第2話

 相変わらず騒がしい廊下を歩き、僕の教室まで歩く。人混みの中を上手い具合に交わして、教室の目の前まで到着すると、扉を塞いでいる男子の集団が意気揚々と話している。仕方なく諦め、少し遠回りになるものの、奥の扉に目を移すもそこには女子の集団が目の前と同じく意気揚々と会話している。


「どいてもらっていい?」


 会話の邪魔にならない程度にその集団に話しかけたものの、返ってきたのはただの雑音だけだった、目の前の集団は会話に夢中になっていて一向に気づいてもらえる気配が無い。あと何回話しかければいいんだろ、と少し憂鬱気味になっていると教室の中の方から少し低めの声がする。


「ねぇ、邪魔になってるじゃん。どいてあげなよ。」


 するとその男子の集団は俺に気がついたのか軽く歩ける程度の隙間を開ける、僕はその少し窮屈な隙間をササッと移動し声の主の所まで小走りで歩く。


「さっきはありがとう。はぁ、ほんとああいうの邪魔だからやめて欲しいわ。」

「わかるよ、私もああいう教室の扉塞いでる女子男子嫌いだもん。」



 目の前には首元まである綺麗な髪を後ろに束ね、制服がよく似合っていて、僕より背が少し大きいからかこちらを少し見下ろしている幼馴染の奏恵だった。



「今日も相変わらず可愛いじゃん。」

「うるさい。」



 軽く奏恵からのからかいをスルーして席に着く、ちょうど僕が席に着いた時担任が教室に入ってくる。今日の授業の話や連絡、そのその他諸々の話をして十分くらいした後やっとHRが終わり、各自次の授業の準備をする、すると後ろから声をかけられ少し慌てて振り返るとそこに居たのは奏恵だった。



「ねぇ、今日も放課後一緒に遊ばない?」

「いいけど、お前委員会の仕事あるんじゃないの?」

「あぁ、それは大丈夫。今日は無いからさ。」

「わかった、放課後掃除が終わり次第玄関前で集合な。」

「うん、わかった。」



 軽く奏恵と会話をしてお互い別々の教室に移動する、僕と奏恵は同じくクラスだが中身の学科が違う、だから学校ではHRと昼休み、帰りの放課後しか会う時間が無い。だから少し寂しいし、体の中に穴が空いたような感覚がして気持ち悪い。早く会いたい。



 ━━━━━━━━━━━━━━━



 放課後、何故か僕は奏恵の部屋で正座をさせられ、目の前には大量のコスプレ衣装の山を見つめながら話し合っている奏恵と結愛の姿が。



「あの、解放してもらってもいい?」

「ダメだよ!また女装してもらうからね!」

「うん、昨日は意外と可愛かったし。またよろしく。」

「……」



 何故こうなったのか。放課後、昨日と同じように奏恵と僕は一緒に帰っていた。愚痴を言ったり楽しかった事を話したり、そんな事を話しながらちょうど何時もの分かれ道に到着し、互いに別れを告げて反対方向に歩こうとした瞬間、事件は起きた。



「ごめん、蓮。」

「え?」



 振り向こうとした瞬間体の浮遊感を覚え、急に足が地面から離れ微かにお腹に圧迫感を感じる。そこで察した、今僕は奏恵に担がれているということに。



「ちょっ!何してんだ!」

「うるさい。」



 奏恵の鋭い目つきに萎縮してしまい抵抗する気力が一気に無くなってしまう、こんなの周りに見られたら笑われるだろうし、だと言って抵抗して奏恵に怒られるのは少し怖い。そうして怖気ずきながら奏恵に担がれるという、なんとも言えなに構図の状態で奏恵の家までお持ち帰りされ、今現在進行形で女装させられそうになっているわけで。



「よし!今日はこれを着て!」

「え?」



 結愛が渡してきたのは、白いフリル付きのドレスと黒いリボンが特徴的なワンピースだった。触ってみると肌触りは意外にもサラサラしていて少し気持ちい、そうして相変わらずの甘い匂いに嗅ぐのを辞められなくなってしまう寸前で何とか自我を取り戻し、慌てて顔から離す。



「臭かった?」

「いや、いい匂いだった。」

「正直すぎるのもやめてよね。これが長い付き合いならまだしも、それ以外だったら軽蔑してるところよ。」

「はい」



「軽蔑してるところよ」と言いつつも若干冷たい目をしている結愛を横目に着替え始める。子供の頃に奏恵が来てたのが可愛くて、僕もよく親に頼んでいたものの「あれは女の子の服だから」という理由で断られた苦い思い出も少し思い出したものの、それを振り払い服を脱ぎ着替える準備をする。ワンピースのボタンを外し、袖に腕を通す。次にボタンを首元まで付けて、腰あたりに白いベルトを巻く、最後にリボンを首に付けて完成。鏡で見てみたものの僕なりには意外にもいい出来だった、このワンピースも可愛いし奏恵や結愛がどんな反応をするのか楽しみになると同時に、僕の顔が中性的な顔付きだということを実感させられて少し寂しくもなる。


 着替え終わり、後ろを向いてくれている奏恵と結愛の肩を軽く叩く。



「着替え終わったけど、どうかな。僕的には可愛くていいと思うんだけど。」



 奏恵と結愛は同時に振り向くと、目を大きく開けて口をポカンと空けていた。これじゃ感想が聞けない、困ったものだ。反応するように頭を撫でてみたり、頭を叩いたりしてみたものの反応がない。



「あの、大丈夫?」



 すると結愛が口をワナワナを震わせ、顔を真っ赤にして大声で喋り出す。



「な、なんなの!可愛くすぎるでしょ!私より似合ってるなんて、なんか許せないわね。」

「奏恵はどうおも……」



 もう片方の方へ視線を向けると、奏恵は普段学校にいるのと同じ人物なのか?と疑うくらい顔を真っ赤にして空いた口元を手で隠していた。



「奏恵はどう思う?」

「可愛すぎて、お……おかし━━━」

「ストップ、やめなさい。」



 その後奏恵と結愛は僕の撮影会を初めて、撮った写真を並べて会議をして、次着させる服を話し合っているらしい。


 15分くらい経過した後、奏恵がこちらを少し睨みながら近寄ってくる。僕の目の前に立つと突然座って、両肩に手を置き真剣な表情でこちらの顔を見つめてくる。



「明日休日でしょ?土日用事がないなら、二日連続で撮影会をするよ。」

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