第9話 画面の向こう側で(ハルト視点)
「……雨月紫雲、さん…北斗さん、かあ…」
画面の向こうで話す青年。
和装に狐面というどこか浮世離れした容姿の彼、雨月紫雲さんと出会ったのはダンジョンの中でだった。
僕は春河理人。
探索配信者、ハルトとして仲間であるセイナたちと一緒にフォルトゥナというパーティを組んで定期的にダンジョン配信を行なっている。
あの日もいつもと同じようにダンジョンに潜って、いつも通りに配信をする。ただそれだけだったのに。
配信で話すのに夢中で、罠に気がついたのは手遅れになった後で。
気がつけば、目の前に
厄災…黒炎龍を目の前にして僕はただ剣を握ってセイナたちの前に立つことしか出来なかった。
足はすくんで動かないし、剣を握る手はガタガタと震えて使い物にならない。
このままじゃ僕だけじゃなくてセイナたちも殺される、せめて僕が壁にならないと。
勿論相手になんかなるわけがない。でも、やらなきゃ。
そう覚悟して黒炎龍を睨みつけた時、彼はやってきた。
「図体ばかり大きいだけの愚鈍に負けるわけないだろう」
あの黒炎龍がまるで取るに足らない相手であるかのように履き捨て、ようやっといつも通り息ができるようになった頃には黒炎龍の首と胴体は泣き別れになっていて、かすり傷一つない雨月さんは黒炎龍の死を確認するとすぐに僕たちに駆け寄ってきて、ユニークアイテムでもある貴重品のハイポーションを差し出してきたんだ。
「大丈夫ですか?よかったらこれを使ってくださいな。その怪我だと地上に戻るのもしんどいでしょう?」
「あ、ありがとうございます…」
ハイポーションを反射的に受け取りながらも正直疑っていた。
実はこの人が僕たちを罠に仕掛けたんじゃないのか、あまりにも助けにくるタイミングが良すぎないかって。
セイナたちも同じ気持ちだったみたいで、リオは助けてくれたからと頭を下げてはいたが、セイナとアカネは雨月さんを睨んでいた。
雨月さんにも警戒の気持ちは伝わっていたみたいで、口元しか見えていないけど困った様にしながらも僕たちから距離をとった。
この時は気が回らなかったけど僕たちを思い遣っての行動だったんだと、今ならわかる。
だって、自分の生命線でもある武器を利き手と逆に持ち替えてもいたから。
その後は雨月さんに促されてポーションで治療して、お互いに自己紹介をした。
所属クランを告げた時に雨月さんが少し微妙な顔をしたのは、後で知ったことだけど僕たちのクランが雨月さんに迷惑をかけたからだったんだね。
僕たちが普段の活動層である中層エリアではなく下層にいる理由を話していれば、彼は僕の頭をそっと撫でてくれた。恥ずかしかったけど…僕が震えていたから慰めようとしてくれたその気持ちが嬉しかった。
それだけじゃない。安心させてくれようとしているのがわかる本当に優しい声で話しかけてくれて、その上黒炎龍のドロップ品と帰還石まで僕らに渡してくれたんだ。
きっと本当に僕たちのために申し出てくれたことだけど、これもすぐには信用できなかった。
だって、あまりにも出来すぎている話。
「何が目的なの??高価なポーションに素材まで…後で無茶を請求するつもりなんじゃないの!?」
アカネ、セイナもそうだったらしい。噛み付くように叫ぶアカネを止めているリナも疑惑の視線を雨月さんに向けていた。
本来であれば助けた相手にここまで疑われたらどんなに善人でも腹を立てて見捨てられたって仕方がない。なのに雨月さんは疑うのは当たり前だと頷いてくれた上にこちらの状況を全て言い当てた上で素材を帰還石を持って先に帰って構わないとさえ言ってくれたんだ。
それでも雨月さんへの疑いで動けなかった僕達をみた雨月さんは僕に帰還石と素材を全部渡してきて帰還石を起動させ、僕達を自分ごとダンジョンの入り口へと戻してくれた。
僕達が目を白黒させている間に雨月さんは帰ろうとして、でも僕達のマネージャーさんの来栖さんが声をかけたから立ち話をしていた。
そこで知ったんだ。
うちのクラン、ユーフォリアが過去に僕達の恩人である雨月さんに何の根拠も証拠もない言いがかりに等しい冤罪をかけていたって。
そりゃもう僕達は顔を真っ青にしたよ。だって、僕達も同じことをしたんだから。
証拠もないのに勝手に雨月さんを疑って、酷いことを言った。
当人は何も気にしてない様子で僕らの心配だけをして帰ろうとしていた。
そこで、僕達も雨月さんも配信をつけっぱなしにしていたことに気が付いたんだ。
この後が、酷かった。
何の非もない雨月さんが炎上したんだ。
ユーフォリアのクランマスターである雲類鷲さんはすぐに声明を出していたのに、僕達も動画ですぐに否定したのに。
なのに動画にコメントをくれる視聴者のみんなは話を聞いてくれなかった。聞く耳を持たないって言うべきなのかな。
雨月さんが僕達を脅しているんだって。
ユーフォリアとの事も雨月さんが悪くて、昨日の黒炎龍も自作自演で僕達を危険な目に合わせたんだって。
そんなことないって僕達自身が一番良くわかっているのに、否定しても勝手に燃え広がっていく。
「…こんな事になるなんて…」
「…ど、どうし、よう。私、勝手に疑って、なのに、こんなことに巻き込んで…」
雨月さんに強い懐疑心を持っていた3人、特にセイナなんかは顔を真っ青にして震えていた。
多分僕も同じような顔色だろう。僕だって疑う心はあったし、疑っても助けてくれた恩人に恩を返すどころか大迷惑をかけているんだからね。
そこに来栖さんから雲類鷲さんが雨月さんの家に謝罪しに行くって話を聞いて、なんで家を知っているんだろうって思いながらも同行させてもらった。
目の前で繰り広げられる二人の会話を聞いて、二人が同級生で元パーティメンバーだって聞いて二人が親しげなのも納得できた。
ここで初めて雨月さんの顔を見たけれど、初めて見た雨月さんの素顔は、とても綺麗だった。
月並みな言葉になるけれど、きっと月の化身って、雨月さんみたいな人のことを言うんだろうって、本気で思った。
その後も色々と話をしていたけれど、雨月さんの口から配信の話が出て、僕らが雲類鷲さんから事前に聞いていた話を雲類鷲さん本人の口から雨月さんへと伝える。
「北斗、お前俺のクランに入らないか」
これは、雨月さんを厄介な人たちから守るための提案だった。
勿論それだけじゃなくて、自慢じゃないけれどユーフォリアは大手クランだ。雨月さんにとっても美味しい話だと思う。
そう思っていたけれど、雨月さんの答えはNO。
学生時代の話だったりもしていたけれど、本音はきっと僕達をこれ以上巻き込まないためなんだと思う。だって雨月さん、少し苦しそうにしていた。
結果的にスタンビートや有事の際は協力体制を取るって話で決着がついて僕達は雨月さんの家を後にした。
今はクランの会議室でフォルトゥナ4人で固まって雨月さんの配信を見ている。
配信開始した瞬間から流れる見るに堪えない罵詈雑言。
中には雨月さんのことへの犯行予告のようなコメントも流れていて。
「…何、これ」
「酷い…」
「……しかも、私たちの名前出して批判してる…雨月さん、誤解しない、かな…」
「雨月さん、お優しい人だから…心を痛めていなければいいのだけれど…」
そんな僕らの心配を他所に、雨月さんは徹底的に害悪なファンの人たちを成敗していった。
全て正論で返して反論を潰していく。
……怒った雨月さんの顔、仮面で隠れてるけどかっこいいんだろうなあ…。
はっ、僕は何を!?
コホン。雨月さんは一旦話を区切った後にスキルを使ってものを作る配信を始めたけれど…雨月さん、不思議そうに首を傾げているけれど東京ドーム3個分のマジックバッグは十分すごいんですよ??
…でもすごいな。
こんなものまで作れて、探索者としての実力は折り紙付きで、さらにはクランマスターともパーティを組んでいた存在。
一度、僕達と一緒にダンジョンに潜ってもらったりできないかな…それでなくてもコラボ配信とか。聞いてみたいこととか沢山あるし、もっと話してみたいし…。
もっと、雨月さんのことを知りたいな。
だから僕は気づけなかった。
セイナたちも、僕と似たような顔をして画面の中の雨月さんを見ていた事に。
あとがき
今回はちょっと短めに。
はい、まさかのヒロイン枠ではなくて男の子が最初の視点主でした。
こんな感じで北斗くんは男女関係なく惹きつけたらし込んでいく予定です。ハーレム?としたのはこんな部分があるからでして…。
もしかしたら雅の北斗に対する態度でなんとなく、お?これはもしや?と察した方もいるのかな?
とはいえゆるーく書くつもりなので北斗くんがいろんな人を惹きつける様をによによしながら楽しんでくださいませ。
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