第8話崩れる秩序と、ラブラブの悪夢
マックとギリーは迷いなく警棒を構え、スフィアへ突っ込んだ。
「うおおおお!!」
鋭い金属音が船内に響く。
だが――スフィアは避けなかった。
ただ立ち、ただ受けた。
ガンッ!
ガンッ!
ガンッ!
「まだだ!!」
怒声と共に、二人はさらに振り下ろす。
触手美女の身体が揺れ、床に崩れ落ちた。
荒い呼吸を吐きながら、マックが笑った。
「……なんだよ……案外弱ぇじゃねぇか……蛸女」
その瞬間。
スフィアの身体が静かに起き上がった。
触手が揺れる。
目は先ほどまでの無表情ではなく――冷たく輝いていた。まるで獲物を値踏みするように。
「……分析完了。」
触手が音もなく伸び――
マックの体を瞬時に締め上げた。
「なっ――うぐっ!」
ギリーが叫ぶ。
「やめろ!!」
彼は構え直し、怒り任せに殴りかかる――が。
スフィアはまるで未来を見ているかのように、わずかに体を傾けただけで回避した。
「無駄だ。すでにあなたたちの脳波パターンと運動信号を取得した。
――攻撃は届かない。」
「ふざけるなぁぁぁ!!!」
叫びは虚しく空間に響いた。
そして――マックの声が突然途切れた。
触手の力が抜け、彼の身体が床へ無造作に落とされる。
その音は、怒号より冷たく響いた。
「……マック……?」
ギリーの手が震える。
その震えを止めたのは、恐怖ではなく――狂気だった。
スフィアは淡々と告げた。「殺してしまったか?…人間は思ったよりもろいな」
彼はそっと床の落ちたレーザー銃を拾い上げた。
「……もう知らねぇ。船ごと、船ごとお前をぶっ殺してやる!!」
「待て!!ギリー!!」
シャピは叫んだが、足が震え、うまく動かない。
逃げ癖と恐怖が全身を縛る。
「邪魔するなァ!!」
ギリーの蹴りがシャピを襲い、彼は壁に叩きつけられた。
視界が揺れ、音が遠ざかる。
「……くそ……動けない……」
その時、そばに膝をつく影があった。
クリスだ。
「シャピ船員、ダメージレベル軽度。生存に問題ありません」
その無表情の声で、シャピの思考が戻る。
(……そうだ……クリス……)
シャピは震える手でクリスの背へまわり――
例のラブラブアイコンに触れた。
ピッ。
クリスの目がピンクに光りだしスピーカーから例の音楽が流れた。
「設定変更を確認――実行します」
次の瞬間、クリスはギリーへ飛びかかった。
「なっ――!?」
クリスの動きは速かった。
無駄のない拘束。
触れた瞬間、ギリーの身体は縛り上げられ、動きを止められる。
「いたッ!痛い!!やめろ!!やめてくれ!!なんのつもりだ!!」
「停止希望の場合は背面パネルから操作を――」
「操作できるかぁぁぁ!!」
ギリーは、デッキを飛び出しハッチまで逃げていく。
ピンクの眼を光らせ歩み寄るクリス。
「来るな!」
ギリーはハッチを開ける。
――重い金属音。
空気が吹き込み、外の風が流れ込む。
「やめろ!?俺は悪くねぇ!!アイツが……化け物が――」
クリスに拘束され、バランスを失ったギリーは、一歩――また一歩……。
そして足が空を掴む。
シャピが船縁に駆け寄ると、
下のジャングルで動く巨大な影が見えた。
土埃。ギリーの絶叫が途切れた。肉食獣の咀嚼音だけが残った。
シャピは拳を握り、震えながら小さく呟いた。
「……こんな……ことって……」
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