ダーリアス・ラブグラドの独白

ミーツェの髪を整えながら、

ふと床に転がる折れた剣に視線を向ける。


……ああ、また力加減間違えた。

本気でやってないんだけどなぁ。


——俺は、“ラブグラドの怪物”だから。


俺もそのひとり。

子どもの頃から戦う才能ばかり育って、

気づけば当主候補なんて呼ばれてた。


でも俺が本当に尊敬してたのは——


姉だ。

ミーツェの母。


姉さんは強くて、優しくて、

俺が戦場から怪我して帰れば怒りながら手当てしてくれた。


「ダーリアス、あんたは強い。でも強いからこそ、その強さを奪うためじゃなくて守るために使いなさい。」


そう言って、頭を撫でてくれた。


姉さんの言葉は全部正しくて、

俺はいつだって姉さんみたいになりたかった。


……でも、俺はなれなかった。


戦場で名を上げれば上げるほど

敵は増え、恨みは増えた。


俺は泣きながら家を飛び出した。

戦場も、一族の名も、全部嫌になって。


もう誰かのために戦うのが怖くて、

もう誰かを守れなくなるのも怖くて、

ただ逃げた。


そして

――姉さんは死んだ。


俺が滅ぼした敵国の残党が襲ってきたのだとか。


守れなかった。

ずっと、その事実が胸の奥に刺さってる。


姉さんの葬儀のあと、屋敷に残されていたのが


――ミーツェ。


姉さんの子。

俺のかわいい姪。

妙に頭が良くて、ラブグラドの血を感じさせる子。


それでもまだ幼くて、震えるほど小さくて、

迷子みたいに泣きもせずに固まってて。


その姿を見た瞬間、

胸の中で何かが“ブチッ”と音を立てた。


——また守れなかったら、どうするのよ。

——また失くしたら、どうすんのよ、アタシ。


気づけば抱きしめていた。



「今日からアンタはアタシの子よ。文句は許さないから」



守れなかった姉さんの代わりに、俺がこの子を守る。

何があっても。世界中を敵に回しても。


そのために怪物として生まれたんだって、あの日初めて思えた。


姉さんが守れなかった未来を、アタシが守る。

この小さなレディのための怪物でいたい。


それがアタシの幸せだから。

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