「転校生がヴァンパイア娘でプリンを食べて世界を救った」 〜LVカンストチート!世界を裏切って救世主になってみた〜

Cor:set

第1話 蒼真の初陣 ― 焔生ほむすびの呼び声

◇◇◇



#1 平和を裂くノイズ


神楽市・住宅街


平和な夕暮れ時――のはずが、空が歪んだ。

ビリリリ……!という耳障りな音と共に、空間そのものが裂け、そこから異形の獣が這い出てきた。


――侵食体インヴェイダー


黒い肉片と金属片が無理やりくっついたような怪物が、家々を引き裂きながら咆哮する。近所の猫が逃げ惑い、どこかで車の警報が鳴り響く。



◇◇◇



#2 焔生ほむすびの覚醒


【蒼真の自宅・蔵】


高校生・雪村ゆきむら 蒼真そうまは、祖父の遺品を整理している最中だった。埃っぽい蔵の中、彼は一振りの古びた日本刀に手を伸ばす。


「……なんか、光ってる?」


妖刀〈焔生ほむすび〉――その名も知らぬ刀の柄に触れた瞬間、蒼真の手がピリッと鋭い痺れが走った。


「うわっ!? な、なんだよこれ……!」


刀は妙に手に馴染む。まるで「ずっと前から自分のモノだった」かのように。


その瞬間――


パキーン!と窓ガラスが割れ、侵食体が蔵に突入してきた!



◇◇◇



#3 魂の記憶と初陣


「ぎゃあああっ!?」


蒼真そうまは思わず刀を構える。すると……


(――えものを視ろ。

呼吸を読め。斬り払え。)


白い鎧の騎士の残像が脳裏をよぎり、知らない声が魂の奥から響く。気づけば蒼真そうまは、見たこともない流麗な動きで刀を振るっていた。


スパン!


銀光が闇を裂き、侵食体の首が鮮烈に刎ねられた。


「え……? 俺、なにした……?」


――どう考えても素人の動きじゃない。


だが、肉体が追いつかない。心臓は破裂しそうで、膝はガクガク、腕は鉛のよう。


「あ、あれ……? 無理だ……体が……限界……!」


魂が求める戦い方に、身体が悲鳴をあげている。



◇◇◇



#4 宿命の転校生


「終わった……!」


背後から別の侵食体が跳びかかる。鋭い爪が蒼真そうまの心臓めがけて――!


ゴッ。


衝撃音だけが響き、痛みは来なかった。


気づくと、侵食体は漆黒の影に叩き飛ばされ、壁にベシャリと貼り付いていた。


「……え?」


蒼真そうまが振り向くと、そこに立つのは、今日クラスに現れたばかりの転校生、冬崎ふゆざき 永瑠えるだった。


……が、今の彼女は教室で会った“転校生”とは別人のよう。


瞳はルビーのような深紅に輝き、肌は夜気のように透き通り、周囲の闇が彼女へ吸い寄せられるように揺れている。黒髪がなびき、制服のスカートがふわりと浮く。


その一瞥だけで、周囲の侵食体たちが一斉に凍りついた。


「……信じられない」


永瑠える蒼真そうまを見ず、ただ刀を見て呟く。


「その刀……。その魂……。あなたは、誰なの?」


彼女の目には、困惑と警戒の色が浮かぶ。〈焔生〉は永瑠えるにとって、“ルシェルを殺すために作られた千年の武器”だったのだ。



◇◇◇



#5 宿命の共闘


「ゴオオオオオ――!!」


空の裂け目から、さらに巨大な怪物が降り立った。人の三倍はある異世界の“中ボス”だ。


永瑠えるは闇の異能で迎撃するが、その爪を受け止めた瞬間――

再生速度が一瞬だけ遅れた。


「っ……!」


不死の彼女にも、“魂の揺らぎ”がある。永遠の命は、永遠の苦痛でもあった。


そのとき蒼真そうまは、永瑠の首筋に浮かぶ赤い一本の筋に気づく。


(……この子も、苦しんでいるんだ)


しかし怪物は蒼真へ迫る。逃げ場はない。


視界が白く弾けた、そのゼロコンマ何秒かの世界で――


刀〈焔生〉が赤く燃え始める!


――視える。


敵の攻撃軌道。

永瑠えるが再生を終える瞬間。

自分の踏み込む角度。

焔生ほむすびが貫く位置。


そして、


数千年前のルシェルと那美の最期の光景が流れ込む。


(そうか……これは“未来”なんかじゃない)


今襲っている災厄は、遥か過去に起きた因果の連鎖の結果なのだ。


蒼真そうまは未来を視ているのではない。過去の因果が魂を通して蘇っているのだ。


永瑠える――!!」


蒼真そうまは叫ぶ。


「右へ跳べ!

そしたら……俺が刺し貫く!!」


永瑠えるの表情が揺れ――

次の瞬間、「信頼」に変わった。


蒼真そうまの予測どおり、永瑠は右へ跳躍。

蒼真そうまは全身の力を焔生へ込め、怪物の急所を突く。


ドカ――ン!!


銀光と闇と血が重なり、怪物は絶叫とともに崩れ落ちた。


静寂


神楽市に戻る静けさ。蒼真そうまは荒い息のまま立ち尽くす。

永瑠えるも再生を終え、ゆっくりと蒼真そうまを見る。


「……あなた、今の動き……知っていたの?」


「ああ。知ってた。まるで……」


蒼真そうまは手の中の妖刀を見つめた。


「……遠い昔から、

何度も何度も、

繰り返してきたかのように。」


目の前の少女の瞳に、深紅の光が揺れる。


それは、

蒼真そうまの“魂の記憶”が呼び覚ました

輪廻の断片だった。


――ここから、世界は大きく動き出す。

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