第2話 誰もいない魔王城
勇者との戦いで負傷した魔王ヴィクトル様に代わって新たな魔王となられたのは、引きこもる…というスキルを持つサキュバスのミリス様。
その引きこもるというスキルのおかげで、魔王軍の方々はほぼ全員魔王城の外へと飛ばされてしまい、今城内はがらんとしています。
というか、絶対に勇者に負けない魔王って、結界の中に引きこもって勇者とは戦わないから負けないってことですか。
確かに負けはしないんでしょうけど、それでは勝つことも出来ないわけで……占いのやり方ちょっと間違えてませんか?キリオン様。
まあそれはともかくとして、私も魔王様…いえ、先代魔王ヴィクトル様からあとのことを任された身ですから、魔王ミリス様のお世話をしなければならないんですけど……どうしましょう。
これ、見つかったら私も外に飛ばされる可能性ありますよね。
とりあえずしばらくは、身を隠しながらミリス様の様子を観察するのが妥当といったところでしょうか。
「……あれ? 誰も…いない?」
あっ、ミリス様、魔王軍の方々がいなくなっていることに気づいた模様です。
というか、自分のスキルで皆さんを飛ばした自覚なかったんですか?
「ほ…ほんとに、誰も…いないの?」
ミリス様が、誰もいないだだっ広い集会場で、不安そうに辺りを見回しています。
やはり、こんな所にただ一人取り残されているというのは、不安…
「ふへへ…。誰もいない、一人きり。ふふふ~ん♪」
笑ってる、そして楽しそうに鼻歌歌ってます!
一人ぼっちで不安ということは一切なさそうですね。
むしろ一人だけの状況を思いっきり満喫しています。
「あのおじさん、わたしが次の魔王って言ってたけど、わたしが魔王なら、このままこのお城に住んでいいのかな? 大勢いる所は勘弁してほしいけど、こんなに誰もいないのなら、まさに理想の環境。ふへへへ……」
先代魔王ヴィクトル様をおじさん呼ばわりですか。
……まあ、おじさんですね。
ちょっとセクハラ気味なおじさんです。
「このお城、他はどうなってるのかな?」
あっ、ミリス様が集会場から出てきました。
見つからないように身を隠さないと。
「ふふ~ん、ふふふ~ん♪」
ミリス様、鼻歌を歌いながら城内を探索ですか。
魔王軍の方たちの前にいたときと違って、本当に楽しそうにしていますね。
さっ、私も見つからないように後を追わないと。
その後ミリス様は、とても楽しそうに誰もいない魔王城内を色々と見て回っていたのですが……
「さっき、なんかでかい音とか悲鳴が聞こえた気がするんだが、いったい何だったんだろうな」
「そんなの、ただの空耳じゃないのか? おれは何も聞こえなかったぜ」
「それはお前がいつもぼーっとしてるから…」
あれはもしかして、魔王軍の方たち?
そうか、城内の見回り当番の方たちは、あの場にいなかったから被害を免れたというわけですね。
「おっ、あんな所にサキュバスの子がいる。初めて見る子だけど、いったい誰だろう?」
「さあな。新しく入ったメイドとかじゃないのか」
「そうかぁ、サキュバスのメイドちゃんかぁ。いいねえ。サキュバスにしちゃおっぱいちっちゃいけど、顔はかわいいから全然あり」
「お前、それ本人の前で言うなよ」
「おーい、サキュバスちゃーん!」
あっ、あの見回りの方たちがミリス様のほうに近づいてきてしまいました。
「うっ…あっ、あわっ…わっ……」
ミリス様、つい先ほどまでの楽しそうな様子とは打って変わって、急に不安そうな表情でおろおろしています。
「君、新しく入ったメイドちゃん? もしよかったら、このおれが城内を案内してあげようか?」
「うっ…うぅっ……」
「あ…あれ、どうしたの?」
「お前がいきなりなれなれしく話しかけるからだろ。お前のような奴に急に迫られたら、女の子は怖がる…」
「えーっ? でもサキュバスの子たちって、基本男は誰でもウェルカムって感じじゃん」
「それは…まあ、そうだが……」
「うっ……」
ま…まずいです。
ミリス様の様子が、集会場で皆さんを飛ばしてしまったときと同じような感じに。
「おれ、全然怖くないよね、サキュバスのメイドちゃん」
「こ…来ないで…」
「えっ?」
「わ…わたしに、近づかないでぇぇぇぇぇっ!」
そしてあのときの惨事がまた起こってしまいました。
この見回りの方たちは、引きこもるのスキルによって魔王城の外へと飛ばされていってしまいました。
「うぎゃあぁぁぁっ!」
「な…何がっ、うわあぁぁぁっ!」
ああっ、残り少ない魔王軍の方たちが、またしても魔王城の外へ……。
これは私もうっかり見つからないように気を付けないと!
「っ! ……そこ、だ…誰か…いるの?」
ああっ、変に気合を入れたせいで、ついうっかり物音を立ててしまいました。
「だ…誰…なの?」
まずいです、このままだと私も魔王城の外へ飛ばされる羽目に。
なんとか、なんとかしないと……あっ!
こうなったらもう、イチかバチかでこれに賭けるしかありません!
「わんっ!」
「わん…ちゃん?」
ライカンスロープである私の能力、狼の姿への変化。
ミリス様は極度の人見知りっぽいので、人型でなくなれば拒絶されずに済むかも…と思ったのですが、これでいけるのでしょうか。
「わぁ、わんちゃんだー。おいでー、おいでわんちゃん」
怯えきっていた先ほどまでとは打って変わり、ミリス様は満面の笑みを見せています。
どうやら動物は好きなようですね。
つまり私は、この姿になっていればミリス様のそばにいても問題ない…と。
これは一歩前進と考えてよろしいんでしょうか。
「わんちゃん、よしよーし、よしよーし。かわいい、ふへへへ……」
あの、ミリス様、先ほどからずっと私を犬扱いして愛でてますけど、私犬じゃなくて狼ですから。
でもそれしゃべったら変身してるライカンスロープだとばれてしまうので、何も言えません。
やっぱり私、何も進んでいないですかね。
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