異世界転生したけど、きちんとした説明は必要だと思う~チート持ちの転生者は望んだスローライフを送れない~

清川 遥

第一章 前世での好みの女性とはまるで逆の女性が気になる二度目の人生

第1話 いつの間にか転生する

気が付けば幼児だった。


トラックに轢かれたり、白い部屋にいたり、神様と話をしたりといったお約束的な前振りが何もなかった。なんだか知らないうちに見知らぬ子供になっていた。社会人生活3年目だった俺が、なぜだか幼児になっていた。訳が分からないよ、と言いたい。説明が足りないぞ、作品だとあまり長い転生パートをやられると読む気が失せるんだけど。


我が身に起こると、もっと説明してくれた方が良いに決まっている。事情が何も分からないのに、他人の姿になっていたことにはひどく驚くものだ。しかも、自分が知らない世界っぽいし。


異世界転生したけど、事前説明が足りない件。


本当にいきなり何の前触れもなく5才くらいの幼児になった俺は、自分の姿を見てみることにした。部屋にある無駄に大きな姿見で見る限りは整った容姿をしている。ただ、唯一にして最大の欠点は目つきが死ぬほど悪いのが問題だった。この年でシリアルキラーなのと問いたくなるくらいに荒んだ目つきをしているのだ。しかも、白目がちだから余計に救えない。三白眼だよ、ものすごい。


恐らく貴族階級であることは一週間ほど過ごして分かっている。美人なメイドさんに世話されて、ウハウハな日々を送りながら情報収集したかいがあったものだ。銀髪に赤い瞳の俺は極めて中二病っぽい見た目だ。


逆三角形じみた吊り目だが、親の遺伝子はどうなっているんだと問いたくなるくらいに目つきが悪い。両親は、領地の査察に行っているとかで俺はまだ会っていないのだ。あと、体が細いせいで頬の肉が削げていて顔がシャープになり、余計に目つきが悪い。


どうも、俺はかなりの偏食だったらしく、夕飯を全て平らげたら周囲の人たちからひどく驚かれた。ご飯を食べただけで褒められるなんて最高かよ、もっと褒めて。という感じで、日々をエンジョイしていたけどある日、親と会うことになった。


俺の両親は、銀髪で青い瞳の父と金髪で赤い瞳の母で目つきは普通だった。まあ、俺を見下して小馬鹿にする雰囲気が感じ取れるので親子関係は良くなかったことだけは分かる。


おい、俺の最悪なこの目つき は一体どこからもたらされたんだよ。


「久しぶりだな、アベル。階段から転げ落ちたと聞いた際には肝を冷やしたが思ったよりは元気そうだな。」

鷲鼻の下にたくわえた髭がイカす父が平坦な口調で言ってきた。ただ、言葉の割には嬉しさがあまりない感じだが。母親からも似たような雰囲気を感じ取った。なんだ、毒親か?


「あなたは、歴史あるザマーサレル侯爵家の跡取り候補なのですからね。好き嫌いが高じて、栄養失調寸前になり階段から転げ落ちるなんて愚かに過ぎる振る舞いはやめなさい。少しは、兄であるカインを見習いなさい。」

なんだ、その家名。あと、カインって誰だ?


「はい、以後気を付けます。」

俺がそう言うと、二人は驚いた顔をした。なんだ、返事すらできない無能と思われていたのか。俺が入り込む前の少年の記憶が無いからなぁ。この二人とも、親子という感じがしないんだけど。


まあ、俺が入り込んでも両親を悲しませるような結果になりそうにない事だけは幸いかな。


「分かればよいのです。これから、せめて貴族の息子として振舞える程度の努力をしなさい。あなたは物覚えが悪く、要領も悪いのですから。分かりましたね。」

「はい。」

「さ、あなた。我が家へ帰りましょう。」

「アベル。」

短く父が言う。

「はい。」

「7才の時にあるスキル判定の儀式と魔力判定の儀式の結果が、我らが無能なお前に与える最後の機会と思え。」

「分かりました。」

それが俺の覚えている両親との初めての会話だった。これ、物語の世界に転生したパターンか?ザマーサレル侯爵家なんてネタに満ちた名前に心当たりがない。俺とて、アニメ、漫画、ゲーム、ラノベと結構な数の作品を知っている自負がある。


だが、世の中にあるすべての作品を知っているわけではないからな。俺の状況は、原作知識が無いまま不遇なキャラに転生してしまった状況ということか。割と、ハードモードかな?


でも、家は金持ちだし、両親は俺に興味が無く俺がどんな振る舞いをしても関心が無いだろうから修業はし放題だな。


それから俺の周りの人間について知る機会が増えていった。まず、俺の周りにいるメイドが基本的に美少女メイドだった。うん、いいね!これからの成長が楽しみだよ。今の俺は5才らしい。


そして、俺の振る舞いが変わったことに屋敷にいる人間が次々に驚いて行くのが悲しかったな。俺は階段から転げ落ちたことと、両親から本当にきつい事を言われた結果心を入れ替えた少年という解釈がなされたらしかった。


性格が変わったことを詮索されても困るから、ちょうどいい誤解だったな。


そして、俺は転生後あるあるで自分の国について学ぶことを優先した。筋トレだって、始めているぞ。まあ、ストレッチをしてラジオ体操をして、日替わりで膝つきの腕立てに、軽めの腹筋とスクワットに背筋だけやっているけど。


余り小さいころから鍛えすぎると成長が阻害されるからな。


背を伸ばしたいんだよ、俺は。だって、居るはずの婚約者よりも背が低かったら格好がつかないからな。俺には、今世の人生で童貞卒業が約束されている!だって、貴族の子供だから。ちゃんと子作りしないと怒られるんだよね。


まあ、俺が跡取りになるつもりなんてないけど。できれば追放してくれねえかな。やっぱ、異世界転生してからの追放なんて、チートの約束だし。ちょっと馬鹿なことを考えておかないと、両親からの冷たい目線に耐え切れないからね。


身体に引っ張られて、時々両親に言われたことを思い出して一人の時に涙がこぼれてしまうんだよ。でも、あんな事を言われた原作の彼には同情する。5才児に言っていい内容じゃないし、親が子供に向かって言っちゃいけないセリフだろうに。


貴族だから、あんなモラハラでノンデリ行為が許されんだろうか。俺は、モラハラ&ノンデリな毒親の元に生まれたことを嘆いた。そして、この状況から抜け出すべく、筋トレを始めるのだった。体を鍛えて悪いことは無いし、健康にもいい。あと、筋肉を付けて自己肯定感を育まないと闇堕ちしそうで怖いんだよ。だって、明らかに両親から望まれていない宣言を受けたばかりだよ、この体。


人間は裏切るけど、筋肉は裏切らない!


本当、こんな悲しい教訓てのは、なかなかないと思うんだけど。俺のトホホな二度目の人生が始まった。でも、許可も無く誰かの居場所を奪ってしまったからには天寿を全うして、あの世で俺が人生を奪ってしまった子に対して詫びないといけないから生きねば。

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