窓辺の最優秀爆発物発見員

天使猫茶/もぐてぃあす

窓辺の職員

「おい新入り、なにをボーッとしてるんだ?」


 先輩職員が新米職員にそう声をかけた。声をかけられた新米は窓の方へと向いていた顔を先輩へと向け直す。

 そして「彼女……」と言って窓を示した。


「彼女が例の最優秀爆発物発見員ですよね?」


 先輩はそうだと重々しく頷く。二人の話題の的になっている爆発物発見員は老いた体を労るように日光浴をしている。

 穏やかに欠伸をするその様子からはとてもではないが優秀な職員であるようには見えない。


「たとえいまはそう見えなかったとしても、彼女は間違いなく何人もの人命を救った優秀な発見員だ。ここの職員はみな彼女に尊敬の念を向けているのさ」


 そして先輩は彼女の武勇伝を語り始める。

 まだ彼女が若かった頃のことである。

 旧軍の火薬庫を解体するときに同行していた彼女は、迷うことなく一つの樽へと向かうとその樽に座った。

 彼女を退けるが、気が付けばすぐにその樽へと戻ってきてしまう。

 一体どうしたのかと調べてみると、その樽はほのかに熱を帯びている。さらによくよく調べてみれば、その樽だけが化学反応を起こして爆発寸前になっていたのだ。


「大急ぎで処理をしたことで大事には至らなかったが、もし彼女がいなければ一体どうなっていたことか……」


 そう締めくくった先輩に、新米は苦笑いを浮かべる。


「暖かかったから昼寝にはちょうど良かったんでしょうね」


 その言葉が聞こえたのか、それともただの偶然か。窓枠で日光浴をしていた老猫は一言ニャアと鳴くと、尻尾で二回窓ガラスを叩いた。

 それを見た先輩は新米の肩を叩いて彼女専用の皿と大量の猫缶を示してこう言った。


「あれは我らの偉大な爆発物発見員が空腹のサインだ。これは新米の仕事だぞ」



 街を救った老猫は今日も職員たちの中で最も日当たりの良いお気に入りの暖かな席で微睡んでいる。

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