第26話 「今度『門』に行きましょう ~その2~」
論文が、全国ブロックで審査する事が決まった事を友人に伝えた。
なので色々事が落ち着くまでは、飲み会の類は控えたいと言った。
もちろん友人は納得してくれて、話の中でどちらからともなく、こんな提案が上がった。
全国ブロック審査の結果によって
「飲みに行く店を決めよう」と
詳細は以下の通りである。
・全国で審査落ち→家飲み
・「優良賞」に入賞→近所の焼き鳥屋
・「優秀賞」に入賞→「21」
・「最優秀賞」→「門」
そして「優秀賞」にノミネートされた。
この時点で「21」か「門」に行くか絞られた。
そして1992年10月、私は港区で論文を発表する。
発表して結果出てパーティ出て
新幹線に乗って、仙台に着いたのは夜中だ。
当時は、携帯電話なんて持っている方なんて
ごくごく一部の富裕層だけだ。
私はもちろん、固定電話しかない。
うろ覚えだけど、アパートに着いてすぐ友人に電話したはずだ。
友人は家族と暮らしている、夜中の電話は迷惑だ。
それでも電話したという事は、私が着く時間に待機してもらっていたと思う。
電話をしてすぐに、友人は出てくれた。
そして私は切り出す。
「論文の、結果が出ました」
「うん…」
「今度『門』に行きましょう」
友人の反応は、すぐには無かった。
受話器の向こうから、息継ぎが少し聞こえる。
何か、すすり上げる音がする。
「……よか…った…」
それは泣き声。咽ぶ声で
「…よかった…よかった…よかったぁぁぁっ!!」
受賞が決まった瞬間の
私よりも、泣いてくれた。
かくして数日後の週末
友人は、私のアパートに来た。
二人で部屋を出て、駅に向かう。
焼き鳥屋の前を通る。
「優良賞、バイバーイ」
と二人で手を振る。
いや美味しい店だけどね、特に鳥わさ。
国分町に入り「21」の前を通る。
「優秀賞、バイバーイ」
そして、目的の店の前に立つ。
ショットバー「門」
昭和24年創業
東北最古の、ショットバーだ。
木造りの扉を開ける。
中は結構広い。
古びてはいるが、よく磨かれた木製のカウンターとテーブル。
カウンターの向こうの棚に並ぶ無数の酒瓶。
一人立つマスターの出で立ちは
白いワイシャツに黒いレザーのベスト姿だ。
この店には、ドリンクメニューは無い。
食事も、軽いナッツやスナック程度だ。稲庭うどんあったかな。
客は、飲みたい酒やカクテルを好きに注文する。
マスターは、大抵のリクエストに応える。
そうここは
カクテルや酒の知識をある程度備えていった方がいい店だ。
もちろん、具体的な知識は無くても
「こんな味のカクテルが飲みたい」
とリクエストすれば、マスターは応じてくれる。
私も友人も、カクテルの基本知識はある。
「門」で飲んだカクテルは、2杯ずつくらいだったかな。
私は確か
「テキーラ・サンライズ」を頼んだと思う。
二杯目は覚えていない。
友人の一杯目のカクテルは覚えていない。
ただ、友人が二杯目のカクテルの名を告げた時
私は硬直した。
「ロングアイランド・アイスティー」
これは、7種類もの酒や飲み物を合わせるカクテルだ。
アイスティーと名前には付いているが、紅茶は使わない。
7種の飲み物で、紅茶に近い味を出すカクテル。
作る側の難易度は、高い。
多分値段も高い。
そのカクテルの名前を聞いた時のマスターの表情は忘れられない。
少し表情が強張って、一瞬目が厳しくなる。
しかしその口元は、すぐに少し笑った。
勝負を挑まれて「受けてやろうじゃないか」
という感じの、男の表情だ。
マスターは何も見ない
言われてすぐに、慣れた手つきでカクテルを作る。
どの注文に対してもだ。
殆どのカクテルのレシピは、全て頭に入っているのだろう。
カクテルを飲みながら、店内を一望する。
圧倒されるのは「天井」だ
古い時計や骨董やアンティークが
不規則に折り重なって、天井を埋め尽くしている。
それらは全て黒い埃が積もっていて
煙草が出す汚れも、時と共に積み重なっている。
もちろん「綺麗」ではない。
しかしその汚れは、昭和24年からという
時の重みを感じさせて、威厳すら感じる。
それが私の「門」の記憶だ。
その時代、ガイドブックに載る事すら拒否した「門」だが
時代の流れと共に、ネットでも店の場所と様子を知ることが出来るようになった。
さっき、食べログで現在の「門」の内観を確認した。
店内のアンティークは、とても綺麗だ。
それはそうなんですよ。
3.11の時、天井のアンティークは、全て落下してしまいましたから。
店は、かなり大破したそうです。
コロナ禍でも、大変だったろうなあ。
それでも「門」は、現在でも営業中です。
酒・煙草を嗜める方なら
是非、お勧めしたいお店です。
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