第31話 神格化

 お昼休み、僕の教室。


「そうね。このゲームも結構様になって来たんじゃない?」


 どうだろう。

 一見対戦にはなっているけど。

 まだ見つかっていないだけで、致命的な欠陥がありそう。


 今はトランプをやっている。

 先輩が考えたって言うゲームで、検証も兼ねて遊んでいる真っ最中。


「そろそろ数を増やしてみましょうか」

「えっ?」

「二人もいいけれど、大人数でやった方が面白いと思うのよ」

 

 誰か混ざるのか。

 

 正直、僕と先輩の間には誰も来てほしくない。

 今まで僕らだけだったから、今さら誰かに来られても。

 普通に人見知りだし。


「そうね。わたしの友だちから誰か……あっ!」


 先輩が廊下の方を見ている。


「あの子、名前はなんて言うのかしら? ほらっ、あなたとよくいる女の子」


 僕といる女子。

 それって、瑞希のこと?


「霧島さんだけど、なに?」

「そう。ちょっと待ってて。呼んでくるから」

「あっ、先輩……」


 行ってしまった。

 

 えっ、瑞希を呼んでくるってこと?

 なんで急にそんなことを。


「お待たせ」


 すぐに戻ってきた。

 やけに早い気がする。


「それじゃあ霧島さん、あそこの雪宮君がいるところに座って」

 

 瑞希だ。

 先輩に連れられて瑞希がやってきた。


「雪」


 うっ、目を細くされた。

 これはどう言うことだ、って顔をしている。


「なんで瑞希を」 

「偶然廊下にいるのが目に入ったの。あなた的には霧島さんがいいかと思って」

 

 それは、たしかにそうだけど。


「瑞希は人見知りなんだ。あまりこう言うことは……」

「えっ、そうだったの……ごめんなさい」


 先輩の謝罪。

 

 瑞希は、


「ん」


 大丈夫って感じで頷いた。


「良かった。次は気を付けるから」

 

 先輩に対しては怒っていない。

 あくまで僕が悪いことになっている。


「良い子じゃない。あなたと違って」

 

 あとで怒られるヤツだ。


「今回、霧島さんにお願いがあって、ゲームに参加してほしいの。わたしが考えたゲームなんだけど──」

 

 先輩がルールを説明した。


「とまあ、ルールについてはこんな感じ。勝つとグミが一個もらえるから頑張って」


 理解したらしい。

 瑞希がトランプを持って着席している。


「霧島さん、何を考えてるか全く読めない。これは強敵ね」


 たしかに強敵ではあるけど……



 

 それから、


「う~ん、三人だと複雑ね」


 あんまり盛り上がらない。

 グミの減りもいまいち。


「勝負が着かないことも多い。何がダメなのかしら」


 所詮は素人が考えたゲームだ。

 ここが限界なのかもしれない。

 二人であれだけ白熱すれば十分だと思う。


「霧島さん、ごめんなさい。せっかく参加してもらったのに」 


 瑞希は、問題ない。

 用が終わったならもう帰るそうだ。

 

「そうは言っても、まだ時間はあるし。帰ってもらうのは申し訳ないわ」

 

 気にしないで良いと思う。

 そもそも嫌々だったし。

 

「そうだ。ねえ霧島さん。良かったら、あなたと雪宮君のことについて聞かせてくれない?」


 えっ?


「気になってたのよ。あなたたちってよく一緒にいるじゃない? 一人好きなこの子にしては珍しいと思って」


 僕が誰かといたらダメなのか。

 

「もちろん嫌ならいいんだけど。ダメかしら?」


 僕らの関係を聞きたいそうだけど。

 

 どうする? 瑞希。

 僕がアイコンタクトを送る。


 瑞希の反応は、なるほど。

 先輩の質問次第って感じか。 


「そうね。じゃあまずは、いつ頃の関係なのかしら?」

「小学校」

「お友だちってことで良いのよね?」

「昔の連れ」

 

 先輩と瑞希による質疑応答。

 これだとあっさりし過ぎだから、

 

「瑞希とは小学校からの付き合いで、世間的で言うところの幼馴染ってことになる。学校に馴染めない者同士で気があって、よく一緒に遊んでいた」


 瑞希は認めないけど、僕は友だちだと思っている。

 

「へえ、どんなことをしていたのかしら?」


 えっと、

 

「鬼ごっこにかくれんぼ。砂場で遊んだり。野球、サッカーとか。日によって色々」

「虫取り」

「そうだった。クワガタを一緒に飼ったりもした」

 

 懐かしい。

 他にも色々やった思い出。

 

「それって、全部二人でやっていたの?」

「そうだけど?」


 あの頃は楽しかった。

 放課後でも普通に遊んでいた。

 夏休みも結構会っていたし、今となっては考えられない。


「じゃあ、昔の雪宮君はどんな感じだったのかしら?」

「なんで僕?」


 瑞希との昔話じゃなかった?

 

「一度第三者に聞いてみたかったの。昔はどんな子だったのかなって」

 

 昔の僕について知りたいそうだ。

 どうしようか……


「雪」

  

 こっちを見て確認してきた。

 うん、瑞希に任せる。

 

「臆病。あとは普通」


 まあ、そうなるか。

 概ね妥当な評価だから言い返せない。

 

「へえ、どんな所がそうだったの?」

「すぐ怯える」

「あら、可哀そう」


 これだとあれだから、少し補足しよう。


「小学生の時、上級生に絡まれたことがあるんだ。僕が遊んでいた砂場が、彼らの縄張りだったらしい」

 

 どうせなら旗とかの目印を立ててほしかった。

 知っていれば遊んだりしなかったのに。

 

「お城に夢中で、気が付いたら囲まれていた。逃げようとしたんだけど、足がすくんじゃって」

「まあ、それは大変……」

「でもすぐに瑞希が駆けつけてくれた。凄いんだ。上級生三人を相手取って、そのまま追い払ってしまった」

 

 三人を相手に互角以上の戦い。

 助かったことよりも驚きの方が強かった。

 普通に勝つんだ……って。


「またそれか」

「うん。だってあの時の瑞希、カッコよかったし」

 

 以降、上級生に絡まれることはなくなった。

 瑞希のことがトラウマになったんだと思う。

 砂場は僕らの縄張りになったんだ。

 

「霧島さんは喧嘩が強かったのね」 

「雪の方が上だ」


 僕はいざ実戦になると全然ダメで。

 総合的に見ると瑞希には敵わない。


「瑞希は昔から凄いんだ。 二重飛びは速すぎて見えないし、リフティングは無限。気が付いたら木に登っていた」


 食べられる植物にも詳しい。

 抜群な空き缶の射撃センス。

 小学生でもできる火の起こし方。

 遊びの知識が色々あって、いつも驚かされた。


「今だから言うけど、当時は僕の憧れだった」

「やめろ」


 どれも器用に、それでいて上手くこなして見せる。

 このクールな雰囲気も相まって、特殊部隊の人に見えていた。

 真似をしようとしたけど、とても無理だった。


「それに親同伴で、川に泳ぎに行った時なんて──」

「待ちなさい」


 先輩が止めてきた。


「なに?」

「盛り上がってるところ悪いのだけど、そろそろこの辺に」


 両手でストップしている。

 もう勘弁してって感じに。


 話過ぎたかな。

 でもまだ時間はある。

 

「ごめんなさい。思ったよりわたしの嫉妬が凄いから」

 

 

 嫉妬?

 先輩から聞いたのに。

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