第11章:僕は、もう一人じゃない

その日、イズミの部屋はいつもと違って感じられた。

以前は単なる意味のない飾りだった多くの物に、今は名前と使い道があった。

机の上には、小さなメモがランプの脇に貼ってあり、「照明をつけるにはここをタップ」と書かれていた。

ドアの近くの壁には、「ハンガー」と書かれた紙。

本棚にさえ、カナさんが小さなマーカーで「教科書の場所」と書き残していた。


イズミは床に座り、今やより「生きている」と感じられる部屋を見渡した。

名付けられた一つ一つの物がまるで彼に話しかけるようで、普段は静かな部屋がそっと語りかけてくるようだった。

彼は手帳を開き、ナツメとカナさんの手書きでほとんど埋め尽くされたページを見た——携帯の使い方、カレンダーの印のつけ方、家のドアの開け方。

その手帳は重く感じられた。紙の重さではなく、まるでゆっくりと理解できるようになり始めた「世界」を内包しているかのようだった。


空が次第に暮れていく中、イズミはあるページのメモを見つめた。


「スイッチを押して部屋を明るくする。」


彼の手がためらいがちに上がり、そのスイッチを押した。

一瞬で、部屋は温かい光で満たされた。

イズミは長い間それを見つめた。

「 …明るい。 」彼は誰に言うでもなく、かすかに呟いた。

説明の難しい、少しの安堵があった。


しかし、一つの物が彼の目をずっと惹きつけていた——パソコン。

机の下にある大きな箱であるPC、モニター、キーボード、マウス…すべてが今は違って見えた。

机の上には小さな紙が置いてあり、こう書かれていた。


パソコンをつけるにはこのボタンを押す。


イズミは椅子に座り、そのボタンを見つめた。

押すとき、心臓が少し速く鼓動した。

ファンが高速で回る音がし、画面が点灯、青白い光を放った。


イシダが今日昼に言ったように、パソコンはいろいろなことに使える——ゲーム、動画、音楽さえ。

イズミは音楽や動画が何なのかわからなかったが、イシダがこの機械で何かをしているときの楽しそうな様子を覚えていた。


イズミは一瞬固まり、それからマウスをゆっくりと動かした。昼間イシダがやったように。

ついに、カーソルがイシダの説明で覚えたアイコンを見つけた——ゲーム、笑わせてくれるものだ。


彼はそのゲームを開き、ロード画面が表示され、ついに広大な世界が画面に広がった。

剣を持ったキャラクターがデジタルの草原に立っている。

イズミがキーボードの矢印キーを操作すると、そのキャラクターは歩き始めた。

イシダが教えてくれた別のキーを叩くと、キャラクターは前に進み、ジャンプし、空中で剣を振るった。

そのキャラクターは方向もなく走り、時々壁にぶつかり、時々水に落ちた。

イシダが言っていた「モンスター」を見つけるためにどこへ行けばいいのかわからなかった。


しかしなぜか、彼は挑戦し続けた。

時計の針は進み、外の空はますます暗くなった。

イズミの部屋はランプとモニターの光だけに照らされていた。

ゲームの中のキャラクターは目的もなく走り続けた。


やがて、イズミの顔に何かが変わった。

小さな微笑みが形作り始め、かすかだが確かに。

多分、このゲームの何が楽しいのか本当に理解していなかったのかもしれない。


ついに彼は一瞬止まった。

道の真ん中にじっと立つ自分のキャラクターを見つめた。


イズミは手帳を取り出し、そっと書いた。


今日、イシダに教わった通りにパソコンをやってみた。


モニター画面のキャラクターは相変わらず方向もなく走り回っている。

イズミはじっとそれを見つめ、指でゆっくりとキーボードのキーを押し、どのキーが攻撃で、どのキーがジャンプかを思い出そうとした。

しかし突然——


ビーッ


聞き慣れない音がして、イズミは動きを止めた。

彼は机の脇でそっと振動する携帯に振り返った。

携帯の画面が点灯し、何かを表示している——


[古典文学部グループ]


イズミは注意深く、まるで壊れやすいものを持つかのようにその携帯を取った。

最初のメッセージを読むとき、心臓が高鳴った。


ナツメ (19:11)

イズミ…何してるの?


イズミは数秒間黙り、その画面を見つめた。

その名前——ナツメ——が胸を温かくさせた。

しかし考えすぎる前に、別のメッセージが来た。


イシダ (19:12)

へえ…ナツメ、寂しいの?


イズミは瞬きし、本当の意味はわからなかったが、メッセージのトーンが軽いと感じた。

それから三つ目のメッセージが来た。


カナ (19:12)

イシダ…!!君の言葉ってフィルターかかってないよね!


イズミはその太字を見て目を少し見開いた。そしてその後——


ナツメ (19:12)

えっと…そういう意味じゃないよ


ナツメ (19:12)

ただ、イズミが今日の昼に私が書いた説明でまだわからないことがあるかどうか試してみたかったから


ナツメ (19:13)

だからここで聞いてみたの


イズミはナツメの言葉に注意を払い、自分がここにいない時にも本当に誰かが見ていてくれるように感じた。


別のメッセージが素早く入った。


カナ (19:13)

聞いた、イシダ?だから悪く思わないでよ


イシダ (19:13)

はいはい…ごめん

—謝るクマのスタンプ —


イズミは長い間そのスタンプを見つめた。

小さなクマがうつむき、「ごめん」と書かれた看板を持っている絵。

彼の心の何かが小さく震えた——

面白い、なぜ笑わなければならないのかわからないのに。


彼は携帯のキーボードに目を戻した。

文字が整然と並び、押されるのを待っている。

イズミはそっと息を吐き、それから打ち始めた…

一つずつ。


ナツメ、カナ、イシダの携帯で、グループのステータスが変わった:

「イズミが入力中…」


長い時間、ほぼ二分かかって、ついに彼は送信ボタンを押した。


イズミ (19:16)

皆に会えないけど、皆がここにいるみたい。

ナツメ、

僕、パソコンでゲームしてる。


イズミは長い間携帯の画面を見つめ、まるで自分の言葉が正しいか確認しているかのようだった。

数秒の沈黙、それから連続した通知音が鳴った。


イシダ (19:16)

わあああ!!!🎮

イズミ、ゲームやってる!!!


カナ (19:17)

え!自分で覚えたの、イズミ??


ナツメ (19:17)

今日の昼、イシダがやってたゲーム?


イズミはたくさんの感嘆符に少し驚いた。

しかし微笑みがゆっくりと浮かんだ。

彼は再び打ち始め、まるで本当に直接話しているように感じた。


イズミ (19:20)

うん。

モンスターがどこにいるかわからなくて、ただ歩き回ってるだけ、多分キャラクターが同じ場所を何度も通ってるみたい。


カナ (19:21)

🤣🤣🤣

イズミ!!それ超可愛い!君が混乱してキャラクターをぐるぐる回してるの想像できる!!


イシダ (19:21)

ははは!!

イズミ、今度ちゃんと道に迷わないように教えるよ!

君のキャラクターを最強にする!💪


ナツメのステータスはまだ入力中だったが、一瞬止まった。

ナツメ(19:22)

イズミ、楽しい?


イズミのステータスが入力中に変わる。

イズミ(19:24)

わからない。

でも、多分楽しい。


数秒の沈黙。

それから、ほとんど同時に:


カナ (19:24)

きゃあ!!🥹

イズミが楽しいって言った!!!

イシダ(19:24)

ははは、君って本当に可愛いなイズミ!

楽しいって言うなら、それは君が感じ始めてる証拠だ!


ナツメ (19:25)

…楽しんでくれて嬉しい。


イズミは長い間そのメッセージを読んだ。楽しいとは何かまだあまり理解していなかったが、イシダが言うように、彼は感じ始めているようだった。

イズミの胸は温かく、見知らぬが落ち着く感覚だった。


イズミは長い間携帯を見つめ、それから小さく微笑んだ。

彼はゆっくりとまた打った:


イズミ (19:27)

ありがとう、助けてくれて。


カナ (19:27)

うわああ!!頑張れイズミ!!!


イシダ (19:27)

今度イズミのゲームプレイ見たいな😂


ナツメ (19:27)

いいスタートだよ、イズミ。ここに書いてくれて嬉しい。


イズミはそっと唇を噛み、それからパソコンの画面を見た。

彼はゆっくりとゲームを閉じ、それからまた打った:


イズミ (19:29)

ゲームやめる。まず手帳に書きたい。


カナ (19:29)

いいね!今日感じたこと全部書いて!


イシダ (19:30)

長く書いたら、後で見せてね!


ナツメ (19:30)

それと、あまり夜遅くまで寝ないで、イズミ。明日も早起きしないと。


イズミはうつむき、今回は指が少し速く動いた。


イズミ (19:31)

ナツメ…明日もメッセージくれる?


そのメッセージで、グループは再び一瞬静かになった。

カナは読みながら息を止め、イシダはただ答えを待った。

それから、


ナツメ (19:31)

うん。メッセージするよ。イズミは一人じゃないよ。


イズミは携帯をぎゅっと握りしめ、それから短く返信した:


イズミ (19:31)

わかった。おやすみ。


カナ (19:31)

おやすみイズミ!


イシダ (19:31)

おやすみ!また明日!


ナツメ (19:32)

おやすみ、イズミ。


会話は止まった。

イズミは長い間携帯の画面を見つめ、小さな微笑みが再び浮かんだ。

彼らからのメッセージはもうない、遠くで別れを告げた合図のように、彼は携帯の画面を消し、枕のそばに置いた。

さっきまで静かだった部屋は、今も三人の声が響いているようだった。


時計は進み続けた。

窓の外からのコオロギの声がそっと聞こえる。

イズミは手帳に書いた:


今日、携帯で彼らと話した。

まるで彼らが部屋にいるみたい。

なんだか…温かい。


彼はそっと手帳を閉じ、もう一度携帯の画面を見た。

グループの最後のメッセージはまだ見えていた:ナツメから。

イズミは携帯を握りしめ、それから穏やかに目を閉じた。


その夜、初めて、彼は顔にほのかな微笑みを浮かべて眠りについた。


/////


朝の陽光が少し開いたカーテンを通して差し込み、部屋の床に明るい筋を描いていた。

イズミはゆっくりと目を開いた。

毎朝のように——頭の中は空っぽ。

まるで自分が今作られたばかりかのようだ。


彼はベッドにゆっくりと座り、目が部屋中を見回した。

この場所…見知らぬ場所だ。

たくさんの物、壁や机やドアに貼られたたくさんの指示。

それらの文字はまるで彼を呼ぶ声のようだった。


「照明をつけるにはこのボタンを押す。」

「毎朝カレンダーに印をつける。」

「机の上の本を読む。」


イズミは一瞬固まった。

これらすべてをする目的は?

しかし一つの名前が頭をよぎる——


ナツメ。


彼はゆっくりと机に近づいた。

その上には、はっきりとした印のついた手帳:

「毎朝これを読む。」


イズミはそのページを開いた。

ナツメの整った手書き文字が、行ごとに紙を埋め尽くしている。

彼自身について。彼が過ごしてきた日々について。

覚えておくべき目標について。


そしてすべての文字の中に、胸に突き刺さるような一つの文があった:


「あなたの目的はあなた自身のため——そして愛する人のため。」


イズミは胸に手を当てた。

その人が誰かまだ知らないが、なぜか心が温かく感じられた。

彼は顔を上げ、今は机のそばにあるカレンダーを見た。

別の指示が書かれていた:


「毎朝過ぎた日に印をつける。これがあなたの意識の鍵。」


イズミは用意されたマーカーを取った。

昨日の日付に太い線を引くとき、左手が少し震えた。

それから今日の日付を見つめた。

これが今日だ。


その気持ちは明らかだった——

ナツメに会いたい。

何かが彼を導いているようだ。


すべてが準備できた、「行ってきます。」イズミは静かに言った。

母はより温かく微笑んだ。

「うん、気をつけてね。」


イズミは家のドアを開けた。

そして外には——


三人が待っていた。

朝日が彼らの影を道に長く伸ばしている。

イズミは戸口に立ち、一人一人を見つめた。

初めて、彼は彼らが自己紹介する前に彼らの名前を呼ぼうとした。


彼は茶色の髪で明るい顔の少年を指さした。

「イシダ…」


それから肩まで届く黒髪でいつも元気な少女を見た。

「…カナさん。」


そして最後に、銀白色の髪の少女に視線を止めた。

「…ナツメ。」


優しい微笑みがナツメの顔に浮かんだ。

「 うん。いいね、イズミ。 」


イシダはくすくす笑った。「へえ、今朝はなかなかやるじゃん!自己紹介し直さなくていいね!」


「 ちゃんと覚えられて嬉しい。 」


イズミはただゆっくりとうなずいた。

言葉は多くないが、心は普段より少し満ちているように感じた。

彼は彼らと一緒に歩き始めた。

今朝は違うと感じられた——

より温かく、より軽やかだ。

そして記憶を失って以来初めて、彼は本当に一日を始めているように感じた。


---


空は晴れ、太陽はまだ暑くなく、柔らかな風が彼らが通る小道を撫でていた。

イズミは真ん中を歩き、イシダは右側、カナさんとナツメは左側にいた。


イシダが先に沈黙を破った。

「ねえ、イズミ。昨日のゲームどうだった?面白かった?」


イズミは一瞬うつむき、今朝手帳に書いてあったことを思い出そうとした。

「 昨日…ゲームした。でも…キャラクターがぐるぐる回って、何も見つけられなかった。 」


イシダは大きくくすくす笑い、声が道いっぱいに響いた。

「ははは!きっとただ目的もなく歩き回ってたんだよ。だから!今日の夕方、また君の家に行くよ。正しい遊び方教えてあげる。」


イズミは一瞬足を止め、無邪気な顔でイシダを見つめた。

「 また来てくれるの? 」

「そりゃあ!でも今度は男同士限定。」

「 男同士…限定? 」

イシダは大げさにうなずいた。

「ああ。女はダメ。男同士の秘密のセッションだ!」

「はあ、何言ってんの。そんなに秘密にすることあるの?」

「だってさ…イズミに男のゲームのやり方教えたいんだよ。君が来たら邪魔だし。」

「私?邪魔?イシダってば…」


ナツメはただ小さく微笑みながらイシダとカナさんの口論を見つめ、それからイズミを一瞥した。

イズミはまだ彼ら全員を見つめ、本当にその会話に注意を払っているようだった。


「ほら見て。イズミが笑えるようになってきた。」

「 うん…私も見てる。イズミ、だんだん変わってきてる。 」

「成功してるってこと?」

「 まだ完全じゃない…でも大きな一歩だと思う。 」


イズミは二人を交互に見つめ、彼らの意味を完全には理解していなかったが、なぜか胸が温かく感じられた。


「とにかく今日の夕方、準備しとけよな。君のキャラクター、めっちゃ強くするから!」

「 …わかった。 」


彼らは学校が見えてくるまで歩き続け、今朝の空気はより軽やかに感じられた。

イズミの足取りさえ、普段より少し速く——まるで本当に学校に着きたい、彼らと一緒に。


(第一部・了)

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