6. 図星
「んぐっ! ど、どうしてそれを!」
唾が肺に入り込み咳き込む。大いに肩を震わせ声を搾ると、霧雨くんは「ビンゴや」と愉快げだった。
「逆に俺が知らないとでも思ったん? オレ、れんれんとは意外と長い付き合いなんよ」
「そ、そう言えばそうだった……」
霧雨くんたちの関係性を思い出し、僕は引き笑いになる。
「れんれん、あんなに真っ直ぐだから恋愛もド直球に行くのかと思ったんやけど、意外と奥手なんよ。まぁ、すみちんが鈍チンだったと言うこともあるんやけど」
「に、鈍い……? 僕が?」
そもそも本当に練太郎くんが僕を好きだと言う様子は見られなかったし、そんな反応をして当然じゃないか。
しかし、霧雨くんは明らかな溜息を吐いて僕をジロリと見る。
「そう言う自覚のない所やで」
「ええ? そんなことを言われても……」
「まぁ、すみちんが鈍いのは今に始まったことじゃないから気にせんでええけれど」
いや逆に気にしますが?
「それより、どうなん? すみちん的には」
「え?」
胸の鼓動が大きく脈打ち、わざと惚ける。
「だーかーら、れんれんのこと。れんれん、結構優良物件やと思うんやけれどなぁ」
「ゆ、優良物件?」
「だって、顔良し性格良し、女子からモテモテなの知ってるし。将来性はもう確定に安泰やろ。空手家だし! それに、部を極めているから礼儀作法はきちんとしている。ダメダメな点って言ったら、恋愛には奥手で料理が下手な点や」
「練太郎くんって料理が苦手なんだ」
てか、そこまで知っているなら、霧雨くんが練太郎くんと付き合えば良いんじゃないかと思う。僕の考えが見破られたのか、「今変なことを考えたやろ」と睨まれた。
「ねぇ、練太郎くんがどんな料理を作ったか見せてくれない?」
「ええで! これはなぁ、れんれんが色付きのクレープを作ろうとして失敗したやつなんやけれど……」
「おい、墨怜に何見せようとしてるんだ」
霧雨くんがスマホを見せようとする前に、当の本人が現れる。思わず緊張してしまい俯いた。
どうしよう手汗が出てきた……。
てか、練太郎くんと何を話せば良いんだ。
「墨怜」
練太郎くんが僕の名前を呼ぶ。恐る恐る見上げると綺麗な吊り目と合った。真っ直ぐな眼差しにどうすれば良いか分からず気がつくと、胸の高鳴りが生まれる。
「お、おはよう」
練太郎くんは、僅かぎこちない口調で挨拶をする。僕も釣られて辿々しくなる。
「う、うん。おはよう、練太郎くん」
「んふふ、熱々やな〜〜」
「お、おい。余計なことを言うな、霧雨」
「だってこんな、れんれんを見るの初めてなんやもん。ほんまウケるわ」
「ウケるな、全く」
練太郎くんは顔を赤らめ、霧雨くんの腕を突いた。普段は見られない彼の様子にいつの間にか口角が上がっていたらしい。
「笑うな。恥ずかしいだろ」
「わぁ、ちょっと練太郎くん」
突然大きな手が伸びて僕の髪の毛を撫で回す。彼の顔を盗み見るとほんのり赤くなっていた。居心地の悪そうな顔で僕を見つめる。
練太郎くんもそんな表情するんだ。
なんだか、可愛いなぁ。
「今変なことを考えただろ」
「え?! い、いや? ただ、練太郎くんの珍しい一面が見れたから、なんか可愛いなって」
「え?」
「あ、えっと! 今のは違くて!!」
どうしよう!
思わず口から本音が漏れちゃった!!
何か言い訳を探そうとあたふたしていると、「はぁ」という息が漏れる声が聞こえる。練太郎くんは更に顔を熱らせ、耳まで赤くなっていた。
「え?」
「すみちんたら、意外とタラシなんやな」
含みのある笑顔で霧雨くんは揶揄う。
え? たらしって、ちょっとそれどう言うこと?!
「墨怜」
「な、何?」
練太郎くんがずいっと顔を近付ける。
「……墨怜の方が可愛い」
「へぇ?! 練太郎くん何言ってるの?!」
「悪い。俺、部活のやつに呼ばれているから行く」
「ちょっと練太郎くん?!」
練太郎くんは僕の頭を撫でると、荷物を置いて教室を離れてしまった。頭が今でも撫でられた余韻が残り落ち着かない。
「んふふ、れんれんにしてはグイグイでええな」
「霧雨くん!!」
「まぁ、これでやっと本当の男前になったってことや。すみちんには色々耐えて貰わないといけないけれどな」
「霧雨くん?!」
「すみちん。少し考えてときなよ。れんれんとの関係について。れんれんは本気やで」
「……」
そこまで言われ、僕は何も叫べなくなる。
「それに、すみちんの好きな人ってめっさ大人なんよね? それで上手くいってるん?」
無意識に猿喰の顔が浮かび、俯いてしまった。
「まだ……」
「まぁ、あの様子じゃもしかしたら思わせぶりって言う気もするからな」
「お、思わせぶり……?」
「だってすみちんと一緒におる人、超絶美人やん。クラスの女子も騒いでたで。「すみちんの隣にいる人って誰?!」って。確かに、あの顔じゃ無双できるわな。何人ものの女と遊んできたって言われても可笑しないで」
「無双……」
もし、もしも仮にだ。
猿喰に本当に、恋人や愛人がいたとして、僕にいつも言ってくる言葉は全部嘘だとしたら。
猿喰はただ、僕が井戸口組の息子だから兄さんの命令に従っているだけで本当は何も思っていないじゃないのか。
「そんな筈…」
そんなことはないと言い切れないのが悔しかった。
「でも、そんな苦しい思いまでして好きになるのも辛いんとちゃう? それに、すみちんを本気で好きな人もいる訳やし」
「え?」
「まぁ、何かあったら言ってよ。オレはすみちんの味方やから」
「……うん。ありがとう、霧雨くん」
「ええんよ。オレら友達やもん。すみちんが幸せになれるなら応援する」
いつもの歯に噛む笑顔に僕は救われた。
◇
放課後は特に予定がない為、正門で待つ猿喰と一緒に帰路に着く。猿喰は黙っていれば絶世に美男子だ。女子たちが騒ぐのも分かるかも。
ただ喋ると相変わらず物騒で、ヤクザなんだなと思い知らされた。
反対に僕は今日の出来事が頭から離れられず終始緊迫としていた。未だに心臓の鼓動が鳴り止まなくて、猿喰に聞こえてるんじゃないかと考え込む程だ。
自室に戻っても何もすることがなく、ベットで仰向けになっていると、ケラトが「夜ご飯できましたよ」と部屋に入ってきた。
リビングへ向かうと、そこには滅多に見かけない兄さんと逆井、やねはるの姿もあった。
「あれ、兄さんたち……」
「今日は仕事が早めに終わったからたまには墨怜と食べたいなって。そろそろ、綺人と目次も来ると思うよ」
兄さんは緩い笑みを浮かべてそう言う。
「おーー! 坊、今朝ぶりですねーー」
「やねはるもお仕事お疲れ様……」
向かい側で胡座をかくやねはるは、僕にハイタッチを求める。僕が手を伸ばすと嬉しそうに叩いた。
「仕事なんて楽勝ですよーー! この俺にかかればお茶の子さいさいですから!」
「調子に乗ると痛い目を見るぞ」
やねはるの隣に座る逆井は済ました顔で湯呑みを持つ。静かな声に彼の耳がピクリと動く。
「はぁー? 何か言いましたか、逆井さん」
「俺は別に本当のことを言ったまでだ」
逆井はやねはるの顔を見向きもせず答える。淡々とした態度が気に食わなかったのか、「あーもう! ケラトーー!」とやねはるは台所に走って行った。
「全く、うちの組員はどうしていつもこうなんだか」
兄さんが呆れ混じり肩を落とす。僕はそんなことはないと首を振った。
「でも、仲が良くて良いと思うよ」
「墨怜はみんなのこと、怖い?」
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