第3話 ちょ待てよ!
「待てこのクソガキーーっ!!!!!!!!!!!!」
(アイツなんで追いかけてくんだよ!!!)
「え? 待って?? ほんとに待って!?」
俺の足は速かった。そして少年の足は遅すぎた。
お互いの距離はみるみる離れていき、もうお互いの声がギリギリ届くか届かないかといった距離になる。
「お願い待ってぇ!!! ブフォォオオ!!!!」
「んぁ!?」
盛大に転んだ少年の断末魔が聞こえ、思わず振り返る。
少年は地面に伏したまま、ピクリとも動かない。
「うーん・・・」
スピードを緩め、考え込んだ顔をしながらもゆっくりと走る。だが、少年が動く気配が全くないため、ついに足を止めて伏している彼を遠くから観察した。
10秒ほど観察しても動く気配がない。俺は少しずつ少年の方へ歩いていく。
ついに彼の倒れている目の前に到着したが、それはピクリとも動かない。
(・・・もしかして、死んだのか??)
「お、おい・・・」
恐る恐る声を掛ける。反応はない。
「お、おい・・・大丈夫なのか? ・・・死んだのか・・・?」
「・・・・・ワケ・・・・ダロウ・・・」
「え?」
「大丈夫なワケねぇだろうがぁ!!!!!! 今日何回転んだと思ってんだよこのハゲーーー!!!」
死んだかと思った少年が、いきなり上半身を起こして怒鳴りつけてきた。
「2回だろ?」
「あーマジレスつまんな。死ねぇーーーーーーー!!!! このアホーーーーーーーーーっ!!! 2回ともぽ前のせいで転んだのに!!!!」
「はぁ!? 俺のせいじゃねぇだろ! 1回目はお前が突進してきて、2回目はお前が追いかけてきて勝手に転んだんだろうが!」
「あーー・・・そう・・・。全部しゃもが悪いって言うんだ・・・?」
「そうだろう??」
「ふーん・・・そう・・・」
少年はふいと視線を逸らすと、黙り込んだ。
……と思ったら。
「ぐすぅん・・・うぅ・・・そっか・・・全部ししゃも。が悪いんだ・・・うぅ・・・うわぁああああん! 全部ししゃも。が悪いんだぁっ! あ゛あああああ゛ぁ゛ーーーー!! しゃもが悪い子なんだぁ!!! ぐわぁあああああーーーー!!! あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
一人称が『しゃも』や『ししゃも』だったりするこの男は、大声でむせび泣き始めた。うるさい。
「なっ泣くなよ!! ほら・・・なんかあれだ・・・全部が全部お前だけが悪いってこともないかもしれねぇな? な?」
「ぐすっ・・・ヒックっ・・・具体的には?」
「へ?」
「具体的にしゃもはどう悪くないの・・・?」
「んっとぉ・・・そうだなぁ・・・んーーーー・・・・」
「すぐに答えられないんだ・・・! やっぱりししゃも。が全部悪いって思ってるんだ・・・! あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
大音量の泣き声に頭を抱える。俺は慌てて取り繕った。
「ぐわぁ! 待て待て待て! 待ってくれ・・・えっとよ・・・・あぁ・・・あっそうだな。最初ぶつかりそうになったとき、俺が反対側によければよかったかもしれねぇな」
「ぐすっ・・・ヒックっ・・・ヒックっ・・・それから?」
「あ?? それからぁ・・・えっとぉ・・・あぁ、さっきお前がカフェに来た時に俺が逃げなければお前も走らなかったし、転ばなかったかもしれねぇな?」
「・・・つまり?」
「んぁ??」
「つまりやっぱりぽ前が全部悪いじゃねぇか!!!!!!!! なに人のせいにしようとしてんの!? このカスっ!!!!! あぁ怖っ!!! 大人はそうやって子どもをだまそうとしてくるんだ!! そうやって簡単に事実を捻じ曲げる・・・これは偏見報道です!! マスゴミっ!!! 全部ぽ前らのせい!!! 私は搾取された! 私たちは買われた!!!!!!」
「お前急になんなんだよ! 人がせっかく励ましてやろうとしたのによ! それに俺はまだ高校生だぞ!」
「うわ! 励ましてやろうとしたとか超恩着せがましい! ぽ前が勝手にしたくせにまた人のせいにしようとしてくるっ!!」
「・・・・っ! もういい帰る!! せっかく気分転換しようと思ってきたのに最悪だ!」
口の悪い少年を背に、その場を立ち去ろうと背を向ける。
もう関わっていられない。
「ちょ待てよ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます