魔法少女は日曜日の朝日を拝めない
如何ニモ
第1話 日曜日の朝、都会の片隅で
日曜日の朝に希望を胸膨らませてたあの頃。
カーテンの隙間から差し込む眩い朝日。寝起きの体をぐっと引き伸ばして、普段より少し遅く起きる。「今日は何して過ごそうかな」って、布団の中でぼんやり考える時間が好きだった。
あの頃の私、
学校の授業も、委員会の仕事も、両親からの期待も。全部、当たり前の生活の中に収まっていて。
日曜日の朝だけは、その全部から解放される唯一の“無敵の時間”だった。
――でも、もう私は日曜日の朝を迎えることができない。
人殺し。親殺し。偽善者。そうだ
「ふぅ………また嫌なこと思い出しちゃった……マジで病む」
何度目だろう。嫌な記憶が泥沼から這い上がってくる。止めていた息をむせるように吸い込んだ。
青ざめた顔を上げると、業務用の大きな乾燥機がグルグルと洗濯物を乾かしていた。石鹸と焦げた匂いが鼻を霞む。
私はそれをしゃがみながら、母親譲りの
胸に黒いリボン、ひらひらのフリルがあしらわれたピンクのセーラー。膝小僧が覗く黒いレーススカート。それに歩きづらい厚底ブーツ。どこにでもいる地雷系ファッション。
我ながら似合わないなと思うけど、この町に馴染むためには必要な装いだった。化粧をする余裕はないので、スッピンのブサイクな顔とにらめっこする。黒髪のポニーテールが子供っぽくて、可愛くない。
『……魔法少女が消えてから1ヶ月が経ちました。ウバウノダーと呼称する怪物が夢見町の至るところで暴れまわり、甚大な被害を起こしています』
コインランドリーの店内から流れる朝のラジオ。私以外は誰もいない静寂の空間、9月の涼しい気温が肌をさする。家出から1ヶ月、中学最後の夏休みも終わっちゃった。
私達がいなくなった夢見町では、ウバウノダーが好き勝手に暴れているらしい。でも、それは今となってはどうでもいい……いや、どうでも良くないか。友だちや近所の人、商店街や学校の人とか。親切にしてくれた街の人は、私の身勝手なせいで傷ついてるかもしれない。心にチクリとトゲが刺さる。
コンクリートの床に並べられた緑の丸椅子に尻もちをついて、私はスマホをフリックする。キラキラのラメやアクセサリーでデコられた、ファンシーな白と水色のカラーリング。これは、魔法少女にとって大事な変身デバイスも兼ねてる。名称はマフォン。電気と魔力で動く不思議なスマホ。
『やはり、魔法少女が現れないのは、あの事件が関係しているのでしょうか?』
『魔法少女の戦闘で、流れ弾による被害で死傷者6名、負傷者20名と大惨事でしたからね……彼女たちを非難する声は大きいです』
人殺しの魔法少女。それが、私が背負った大罪。SNSでは大炎上、好き放題言われてる。正義のための必要な犠牲だと言う人もいれば、人を殺したからには処罰されるべきだと言う人もいる。政府が極秘に開発した人間兵器だとか、意味のわからない陰謀論も飛び交う始末。みんな勝手だ。
昔、お父さんとお母さんに言われたことがある。「正しさは人を救うことが出来る。でも、正しさは人を傷つけることもある」って。私は正義の魔法少女として、町のために頑張ってきた。必死に戦ってきた結果が、両親を含めて人を殺めてしまったことなのなら、正しさってなんなんだろうね。
「DM来てるじゃん……」
パパ活の募集、おじからのDM。『お茶で0.5』か。まあ、いいかな……とにかく家出にはお金がいる。この町の女の子はそうやって日々をしのいでいる。
「日曜日なのに、なんでこんなにワクワクしないんだろ……」
乾燥機が終了のアラームを鳴らす。私は震える手で温かい洗濯物を取り込み、白い机に広げて並べていく。こんな生活、長続きしないって分かってるのに、なぜ私は依存してるんだろ。
ここは日曜日の朝じゃない。今の私は、誰にも祝福されない朝の中にいる。
『ウバウノダーを倒せるのは魔法少女しかいません。一刻も早く、魔法少女の帰還を願ってます』
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