第9話 夢への一歩
月日は流れ――。
陸斗が引き籠もるようになってから、海斗は
「兄の存在」を胸に、驚くほどの速さで成長していった。
投げては相手打線をねじ伏せ、
打っては勝負どころで結果を出し、
気づけば、いくつもの大会で優勝旗を掲げていた。
ベンチに戻るたび、海斗はついスタンドのどこかを見上げる。
そこに兄がいるような気がして。
――見てくれてるよな、兄ちゃん。
そんな日々を積み重ねるうちに、
海斗はいつしか陸斗よりも注目される選手になっていた。
そして、ついに。
ポストに入っていた一通の封筒が、すべてを変えた。
≪推薦入学のお知らせ≫
封筒を開いた瞬間、手が震えた。
そこに書かれていたのは――
陸斗がかつて通っていた高校からの、推薦の知らせだった。
急いで兄の部屋へ向かった。
ふと目を向けると、自分の部屋のドアの前にハンバーガーの紙袋と一枚の紙が置いてあった。
≪今日の晩ご飯はハンバーグじゃないよ≫
思わず笑いがこみ上げた。
たった一言なのに、兄らしさが滲んでいた。
紙袋を手に、兄の部屋の前へ向かい、軽くノックした。
「兄ちゃん……ありがとう。」
ドアの向こうを見つめながら、言葉を続ける。
「ここまで来られたのは、家族のおかげだよ。
兄ちゃんがいなかったら、きっと僕はここまで来
られなかった。」
握りしめた推薦通知が、じんわり手のひらを温めた。
「とりあえず、一つ目標はクリアしたけど……まだ
まだだね。」
ふと、昔の記憶がよみがえる。
「あの時マウンドに立っていた棚橋さん、プロにな
ってマネージャーの人と結婚したんだって。
それも兄ちゃんのおかげなのかな?」
少し間を置いて、ずっと胸にあった疑問を口にした。
「兄ちゃんは、これで良かったの?
本当は兄ちゃんが、甲子園のマウンドに立って、
優勝して、プロになれていたんじゃないの?
自分の夢を捨ててまで、僕に託したんだよ
ね……?」
喉の奥が熱くなる。
「だったら――絶対、甲子園へ行くから。
兄ちゃんが立つはずだったマウンドに、僕が立っ
て、甲子園で優勝するよ。」
言いながら、自分自身の決意の重さに気付く。
「だったら、一緒に叶えようよ。もっと頑張るから
さ。」
少しだけ、いつもの調子を取り戻す。
「あれから手紙でしか会話してないけど、ちゃんと
ご飯食べてる?
……髭、ちゃんと剃ってる?」
ドアにそっと手を添えた。
「もしかしたら、僕……兄ちゃんの身長、超えたか
も。
早く会いたいな。」
そして、最後にぽつりとこぼす。
「もし、兄ちゃんが引き籠もってなくて、学校に行
っていたら……どうなってたんだろうね。
そっちの方が良さそうな気もするけど……」
すぐに、自分でその言葉を打ち消した。
「あ、そっか。
そっちの未来は“最悪”だったんだよね。
だから、こうやって兄ちゃんは頑張ってるんだよ
ね。変なこと聞いてごめん。」
ドアから手を離し
「前世ってことは、人間は同じ人生を何度も繰り返
しているの?
……まあ、何でもいいや。」
紙袋を握り直す。
「ハンバーガー、ありがとう。おやすみ。」
第10話へ続く
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます