第7話 61~70
⇒
きょう、ふの味噌汁なんだ
おかずはしょうが焼き
お母さん張り切って包丁研いでたよ
何のお肉だろ
とても
おいしい
そういえば
お父さん
最近
見てないな
⇒
まつりばやしがきこえてくる
トンカントンカン
やってくる
消えたはずの音たちが
川向こうから絶え間なく
懐かしい時間が
そこにはあると
目を閉じながら
たましいはいく
まつりばやしが去っていく
トンカントンカン
去っていく
⇒
百物語
完成させた人
いますか
どうすれば終わらせられますか
⇒
見えない相手に繋がっている電話
持つ手に絡むはオオムカデ
時代は変わりスマートフォンへ
ムカデはいまだに腕へと巻きつく
次第に上へとあがってきて
耳から頭へ入り込む
そんな妄想を始めたらきりがないね
もう立派な中毒者だ
今日もムカデが這い回る
⇒
知り合いがね
妊娠させられたんだ
望んでなかったのに
相手はね
赤ちゃんいらないって
その子ごと突き落としたの
だからね
その子は
赤ちゃんをその男におくってやったんだ
それでね
お腹が膨らんだそいつを
階段の上から
突き落としたんだよ
かごめかごめ
後ろの正面だぁれ
ざまあみろ
⇒
繋がってしまった。
普通、そんなこと起こらないよ。でも確かに出たんだ。繋がったんだ。
音は聞こえなかった。
繋がったけど、無音だったんだよ。
耳に機体を当てた。一言目の「もしもし」を期待して。誰かの声を、待った。
頭が段々冷えてきて、「間違えました」と言おうとした時、唐突に通話は切れた。
間違えたか。
このグループラインをどうするべきか、もう一度考え直そうと思った。
そうしたらさ、
鳴った んだ。
ラインの通話着信。
画面に出ているのは、
さっき自分が押したアカウントの画像。
出たのに、何も喋らなかった、声の知らない誰かさん。
何回か呼ばれるのを聞いて、考えて、自分は押した。知らない誰かとの通話を、望んだ。
ああ、出なければよかった。
そこにあったのはさっきと同じ無音の時間だった。
「もしもし」
「もしもし?」
何度も声をかけてみた。
反応は、なかった。
使われていないアカウントがそのまま残っているだけなのかも。よくあることだから。
じゃあなんで繋がったんだ?
じゃあなんでかかってきたんだ?
誰が、今、かけているんだ?
通話を切った。
偶然だと思いたい頭と異常事態を察する心臓が同居していた。
グループラインが表示されている画面を見る。まだ、新しいコメントは追加されていない。
いつから始まったのかわからない百物語が、そこではまだ続いている。
早く終わらせたい。早く終わりたい。早くこの繋がりを切りたい。
でも、どうすればいいのか。
そしてまた、
鳴り始めた。
⇒
ビデオ屋とかでふらふら歩き回ってる人、いるじゃん
ずっと何かタイトルを探してる
あれってさ
自分の記憶が入ってるディスクを探してるんだよ
そういう店があるらしいんだよな
自分の「人生」はどこにあるんだろう
⇒
人の記憶を抜き出してディスクに保存してる店があるらしいんだけど
裏で変な機械を使って頭の中から抜き出すの
抜かれた人は店頭に置かれたトクベツなディスクを探し続けて
ほら
あの人みたいに
歩き回るんだってさ
全部忘れられたら楽だろうね
それでもまだ探してる
あなた、だぁれ?
⇒
おーい
おーい
どこからか声が聞こえる
そんな気がする
おーい
おーい
誰の声か
探してはいけないよ
探す必要なんてないのだから
おーい
ほら
頭の裏側から舌が覗いている
⇒
玄関の前に誰かいたんだけど
もう
いない
壁と床と天井に
痕跡だけのこして
消えた
帰ろうとして扉を開こうとしたら
うんともすんとも言わないではないか
開けてよ
開けてよ
誰も開けてはくれないよ
玄関の前に誰かいた
誰かいたんだ
べたべた後ろから音がする
腹を空かせた音がする
⇒
七不思議と都市伝説は世代ごとに更新される
わかるよね?
誰かが種をまいて、みんながそれに水と肥料を与えて育ててる
また新しい種が芽吹こうとしているよ
真っ黒な殻に包まれた恐怖の種子が
それはきっと綺麗で汚れていて穢らわしくも美しい
だって、ミンナで育てたんだから
⇒
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