第7話 ED外来に行った日


妻の珍獣性が日に日に増し、

僕の“絶滅危惧レベル”も順調に上昇していたある日。


ついに、僕は決断した。


――病院へ行こう。

……泌尿器科へ。


理由はもちろん、

あの “朝立ち絶滅事件” から続く不安だ。


妻は妙に明るい声で頷いた。


「よーくん、行こう行こう!

 絶滅危惧種でも、生態が整えば元気になるよ!」


励ましがゼロである。


●初めてのED外来


病院に向かう車の中で、僕は緊張しすぎて手が震えていた。


僕「ひより……本当に中まで付いてくるの?」

妻「もちろん♡ 一心同体でしょ〜?」


いやここ、個人戦で挑みたい。


しかし受付に到着すると、妻は堂々と宣言した。


妻「あ、夫のEDの相談で来ました〜!」


やめろぉぉぉぉぉ!!!


待合室の男性全員が、一斉に僕を見た。

その視線は“同志”とか“仲間”とか、いろんな意味で刺さった。


僕は一瞬、カーテンになって隠れる方法を真剣に考えた。


●診察室での地獄


名前を呼ばれて診察室に入ると、

優しそうな医師が穏やかに聞いてくれた。


医師「最近、勃起の調子が悪いと?」


僕「あ、えっと、その……」


妻が即答した。


妻「はい! 夜がもう壊滅的で! 朝も! 交流デーの日もときどき!!」


医師「……ご本人から伺いますね」


医師、正論。


僕が赤面している横で、妻はまだ続ける。


妻「疲れてるとか言うんですけど、まぁ立たなくて!」

僕「やめて!!!」


医師は淡々と質問しながら、冷静に結論を告げた。


医師「40代では、珍しいことではないですよ。

 ストレス、疲れ、睡眠……いろんな要因があります」


僕「そ、そうなんですか……」


安心した瞬間――


妻が身を乗り出した。


妻「先生!!

 薬って……出ます!?

 今夜、試せますか!!?」


医師「……とても前向きな奥様ですね」


僕「前向きの方向が違うんです!!」


●帰り道のテンション差


診察が終わると、妻は薬の袋を振りながらスキップしていた。


妻「よーくん! “年齢的に普通”って言われたね!

 良かったねぇ〜〜♡」


僕「普通でも、傷つくんだよ……」


妻は僕の背中をポンと叩いた。


「大丈夫!

 絶滅危惧種は、守られるべきなの!

 私が保護するから安心して!!」


保護の方向がおかしい。


●そして帰宅後


家につくと、妻は薬の袋を掲げて満面の笑み。


妻「じゃあ、今夜さっそく……♡」

僕「待って待って!? 心の準備が!!」

妻「大丈夫! 私は準備万端♡」


この家に休息という概念はないらしい。


僕は静かに思った。


――泌尿器科より先に、

まず僕が相談すべきはメンタル科なのかもしれない。


そして夜は――

希望と、絶望と、薬効の狭間へと沈んでいった。

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