第2話 異世界に足を踏み入れる前に
拉致されて目が覚めると、床の上で目覚めた。とても広く、周囲には何百何千の人、人、人。人種、年齢、性別は本当に千差万別。あらゆる言語で騒ついていた。
突如、バララララララッ! と銃声。恐怖で全員が身を屈めると、正面のステージに スーツ姿の白人が登壇していた。
黙れ! と、大きな声で言っている。色々の言語で聞こえた。だが、一言しかステージ上の白人は発していない。不思議な感覚だった。
「粗方静かになったから説明する。諸君等は、SAW法によって選ばれた異世界開拓団だ。先ずは、3ヶ月生き抜いて貰う。簡単だろう?」
え、説明はそれだけ……? 当然の様に、騒つく。そして、抗議の声が上がる。ふざけるな! や、食料を寄越せ! 道具を渡せ! 等の無秩序な暴言。2階からの、パン! パン! パン! 数発の銃撃で、何人か殺された。騒ぎが落ち着くと、ステージ上の白人は再び口を開く。
「お前達の命は、非常ッッッに軽い! 別にここで皆殺しでも、一向に構わん訳だが……どうする?」
シン……と、静まり返った。
「良い静寂だ……! 私は慈悲深い。少し話をしよう。この状況、不思議と思わんか? あらゆる国や地域から集まっている、お前達へ言葉が伝わっている状況がッ! そう……これは、魔法だ! 話した事が万人に通じる、とても便利なモノだ。異世界でも有効なモノで、この能力は全員にくれてやる大サービスだっ!」
確かに便利ではあるが……異世界で生きて行く為の道具や食料が欲しい。俺を含め、 ホールにいる集められた殆どの者達が、そう思った。
「お前達は、道具や食料が欲しいと思っているだろうが、それはやらん。ルールみたいなモノだ、悪く思うな。だがッ! 慈悲深い私は、もう1つ情報を哀れなお前達にくれてやろう! 異世界の空気を感じろ! 強く力が欲しいと願え! さすれば、生き残る為の力が手に入るだろう! 話は以上ッ! では、良い異世界ライフを……3ヶ月後にまた会おう!」
白人がステージから下りると、ホール左側のシャッターが一斉に開いた。その先の光景はジャングル。
「警告! 警告! 30分経過しても、ここから出発しない者は射殺する。繰り返す……」
自動音声が流れる中、意を決してジャングルに飛び出す者。兵士に食って掛かり、射殺される者。絶望で抜け殻になる者……様々だった。俺はギリギリまで、状況を整理しよう。そう思い、スペースの空いた場所を見つけ、壁を背にしてホール端に座った。
……とは言え、整理する状況なんて殆どない。半ば冷静に行動できる様に、心を沈める時間。会社をクビになって、何もヤル気は出なかったが、足掻かずに死ぬのだけはゴメンだ。周囲をゆっくり見渡すと、日本人で小太りの少年が、何やらブツブツ言っていた。
「異世界ったら、スキルにチートにハーレムだろ……! 目と鼻の先に異世界がある! 俺が先ずは得るスキルは……ステータスオープンッ!」
少年の目の前には、VRウィンドウの様な物が浮かんでいた。
(いやいやいや……身に着く力は1つじゃないかもしれないが、ステータスって……ゲームじゃあるまいし、レベルアップの概念が異世界にないなら、自分のしょうもない数値を見て、終わってしまうだろう?)
現に少年のウィンドウには、体力や知能、器用さに素早さの数値は1桁。スキルやチート、レベルの表示はなく、落ち込んでいた。
少年の逆を見ると、アジア系の女性が炎を手のひらに出していた。
(サバイバルに火は重要だが、ジャングルでは使いどころが難しいな。化け物が出現する事を考えたら、攻撃手段になる威力のモノが必要になってくるしな……)
聡い人間は白人の説明を聞き、異世界で生き残る為の力を得て、ジャングルに入ろうとしている。まぁ何人かは、どう考えても残念な能力を顕現している様だが……。周囲を観察していてステージ上に目をやると、いつの間にか大きなタイマーが設置されており、射殺されるまで後20分。
「お、俺の真の力を見せてやるッ! うおおおッ!」
ステータスウィンドウを出した小太りの少年は、怯えながらドタドタとジャングルに走って行った。火を出していたアジア系の女性もいなくなっていた。
(……例えるなら、10徳ナイフの様な能力を手に入れられたら良いのだが……)
考えが上手くまとまらない。未知の世界に足を踏み入れる恐怖が強いのか、仕事をクビになり、頭を使っていなかった弊害がここで出てしまっているのか、残り10分になっても、俺は出発する事が出来ず、何の力も持っていなかった。
焦りがピークに達した時、声が聞こえた。
『何が待ち受けているか分からないのに、能力を決めてしまうとかバカじゃないの?』
俺は声がした方向を見た。
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