドル系のイケメン。

女子社員からは「王子」と呼ばれている。


その夜、ひよりが突然言った。


「ねえ、土曜日さ……久しぶりに一人で出かけたいの。

 ゆずをよーくんの実家に預けてもらえる?」


ずっと一緒に行動したがるひよりが、“一人で出かけたい”。


なにこれ。フラグか?


しかも当日——

ひよりはいつもより少し濃いメイクで、スタイルの良さがわかるタイトなワンピース。髪はゆる巻き。


……普通に可愛い。とても子持ちの人妻には見えない。


 僕「どこ行くの?」

 妻「内緒♡」


 ……内緒???


 僕の“絶滅危惧センサー”が悲鳴をあげた。


 気づけば、僕は駅まで距離を取りつつ尾行していた。


 ひよりは駅で誰かを待っている。

 そこに現れたのは私服の爽やかイケメン——佐久間。


 僕「…………終わった。」


 ふたりは並んで歩き、そのままとあるビジネスホテルに入っていく。


 僕「…………終わった。(二度目)」


 足元が崩れ、膝が震え、吐き気が込み上げた。

 ホテルに入っていく姿を見た瞬間、胃液が逆流し、植栽の陰で盛大に嘔吐した。


 ……どこから見ても “浮気現場” だ。


 僕はホテルの前で待ち伏せし、

 出てきたところを問い詰めるつもりでいた。


 一時間半後、入り口の自動ドアが開き、二人が現れた。


 僕は立ち上がり、叫んだ。


「ひより!! 」


 ひよりは目を丸くし、佐久間は慌てた様子だった。


「春川課長!? な、なんでここに……!」


「もしかして後つけてたの……?」


ひよりが若干引いた顔で言う。


「妻が他の男とホテルに入ったら尾行するでしょ!? 」


「ち、違うんです!!」

佐久間が紙袋を差し出した。


 そこには——

 スマホゲーム《NIIKO》の限定グッズの袋。僕の推しキャラがプリントされていた。


「今日ここで限定グッズの販売イベントあって……奥さん、課長がこのゲーム好きなの知って誕生日プレゼント買いに来たんで!」

 ひよりも胸を張った。


「そうだよ! よーくん絶対喜ぶと思って♡でもゲームわかんないから、佐久間くんに“ガチ勢が喜ぶやつ教えて!”って聞きに来たの!」


「………………」

そしてここで“予想外の真実”が発覚する。


佐久間が照れたように告白した。

「実は……僕、《NIIKO》の古参ガチ勢で。奥さんが相談してきたとき、“推し布教チャンスだ!”って会社でも熱く語りすぎて……」


ひよりは笑いながら僕の手を握った。


「よーくん。私、リアルのイケメンには興味ないよ。二次元と妄想だけで十分♡」


「リアルの僕には興味ないって言われて地味に刺さったんですが(笑)」


「でもさ、尾行するくらい私のこと好きってことでしょ?それなら、まあ許してあげるね♡」


そして帰宅後。

佐久間からLINEが届いた。


《よかったら僕のギルド入りませんか?》


まさかの展開だった。

……妻の浮気疑惑のせいで、僕にはゲームのオタク仲間 が一人増えた。人生、何が起こるかわからない。

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