第19話 作戦
防音の会議室に、オフィリア05部隊とローゼン02部隊が集まった。
指揮をとるのは、基地司令の生島だ。
副司令の剣崎は、その異髄力でそうそうオペレーションルームから離れられない。
ローゼン02部隊にも事情を話すところから始まり、カガリたちは机の上の駒を眺めていた。
「我々の担当は、奥多摩の有識者の移動だ。旅客機型のコープスイングでおよそ三十分と少しといったところか。他の支部はそれぞれの県で応援を受けるとのことだ。本部は一部は護送、残りは先に富士山麓で、受け入れ態勢をとる」
生島は、飛行機のおもちゃを地図に乗せる。
「
人型のおもちゃを、生島が飛行機の側に配置した。
つまり、部隊から一人ずつ有識者たちの付き添いにだし残り三名ずつが、万が一の襲撃に備える役だ。
はい、と種田上等兵が手をあげる。
「有識者の付き添いは、自分がやります。ここは若手よりベテランのほうが、不安にも対応しやすいでしょう」
「では、うちの部隊でも最年長を出します」
ローゼン02部隊の鷲塚中尉が、年かさの隊員に頷いた。
いくら頑張って声をかけても、見た目の力は強い。
ここは貫禄があるほうが、適任だろう。
「部隊で前方と後方にわけたほうがよさそうですね。うちはどちらでもいいですよ。新人さん二人抱えている、オフィリア05部隊のほうで好きなほうを取ってください」
鷲塚が、結んだ長い髪を背中に流す。
どちらでも良かったのだが、前方のほうが危険な気がしたのだ。
「では、前方で」
「承知しました。では、我々は後方で」
「襲撃が起きた際は、臨機応変に頼むよ」
生島が、カガリのピリピリとした空気を察知したように言葉を添える。
カガリと鷲塚は、異髄力も少し似ていた。
カガリは空中に縫い付ける能力だが、鷲塚の異髄力は”シャドウ・バインド”といって影で拘束する力だ。
なおかつ、安易に揚羽の肩を触ったりするので、カガリは気に入らない。
鷲塚のほうも、自分の異髄力の上位互換であるカガリを嫌っているのでお互い様だ。
「旅客機型のコープスイングってわたしは操縦できないんですが、今後訓練に含まれるのでしょうか」
揚羽が、生島に問う。
ローゼン02部隊の中では揚羽が一番の新人になるため、質問の期をうかがっていたものらしい。
「ああ……旅客機型のコープスイングは軍のかなり初期に避難民や移住用に作られてね。ベテランの隊員は結構経験があると思うんだが……こういう事態が起きているし、希望者には操縦訓練もしようかね」
「わたし受けたいです!」
「オレも受けます」
「私もお願いします!」
揚羽に次いで、カガリと月子も勢いよく挙手する。
生島は、破顔した。
今後そう機会がないことかもしれないことを、若者が志願してくれることはありがたい。
訓練は、貴重な休みを潰すことになるが、それは顔を見れば覚悟済みだ。
「では、それぞれの配置を決めましょう――」
部隊ごとに分かれて、三名が旅客機のどこを守るかの相談に話は移った。
一番遠距離ダメージがある御厨が、中央。足止め能力として最前線がカガリ。月子は真ん中に配属が決まる。
種田は、同じく箱の中に配置になった隊員と話し込んでいた。
ローゼン02部隊のほうは、鷲塚が最後尾。前が揚羽で、ベテラン隊員が鷲塚の側になる。
カガリは、鷲塚の手が動くたびに揚羽に触れないかどうか尖った視線を向けていた。
鷲塚のたれ目がちな目が、それを面白がるように動く。
「じゃあ、中央側面で部隊のつなぎになるメンバーは要訓練でシュミレーションすること! これでよろしいですか?」
「誰か一人でも不安がある際はいつでも会議をしよう。ミスがないことが大事なんだ。何か心配なことがある隊員は、臆せず話に来てほしい」
全員が生島に敬礼をする。
誰の目にも迷いはない。
退出してすぐ、揚羽がカガリを呼び止めた。
「なんで前方にしたの?」
最近なにかと呼び止められるカガリだが、相手が揚羽なら文句などない。
意味深な視線を送る二つの部隊が完全に遠くに行くまで、ジト目で見送った。
「なんでって、選んだのは隊長が……」
「その沙良隊長に、あんたが言って決めたでしょ」
御厨は本来なら会議で、生島司令の次に偉い。
しかし、会議を進めたのは生島と鷲塚中尉がメインだ。
控えめな御厨に、強気なカガリが副隊長につけられたと言っていい。
「それは……前方のほうが戦いやすそうだったから」
「ホントに?」
本音を言えば、より危険ではないほうに揚羽を配属したかった。
それがバレたら、揚羽は怒るだろう。
「ほんとだよ。オレの能力じゃ、後方にいたって仕方ないだろ」
「前方から
「……鷲塚隊長がこっちで選べって言ったんだぜ。選んだあと、文句もなかったし」
「それは、そうだけど……」
揚羽の色素の薄い瞳が、カガリを直視する。
「カガリは優秀だと思うけど、月ちゃんのことも考えてあげなね? 悩んでたら聞いてあげるんだよ」
「さっきから五百雀の話ばっかりだな。別にうちだって隊長もタネさんもいるし。つーか、ライバルのオレに相談なんてしてこねーよ」
カガリとしては、なんで揚羽がそんなに月子の話題を出すのか分からない。
一方揚羽としても、月子が悩んでいたことは勝手に話せなかった。
「もういい! ちゃんと月ちゃんのこと考えてくれてるならそれで」
「なんだよ、その言い方。五百雀は強いよ、同期のオレは知ってる! けど揚羽は防衛高の一年のときしかあいつを知らないだろ? オレは揚羽が無理しないように――」
あっと思ったが、もう遅い。
滑り出た言葉に、揚羽が肩を怒らせた。
「ほーらホントはわたしのことじゃん! 月ちゃんは入隊して間がないのに……わたしは三年目だよ? カガリはいつも私の心配ばっか! もう知らない!!」
軍靴を鳴らして、揚羽は立ち去ってしまった。
カガリは、ため息をつく。
揚羽のための前方をとったことは、さすがに隠すべきだった。
「だいたい、なんでオレが揚羽の心配したらダメなんだよ……女って意味ワカンネー」
不満を垂れ流しながら、カガリはシュミレーションルームへと歩いていく。
廊下の途中で、姫川四葉二等兵がその背中をじっと見つめていた。
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