真面目な女子が、俺にだけ“バグった返事”をする理由

nco

第1話 完璧な優等生の、完璧じゃない返事

 昼休み。


 黒板の前でノートをまとめている女子がいた。


 白井雪(しらい・ゆき)。


 真面目、清楚、学年トップ。


 誰が見ても“模範的な優等生”。


 なのに──俺にだけは、返事がおかしい。


「白井さん、それ昨日のプリント……」


「はい。光学的に正しいですね」


「……は?」


「ごめん、間違えた。


 ええと……正しく、ない……です。はい」


 言い直しても謎だ。


 しかも、途中でワンクッション置く癖がある。


「光学的に正しいって何だよ」


「……ふふ。わかりません」


「お前が言ったんだろ!」


 なのに笑う。


 その笑顔も妙に“テンプレっぽい”。


 他の誰かに話している時の彼女は完璧だ。


 質問に即答。


 文脈もズレない。


 声のトーンも一定。


 クラス全員の“正解”になるような返事しかしない。


 なのに、なぜか俺にだけ、毎回こうなる。


(……なんなんだ、この人)


 その日の放課後、


 図書館で再び彼女と遭遇した。


「あ、白井さん、この問題──」


「はい。倫理的には正しいと思います」


「数学の問題で倫理出すな」


「ごめん……落ち着く……。ちゃんと……考えるから」


 “落ち着く”という宣言の時点で落ち着いてない。


 目だけ俺を追って動く。その視線が、どこか過剰だ。


 俺以外に見せる“完璧な彼女”と、


 俺にだけ露出する“壊れかけた返事”の差が大きすぎる。


「白井さんってさ」


「はい(0.8秒遅れて)」


「俺にだけ……なんか変じゃない?」


「正しくない、ですよね……ふふ。困ります」


 小さく笑いながら、


 “正しい返事の仕方”を探すように沈黙する。


 どう見ても、


 俺に対してだけ“バグってる”。


 ただの天然とか、人見知りとか、そういうレベルじゃない。


(これは……なんだ?)


 その疑問が、だんだん不安に変わっていく。


 白井雪は完璧なのに。


 完璧だからこそ──俺にだけ見せてくる破綻が、異様だった。

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