第31話 岡田の夢(前半)
岡田誉
年が明けた、ある日のことだった。
見慣れない校長が、まるで誰かに聞かれてはいけない話をするように、声を落として言った。
「……君たちが卒業したら、この学校は廃校になる。」
一瞬、音が消えた。
耳鳴りがして、時間だけがずれたような感覚に襲われる。
俺たち十一人は、互いの顔を見合わせたまま、誰一人として言葉を発せなかった。
空谷は入院し、棚橋と岩谷は亡くなり、
監督と校長もこの世を去り、そして今度は――学校そのものが、消えるという。
俺たちの周囲に向けられる視線は、いつしか決まっていた。
――あいつらに関わるな。
――あいつらのせいで、学校が終わる。
ある日、三年の先輩が吐き捨てるように言った。
「野球部のせいで、俺たちの就職先が決まらないんだ。
なあ、お前ら……どう責任とるつもり?」
その言葉は、殴られるよりも深く、胸の奥をエグッた。
「……俺たち、何かしたか?」
声にならない問いが、喉の奥で震える。
「俺たちはただ、真面目に部活をしていただけだ。
ただ、それだけだった……」
答えは、どこにもなかった。
俺たち十一人は、同じ教室にいながら、同じ言葉を胸に抱えたまま、誰一人、声にすることができなかった。
――気づいた時には、俺たちはもう「部員」でも、
「生徒」でもなかった。
ただの、“必要のない存在”になっていた。
その現実は、校舎の外にも広がっていった。
SNSの画面に並ぶ文字は、俺たちを名指しで追い詰めてくる。
逃げ場は、もうなかった。
「……陸斗。」
あの頃の自分たちを、ふと思い出す。
何も疑わず、ただ前を向いて走っていた頃の俺たちが、羨ましかった。
そして、どこかで、その頃にはもう戻れないと分かっていた。
その日を境に、俺たちは学校へ行くことをやめた。
教室の窓を通して聞こえるはずだったチャイムの音も、仲間と走ったグラウンドの音も、すべてが、遠い世界の出来事になっていった。
俺たちの周囲を、不穏な風が、静かに包み込み始めていた。
第32話へ続く
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