第3章:銀髪の少女
教室はいつものようにざわついていた。イシダは難なくイズミを自分の席へと導いた。「ほら、ここだよ、イズミ。また忘れたら、俺の後ろだって覚えとけよ」
彼らが通り過ぎると、窓際にいた数人の女生徒が突然静かになった。彼女らの視線がイズミを追い、それから意味深そうに顔を見合わせた。一人が髪のリボンの位置を直す。
「おはよう、イズミくん!」
隣にいた友達数人が笑いをこらえ、肩を小突き合った。
イズミはただ自分の席を見つめ、ゆっくりと座った。そのせいで、少女の微笑みは少し曇った。
「またクールモードだわ」と一人が囁いた。
「でもやっぱりかっこいいよね…」
イシダは苦笑いしながら首を振った。「もう、からかうなよ。機嫌悪いんだから」
イズミは座った。彼の視線は窓の外を虚ろに通り抜け、心はまださっきの廊下に残っていた。周囲の囁きや笑い声は空中を漂い、彼にとって何の意味も持たなかった。
ただ、胸の中に微かな鼓動を感じる。あの少女は誰だ?なんで…こんなに違う気がする?彼女があのナツメなのか?
その名前が再び胸を刺し、周囲の教室の喧騒をすべて消し去った。
授業中、イズミはただ半分無意識にメモを取るだけで、頭から銀髪の少女の姿が離れなかった。
胸が高鳴る。見知らぬ感情が育ち、強い衝動が湧く。今すぐ立ち上がり、歩き出し、できるだけ早く彼女を見つけたい——そんな衝動。しかし、足は動かない。見えない糸に縛られているかのように。周囲を見渡す——真剣に書き込むクラスメイト、小さく笑う者たち——本能が囁く:今はまだ早い。
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休憩のベルがついに鳴った。騒々しい音がすぐに教室を満たし、椅子がきしみ、ドアが開き、笑い声と足音が混ざり合った。しかしイズミはまだ椅子に凍りつき、机を虚ろに見つめていた。
「イズミ」と明るい声がした。振り返ったイシダが頭をかきながら言う。「ごめん、今日またサッカーの試合があるんだ。だから待ってて——それとああ…試合が終わったらパン買ってくるから…待っててよ…」
イズミはわずかに顔を上げただけ。イシダは短く微笑み、手を振って別の生徒と一緒に教室を出て行った。
再び静けさがイズミを包んだ。ゆっくりと気づく——何人かの生徒はもう教室を出かけていた。体が動き出すが、足は食堂へではなく。強い衝動が彼の中にあり、抗えない何かが。彼女を探さなければ。
イズミはためらいながら階段を下りた。思い出そうとする——あの教室…さっきの廊下の…銀髪の少女がいたあそこ。心臓は激しく鼓動し、手が震えながらその教室のドアを押した。
中の数人の生徒がぱっと振り向き、他のクラスの者が突然入ってきたのに驚いた。
イズミは戸口に硬直して立った。目が部屋中を掃う。机の列、お弁当を開く生徒、困惑して見つめる者たち——しかし探している姿はなかった。
彼はしばし黙り、やがて顔を背けた。何も言わず、再び歩き出した。
長い廊下が彼を迎えた。窓から差し込む陽光が、舞う埃をはっきりと見せた。イズミはぼんやりと立っていた。どこへ…?体は空虚に感じるが、何かが導いている。かすかな本能——別の方向へ。
足が独りでに動き、階段を再び上り始めた。別の廊下に曲がり、歩調は次第に速くなり、ほとんど走り出さんばかりだった。
そして階段の曲がり角で——
「えっ!?」
——誰かとぶつかりそうになった。
目の前に立っていたのは、あの少女だった——光に照らされてきらめく長い銀髪、薄いピンク色の瞳が今しがた彼を見つめていた。時間が止まったかのようだ。廊下の足音、他の友達の笑い声、すべてが突然消えた。
イズミは言葉も出ずに彼女を見つめた。しかし少女はすぐにうつむき、前髪が顔の半分を隠した。両手が上がり、何かを抑えようとするかのように胸を押さえた。肩が微かに震えた。
通りかかった数人の生徒が一瞬止まり、興味深そうに見つめた。しかしイズミにとって、世界は彼ら二人だけになった。
長い沈黙が時間を奪った。イズミの息は荒い。話したいが、舌が回らない。ただその視線だけが少女から離れない。そして…かすかに、彼女の頬がきらめくのが見えた。
イズミの目が見開かれた。体は硬直したが、感情は激しく震えた。今まで感じたことのない何かに打たれたかのようだ。息がさらに苦しくなった。
ついに、震える声で、口を開こうとした。「…なぜ…泣いているの?」
銀髪の少女はすぐには答えなかった。体が少し揺れ、うつむいた頭が素早く横に振られた。声は優しく、風に吹き飛ばされそうなほどかすかだった。
「 …わからない 」
イズミは黙った。心臓が激しく鼓動するが、足は一歩後退した。まるで距離を置けば息ができるかのように。
「なぜわからないの…?」彼自身の声は見知らぬもののように、虚ろに響いた。「…僕もわからない」
少女ははっとした。うつむいていた頭が突然上がり、二人の視線が合った。薄いピンク色の瞳は涙で潤み、説明の難しい何かで満ちていた。そしてゆっくりと体が再び震えた。再びうつむき、肩が震え、小さな声が漏れた——
「 …うっ…ひくっ… 」
涙がこぼれ落ちた。壊れやすく軽やかで、風に吹かれて裂ける綿のような音だった。
イズミは再び後退し、その涙を見て目が震えた。喉は乾き、言葉は途切れ途切れに出た。
「泣かないで…」
少女は両手を上げ、顔を覆った。指先がぎゅっと握られ、声は手のひらに消えた。
「…私…わからない…なぜ…」
頭を何度も振り、涙はさらに深くなった。時間はさらに遅く感じられた。廊下は重い静けさに飲み込まれた。窓からそっと風が入り、銀髪をゆっくりと揺らした。イズミはただ硬直して立っていた——しかし視線は、目の前の脆い存在から離れない。
周囲の世界の音はかすみ、廊下は学校の喧騒から切り離されたようだった。遠くの生徒の足音は影のように、かすかで無意味に聞こえるだけ。残ったのはイズミの不規則な鼓動と、目の前の銀髪の少女の小さなすすり泣きだけだった。
イズミの唇が動き、声は詰まりながらもついに出た。
「…わからない…けどさっきから…君を探したい気がする」
少女はまだ両手で顔を覆っていた。指がゆっくりと下り、目はまだ潤んでいる。袖の端を引っ張り、適当に顔を拭った。肩は震えているが、涙の向こうに同じ何かがある——内側から迫る見知らぬ感覚。
「…私も…同じことを感じてる…」声はかすれ、優しく、いつでも壊れそうだった。
イズミは黙った。その言葉が染み込み、胸を圧迫した。そして突然、単純な疑問が唇から自然に出た。ぎこちないが、本能の衝動に満ちていた。
「…知りたい、君の名前…何?」
少女はうつむき、声はかすかで、ほとんど囁くように——
「 …な、ナツメ 」
イズミははっとした。何かが体の中で激しく震え、果てしなく続く暗闇に光の隙間を見つけたかのようだった。その名前——今まで胸を圧迫していた名前が…温かい。
目を見開き、心の中で繰り返すしかなかった:ナツメ…
ナツメはゆっくりと顔を上げた。目は赤く、濡れているが、それでもイズミをまっすぐ見つめた。そこには恐れと安堵が混じっていた。
「 …あなたの名前は? 」震える声で尋ねた。
イズミは一瞬黙り、それから重い息とともに答えた——
「…イズミ」
少女は再びうつむいた。手が袖の端をぎゅっと握りしめ、新しい涙がそこに落ちた。静けさが二人を包んだ。もう言葉はなかった。
階段の上で、時間が止まったかのようだった。彼らはただ立っているだけだった。窓からの柔らかな光、そよぐ風、永遠に感じられる静かな瞬間に囲まれて。
なぜか、イズミは去りたくなかった。何を話せばいいかわからなくても、胸がこんなに苦しくても、ただここにいたい——ナツメという少女と一緒に。彼女の細やかな動き、ためらいがちでほとんど確信のない動き——それでもイズミは一つ一つを見つめ、まるで世界が彼と少女だけになったかのようだった。彼の目は瞬きせず、ナツメの細部を一つも逃さぬよう必死だった。
それから、注意深い動きで、ナツメは腰の小さな鞄に手を伸ばした。中から、淡いピンク色の柔らかな表紙の小さなノートを取り出した。まだ震える指先が、それを宝物のようにしっかりと握った。
イズミを一瞬見つめ、それから小さな声が——優しく、しかしはっきりと——聞こえた。
「…イズミ…あなたはここに…何組?」
その言葉——クラス——はイズミに馴染みがなかった。眉を少しひそめ、唇を閉ざし、何と答えればいいかわからない。しかし、言葉を発することなく、手がさっき通った教室のドアを指さした——階段のすぐ横に。
ナツメはその指先の方向を見て、小さくうなずいた。「じゃあ…2年A組…」声はかすかで、まるで自分自身に言い聞かせ、忘れないよう確かめているかのようだった。
小さなノートを胸に一瞬抱きしめ、それから少し低い声で付け加えた。「…私…1年C組」
イズミはただ黙って聞いていた。1年C組、その言葉を頭に刻もうとした。ナツメの声を聞いて、胸に温かい何かを感じる。
ナツメは少し顔を上げ、赤い目が再びイズミの視線と合った。そこにはかすかな勇気があった。肩はまだ震えているが。
「もっと…あなたのことを知りたい…」一瞬止まり、指先がノートの表紙を握った。「…でも…誰かが待ってるの」
イズミはナツメの言いたいことがわからなかったが、気持ちがナツメがもう行くと言っていた。イズミはもう一度話そうとしたが、舌が回らなかった。
ナツメはゆっくりと息を吸い、自分を落ち着かせるかのようだった。「…私の名前を覚えて」
その言葉がイズミの耳に柔らかく刺さり、胸をさらに高鳴らせた。ナツメは一瞬彼を見つめ、それから小さくお辞儀をした——礼儀正しいが、遠く感じられる——それから振り返り、歩き去った。
イズミは動かなかった。目はナツメの一歩一歩を追い、彼女の姿が廊下の突き当たりに消えるまで。足音がもう聞こえなくなって、初めて、イズミはさっきから息を止めていたことに気づいた。
彼は長い間その場に立っていた。廊下は再び行き交う生徒の声で満たされたが、すべてはガラスの向こうのように遠く聞こえた。残ったのはナツメの声の反響と、去っていく時にゆっくりと動く銀髪の影だけだった。
胸は空虚で、同時に温かかった。初めて、その空虚さが…違って感じられた。
非常に長い間立った後、ついに本能が再び振り向くことを決めた。歩みは重かったが、階段を下り始めた。頭は混乱していたが、一つのことが頭を離れなかった:ナツメの影、光に照らされる銀髪、きらめく赤い目、自分の名前を覚えておいてほしいというかすかな声。
しかし今、この瞬間、彼は覚えておこうと決意した。たとえ今日だけでも。
目をゆっくりと閉じた。
「…ナツメ」
その名前をそっと呟き、まるで空気に書きつけるかのように。
窓の外、陽の光が薄いカーテンを通り抜け、イズミの顔を照らした。一瞬、世界は完全に空虚ではないと感じられた。
しばらくすると、廊下から慌ただしい足音が聞こえた。
「イズミー!」
イシダが息を切らして慌てて入ってきた。汗がこめかみを濡らしていた。制服は少しくしゃくしゃだった。
イズミはゆっくりと振り返り、無表情で、ただ困惑してイシダを見つめた。なぜ彼はそんなに慌てているのだろう?
イシダは素早くイズミの机に歩み寄り、何か——パンの包み——を差し出しながら笑った。
「はぁ——はぁ…また勝った…!」
すぐにイズミの前の椅子に体を投げ出し、うつむきながら額を拭った。「やばかった、うちのチームあやうく点取られるとこだった…最後の分でゴール決められてよかった」
イズミはただ見つめていた。イシダの言葉は遠く感じられたが、ゆっくりと思い出した——今朝、イシダは確かに試合が終わったらパンを買ってくると言っていた。目が机の包みに下りた。
唇が一瞬開いた——ありがとうと言いたかった。しかしイシダの今朝の声が頭に響いた:「そんなことばっかり言ってたら、誤解されるぞ、わかるか?」
イズミは黙った。その言葉でまた口を閉ざした。ただ長い間その包みを見つめ、何をすればいいかわからなかった。
イシダは頭を上げ、その困惑した表情を見て、小さな笑いが唇から漏れた。
「ああ、また何したらいいかわかんないんだ」
返事を待たず、イシダはその包みを取り、簡単にビニールを破り、イズミの方に戻した。
「ほら。食べろよ。お前一人じゃ絶対何も買わないんだろ」
イズミはゆっくりとそのパンを受け取った。一瞬それを見つめ——優しい甘い香りをかぐ。それからゆっくりと一口かじった。
「よし。お前がまた腹減って倒れたら、俺が面倒見なきゃなんないからな」
イズミは反応しなかった。ただゆっくりと噛み、視線はまだ虚ろだったが、何かが違う——まるで頭が別の場所に浮かんでいるかのように。
その日は再び静けさと共に過ぎた。授業の声はイズミには遠く聞こえた。なぜなら銀髪の影がいつも頭に浮かび、学校が終わる頃には胸が再び震え、ナツメの方へと引っ張られる何かを感じたからだ。
授業が終わると、イシダが待ちながら立った。「よし!帰るか?」軽く言い、大きく笑った。
「帰る?」イズミはその言葉を繰り返し、困惑した。
イシダは小さく笑い、うなずいた。「ああ、帰る。家まで送るよ。いつも通り」
教室の隅で、数人の女生徒が彼らをちらりと見ながら囁いた。
「見て…イシダ、またイズミと一緒に帰れるんだ」
「イズミってみんなに冷たいのに」
「イシダだけが近づけるみたい」
イシダはその声を聞いたが、ただ肩をすくめてくつろいだ笑みを浮かべた。「さ、イズミ。長くいたら、お前ここでぼーっとして学校が閉まるまでいるぞ」
イズミはもう一度廊下を見つめ、何かを探すかのようだった。ナツメ…なぜか、まだ彼女を探したい衝動がある。しかし、イシダの足はもう教室を出始めていた。
イズミはイシダについていったが、一歩一歩が重く感じられた。頭の中には、ただ一つの言葉が渦巻いていた。
それって…覚えてること?
---
翌朝、イズミは空っぽの頭で目を覚ました。でも今回は…何かが違っていた。
ナツメという名前だけでなく、今回は銀白色の髪の少女の影が頭に浮かんだ。
誰?
でもそれ以外に頭の中には何もなかった。
学校へ向かう道、彼はただイシダについていくだけだった。歩みは遅かった。
彼らは二階へ続く階段を上った。朝の光が窓から差し込み、床に反射し、行き交う他の生徒たちのシルエットを作り出した。
ついに、教室の前に着いた。
突然、イズミの足が止まった。胸が激しく鼓動した。
そこに、銀白色の髪の少女が立っていた。陽の光が彼女の肩に落ち、髪をかすかにきらめかせていた。彼女の視線は優しく、少しためらいがちだったが、二人の視線が合った時——時間が止まったかのようだった。
「ナツメ…」
ナツメは唇を噛み、それから小さな声で、ほとんど囁くように言った。
「…あなた…私の名前を覚えてる」
イズミは黙った。「覚えてる?」その言葉は見知らぬものだった。でもそうだ——彼は覚えていた。ナツメ。どうしてそんなことが可能なのか?
そしてなぜ…目の前の少女はこんなにも安堵しているのか、まるで長く失われていた何かを見つけたばかりのように?
ナツメはうつむき始めた。両手が胸を押さえ、指先が制服の布をぎゅっと握りしめ、見えない何かを抑えているかのようだった。
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